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SACLA Users’ Meeting 2025

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大和田 成起 OWADA Shigeki

所属機関 Affiliation

公益財団法人 高輝度光科学研究センター XFEL利用研究推進室 XFEL Utilization Division, JASRI

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22 SPring-8/SACLA/NanoTerasu Information /Vol.1 No.1 JUNE 2025 803,S)0P AN% C0..ITTEE 3EP03T 公益財団法人 高輝度光科学研究センター XFEL 利用研究推進室 大 和 田 成 起 SACLA Users’ Meeting 2025 1.はじめに 2025 年 3 月 3 日および 4 日の 2 日間にわたり、 SACLA Users' Meeting 2025 が開催された。本年も昨年に引 き続き対面形式 (一部 Zoom によるオンライン講演) による開催となった。国内外の大学や研究機関、企 業から約 80 名が参加し、 2 日間の会議を通して、最 新の SACLA の性能に関する情報共有や、 XFEL 利 用研究の現状や将来のあり方に関する活発な議論が 行われた。 図1.集合写真 2.会議の内容 まず、理化学研究所放射光科学研究センターの 石川哲也センター長および SPRUC XFEL 利用研究 会代表の米田仁紀教授(電気通信大学)による開 会挨拶をもって、本年の会議がスタートした。ま ず初めに行われた “ Facility Session ” では、 SPring-8/ SACLA を取り巻く国内外の情勢や、 SACLA の利 用 研 究、 硬 X 線 FEL ビ ー ム ラ イ ン( BL2 ・ BL3 ) 、 軟 X 線 FEL ビームライン( BL1 ) 、光学レーザーシ ステムの高度化、新型検出器開発の現状などについ て報告された。 続いて、 2024 年度の SACLA/SPring-8 基盤開発プ ログラムセッションが行われた。本セッションで は、 2024 年度に採択された提案課題のうち、 「採択 I 」 として研究開発予算が割り当てられた 5 課題の進捗 報告が行われた。池田暁彦准教授(電気通信大学) からは、超強磁場発生装置 PINK02 の開発状況と SACLA での実験結果が報告され、安定的に 110 テ スラの磁場強度を生成し、合計 13 ショットの X 線 回折データの取得に成功したことが報告された。続 いて川上恵典博士(理化学研究所) の講演では、 X 線結晶構造解析と X 線発光分光を組み合わせた、金 属含有タンパク質結晶の構造解析・反応追跡システ ムの開発状況に関する報告が行われた。本課題で ターゲットにしている光化学システム II における反 応追跡は、国内外を問わず活発に研究が行われてお り、多くの研究グループが競い合っている分野の一 つである。本課題で開発されているシステムを利用 した成果が今後期待される。南後恵理子教授(東北 大学)からは、温度制御機能を持った試料インジェ クタの開発に関する報告があった。これまで、シ リアルフェムト秒結晶構造解析( serial femtosecond X-ray crystallography; SFX )では、光励起によって 進行する様々な生体高分子の反応機構を解明してき たが、そのような生体高分子は限定されており、光 に代わる反応トリガーの開発が課題となっていた。 本課題によって、温度変化をトリガーとした酵素反 応などの分子動画観測が進むことが期待される。本 セッション 4 人目となる Bo Brummerstedt Iversen 教授( Aarhus University, Denmark )からは、 SFX を 単位格子の小さい材料科学系試料に適用し、精密構 造解析を行った結果が紹介された。現在 SACLA で 整備が進められている大型検出器 CITIUS 20.2M の 試験的な利用実験ということもあり、参加者の関心 が高かったように思う。本セッション最後となる 5 人 目 の 講 演 は、 Bruno Albertazzi 博 士( Laboratoire pour l'utilisation des lasers intenses, France ) か ら の、 大出力ナノ秒レーザーと強磁場発生装置を組み合 わせた実験プラットフォーム開発に関するもので SPring-8/SACLA/NanoTerasu 利用者情報/Vol.1 No.1 (2025 年 6月号) 23 研究ձ౳報ࠂ あった。このプラットフォームは特に核融合や天 体物理学の分野での利用が期待され、真空チャン バー内で 10 テスラ以上の磁場強度を達成した実験 結果について報告があった。いずれの課題において も、 SACLA 独自の実験基盤装置の開発が進められ ており、今後も施設側と利用者側が密に連携して SACLA の性能を最大限に活用することが重要であ る。本プログラムでは毎年度課題募集が行われてい るので、ぜひ応募の検討をお願いしたい。 第一日目最後のセッションでは、 SACLA 加速器 高度化に携わっている岩井瑛人博士( JASRI )から、 加速器のアップグレードに関する報告が行われた。 BL2 と BL3 の電子ビームの独立制御や、様々な電 子ビーム /XFEL 診断機器を用いた機械学習的手法 により高品質 XFEL パルスの提供が可能になったこ となどが発表された。また、電子バンチ圧縮技術の 開発や、 X バンドディフレクターを用いたバンチ長 モニターの開発など、将来の加速器の高度化につな がるプロジェクトについても触れていた。そして続 く質疑応答では、参加者から「 SACLA の強みは利 用者とビームラインスタッフだけでなく、利用者と 加速器スタッフとの強い結びつきにある」との発言 もあり、利用者、ビームラインスタッフ、加速器ス タッフの 3 者を交えた活発な議論が行われた。 第二日目にはブレイクアウトセッションとして、 午前に 2 つ( 1A/1B )と午後に 2 つ( 2A/2B )の、合 計 4 つのテーマのセッションが開催された。午前中 のセッション 1A は、主に生物・化学分野を中心に 利用されている液体試料輸送システムに関するセッ ションで、 SACLA で基盤開発プログラムなどを通 じて開発されたテープドライブ装置や二液混合イン ジェクタ、マイクロ液体封入セルや液体ジェット装 置などの紹介と、その応用展開をテーマとした議論 が行われた。セッション 1B は、実験中のデータ収 集・処理や実験機器の制御環境に関するものであっ た。 SACLA における Python ベースの API 等、デー タ取得・ハンドリング環境整備状況や、それらを活 用して科学的成果を最大化するための方策について、 海外の XFEL 施設の例も交えた議論が行われた。 午後にはセッション 2A として、 SACLA で利用 されている様々なフェムト秒レーザー光源のなかで も、とくに高強度 THz 光源とその利用に関するセッ ションが設けられた。 SACLA では、これまでの大 気プラズマ法に代えて、 有機結晶を利用した高強度 ・ 広帯域 THz 光源と、その利用実験環境の開発が進 められている。本セッションでの議論をもとに、今 後の THz 利用実験が促進されることが大いに期待 される。セッション 2B では、高分解能の間接型 X 線画像検出器の開発やその利用をテーマとした議論 が行われた。 SPring-8/SACLA で開発された間接型 X 線画像検出器 DIFRAS の紹介や XFEL インライン ホログラフィへの応用、 LiF 結晶検出器を用いた実 験の報告などがあった。さらに、ユーザーのニーズ として真空内試料の高空間分解能イメージングが提 案されるなど、今後の検出器開発の方向性について 活発な議論が交わされた。 第二日目の最後には、昨年同様に SACLA 利用研 究課題審査委員会( PRC )の委員長でもある米田仁 紀教授から、 PRC から利用者へ向けたメッセージ が述べられた。 最後にポスターセッションについて報告しておく。 昨年に引き続き今回もポスターセッションが設けら れ、施設報告や利用者から合計 13 件のポスターが 掲示された。そしてポスターセッションの時間にな ると多くの参加者で賑わいを見せ、やはりここでも 利用者、ビームライン担当者、加速器担当者が密接 に結びつく SACLA ならではの光景を見ることがで きた。 図 2 .ポスターセッションの様子 24 SPring-8/SACLA/NanoTerasu Information /Vol.1 No.1 JUNE 2025 803,S)0P AN% C0..ITTEE 3EP03T 3.まとめ SACLA Users' Meeting は、利用者と施設および 利用者間の情報共有と意見交換を主な目的として開 催され、今回で通算 10 回目の開催となる。本ミー ティングでの利用者からの要望に対する施設側の対 応や、施設側からの情報を活かした SACLA 利用研 究の展開などの情報は、ホームページ等で随時公開 される予定である。今後も SACLA Users' Meeting は開催される予定となっている。次回の開催ついて は詳細が決まり次第、 SACLA のホームページ ( http:// xfel.riken.jp )などで情報が公開される予定である。 今回の SACLA Users' Meeting も盛況のうちに終 えることができたのも、国内外の多くの利用者が参 加し、活発な議論をしたことに尽きると思われる。 ここに SACLA Users' Meeting 2025 に関わった皆様 に厚く御礼を申し上げる。 大和田 成起 OWADA Shigeki (公財)高輝度光科学研究センター XFEL 利用研究推進室 〒 679 - 5198 兵庫県佐用郡佐用町光都 1 - 1 - 1 TEL : 0791 - 58 - 0992 e-mail : osigeki@spring 8 .or.jp