第7回特定放射光施設BLsアップグレード検討ワークショップ報告
Brief Report of SpRUC 7th Workshop on BLs Upgrade
執筆者情報
所属機関 Affiliation
[1]特定放射光施設ユーザー協同体(SpRUC)/国立研究開発法人物質・材料研究機構 マテリアル基盤研究センター、[2]熊本大学 理学部 理学科 物理学コース、[3]兵庫県立大学 理学部 光物性学分野
本文
SPring-8/SACLA/NanoTerasu 利用者情報/Vol.1 No.1 (2025 年 6月号) 25 研究会報ࠂ 特定放射光施設ユーザー協同体( SpRUC ) 国立研究開発法人物質・材料研究機構 マテリアル基盤研究センター 永 村 直 佳 熊本大学 理学部 理学科 物理学コース 水 牧 仁 一 朗 兵庫県立大学 理学部 光物性学分野 田 中 義 人 第 7 回特定放射光施設 BLs アップグレード検討ワークショップ報告 バラエティに富んだ内容となっています。 本 WS には、 204 名(現地: 61 名、オンライン: 143 名)が参加しました。東京マラソンも開催され た週末で NanoTerasu の共用 BL 利用開始 2 日前とい う多忙な時期にも関わらず、多くのユーザー・施設 関係者が参加し、対面では深く白熱した議論が繰り 広げられました。 2.セッション 1 オープニング オ ー プ ニ ン グ セ ッ シ ョ ン で は、 藤 原 明 比 古 SpRUC 会長( 写真 1 )より挨拶がありました。主 催者として、 SpRUC 立ち上げの経緯、活動の方向性、 新しくなった本 WS の役割および概要、目標を説明 されました。 続いて、 JASRI 雨宮慶幸理事長( 写真 2 )より挨 拶が行われました。本 WS の立ち位置は時代に合わ せて変遷しつつも、引き続き施設とユーザーの良好 な連携を促進する役割への期待を述べられました。 また、 3 月 3 日からの NanoTerasu 共用 BL 利用開始 と 4 本目の共用 BL 整備予定についても言及があり ました。 1.概要 第 7 回特定放射光施設 BLs アップグレード検討 ワークショップが、 2025 年 3 月 1 日(土) ・ 2 日(日) に 秋 葉 原 UDX ギ ャ ラ リ ー NEXT に お け る 講 演 と Zoom を利用したオンライン配信にて開催されまし た。本ワークショップ( WS )は、昨年度に SPRUC 第 6 回 BLs アップグレード検討ワークショップとし て開催していたものが、 SPring-8 ユーザー協同体 ( SPRUC )と NanoTerasu ユーザー共同体( NTUC ) が 統 合 し た 新 体 制「 特 定 放 射 光 施 設( SPring-8/ SACLA/NanoTerasu ) ユ ー ザ ー 協 同 体( SpRUC ) 」 下で継承・発展したもので、両ユーザーコミュニ ティ融合後初のイベントとなりました。本 WS の目 的は、 ( 1 )旧 SPRUC 体制で行われてきた、これま での WS や SPring-8 シンポジウムの議論を踏まえた、 それ以降の技術開発動向やビームライン( BL )アッ プグレードの具体的なプラン及び検討事項の共有、 ( 2 ) SPring-8-II に向けた今後の継続的な BL アップ グレードについての議論、 ( 3 ) NanoTerasu の整備 状 況 の 共 有、 ( 4 ) SPring-8-II と NanoTerasu の 相 互 利用や戦略的活用に関する方策についての議論、と 写真 1 SpRUC 藤原明比古会長 (関西学院大学) 写真 2 JASRI 雨宮慶幸理事長 写真 3 文部科学省科学技術・ 学術政策局研究環境課 野田浩絵課長 写真 4 JASRI 坂田修身常務理事 写真 5 JASRI 薮内俊毅氏 26 SPring-8/SACLA/NanoTerasu Information /Vol.1 No.1 JUNE 2025 803,S)0P AN% C0..ITTEE 3EP03T 次に、文部科学省科学技術・学術政策局研究環境 課の野田浩絵課長( 写真 3 )から来賓挨拶をいただ きました。 SpRUC 設立への祝辞とともに、産学と もに新たな利用分野の呼び込みが重要であり、施設 のポテンシャルを引き出すためには、ユーザーによ る活発な議論が重要であるとのご意見をいただきま し た。 SPring-8 、 SACLA 、 NanoTerasu の 3 施 設 の 高度化とユーザーの成果の好循環への期待について も述べられました。 続いて、 JASRI 坂田修身常務理事( 写真 4 )より SPring-8 の近況サマリーについて報告がありました。 2024 年度~ 2028 年度の SPring-8-II 整備に対する予 算措置が進んでおり、 SPring-8-II に向けた加速器技 術開発をはじめ、超高安定分光光学系や超高エネル ギー光学系の導入などによる BL 機関部の高性能化 といった取り組みが紹介されました。また、ネット ワークや制御システムの高度化、データセンター運 用などの情報技術推進、利用制度の改正といったソ フトインフラ整備について報告されました。ポート フォリオを意識した BL 再編を進め、各ビームライ ンの大規模改修・高効率化により、産学連携の推進 とユーザー目線での利用しやすさの追求を目指すこ とを説明されました。 本セッションの最後には、 JASRI 薮内俊毅氏( 写 真 5 )より SACLA の近況サマリーについて報告が ありました。まずは X 線自由電子レーザーの光源 特性とその活用事例から解説があり、今後の方向性 として、テーラーメイド光源の実現や有力な利用 展開案について説明がありました。研修会や Users ’ Meeting の開催を通して、利用者コミュニティーと 施設の連携強化やコミュニティー拡大に取り組んで いることが報告されました。 3.セッション 2 アップグレードを完了した BL に 関する現場と利用者からのフィードバック セッション 2 として、昨年度アップグレードを 完了した BL に関する現場と利用者からのフィード バックが行われました。現在、 BL04B2 と BL39XU の 2 つの BL のアップグレードが完了しており、ユー ザー利用に供されています。一方 BL40XU はアッ プグレードを行なっている段階で、 2025 年 10 月よ り共用開始が予定されています。 はじめに、 JASRI 山田大貴氏 ( 写真 6 ) から BL04B2 のアップグレードについて、特に、新規導入された ハイスループット PDF (二体分布関数)測定装置 が紹介されました。本装置を用いることで、従来と 比べて最大 100 倍の高速化に成功しており、この高 速化は新型二次元 CdTe 検出器による高速・高統計 測定システムの実現やサンプルの自動交換によるも のとの説明がありました。次に東京大学・脇原徹氏 ( 写真 7 )より、このシステムを用いた研究成果を 紹介いただきました。ゼオライトの高機能化を行う ためにはゼオライトの生成機構を原子レベルで理解 することが必要不可欠ですが、その原子レベルでの 構造解析を BL04B2 で多くの試料について迅速に行 うことで生成機構を明らかすることができ、高機能 化へ寄与する研究を報告いただきました。本研究を 通して BL04B2 の新システムの威力についてアピー ルされました。 次に JASRI 河村直己氏( 写真 8 )から BL39XU の 写真 6 JASRI 山田大貴氏 写真 7 東京大学 脇原徹氏 写真 8 JASRI 河村直己氏 写真 9 大阪公立大学 三村功次郎氏 写真 10 JASRI 関口博史氏 SPring-8/SACLA/NanoTerasu 利用者情報/Vol.1 No.1 (2025 年 6月号) 27 研究会報ࠂ アップグレード完了後の状況、特に実験ハッチ 2 の X 線発光分光装置について紹介がありました。測定 時の微小試料に集光した X 線を照射する位置決め の困難さを蛍光マッピングすることで克服し、ス ムーズな測定を実現したことが紹介されました。ま た、ユーザー利用においては、 X 線発光分光装置の 利用が大半を占めるユーザー利用状況が示されまし た。その後、大阪公立大学・三村功次郎氏( 写真 9 ) より、上記の位置決めのスムーズさによる実験の効 率化や共鳴光電子測定との同一場所での測定が可能 になったことについてご紹介いただきました。また 入射偏光を制御することにより、 4f 希土類元素の固 体内での電子基底状態が詳細に観測できることを説 明いただきました。 最後に、 JASRI 関口博史氏 ( 写真10 ) より BL40XU のアップグレードの現状が説明されました。アップ グレード後は小角散乱専用ビームラインへと変更さ れます。光学系の主な変更点は、 ID を SPring-8-II 対応の標準型に入れ替えたことと、準単色と単色の 切り替えが可能となったことです。測定系におい ては、実験ハッチ 1 にウォルターミラーを導入して、 マイクロビーム集光を可能としたことと、検出器 ブースを新設して、カメラ長 10 m を確保したこと が報告されました。これらの変更により、より小角 のデータを取得可能となり詳細な議論が可能とのな ることの期待が示されました。 4.セッション3 SPring-8-IIにおけるBLポートフォ リオの検討 セッション 3 では、 SPring-8-II を念頭に置いた各 BL のポートフォリオの提示と、それに基づく総合 討論が行われ、参加者の間で活発な議論が交わされ ました。最後に本 WS の SPring-8 ・ SACLA セッショ ンを俯瞰した初日サマリーがありました。 はじめに、理研 /JASRI 矢橋牧名グループディレ クター( 写真 11 )より、 全体概要として中長期展 望の視点で、 SPring-8-II へのアップグレードスケ ジュール、世界最高性能と省エネサステナブル化の 両立を目指すというコアコンセプト、日本全体とし ての最適化を意識したビームラインポートフォリオ と BL 再編の道筋が提示されました。利用者からの 積極的なフィードバック、ポスト SPring-8-II も見据 えた大胆な提案を歓迎するとのことです。また、前 倒しで行っている BL 設備更新に伴う一部機能の利 用制限の可能性についても言及がありました。 次に JASRI 登野健介氏( 写真 12 )より、分光・軟 X 線 BL 群のポートフォリオについての解説がなさ れました。 「 X 線吸収・発光分光」 「分光イメージ ング・蛍光分析」 「光電子分光・光電子イメージン グ」を X 線分光手法の三本柱として、これらにつ いて、 NanoTerasu も含めた装置群の最適化を意識 しつつ硬 X 線と軟 X 線を相互利用できる分析基盤 整備や、先端計測と汎用計測の両立、不足領域(ク イック XAFS ・テンダー X 線利用・複合環境計測) の強化といった項目が基本思想として提示されま した。具体的に、現行の軟 X 線 BL ( 07SU, 17SU, 25SU, 27SU を 2 本に統合へ) 、 汎用 XAFS BL ( 01B1, 14B2 ) 、分光 ID BL ( 37XU, 39XU ) 、赤外 BL ( 43IR を共用終了へ) 、の再編・高度化・統廃合について、 仕様とスケジュールの詳細な言及がありました。 写真 11 理研 /JASRI 矢橋牧名 グループディレクター 写真 12 JASRI 登野健介氏 写真 13 理研 玉作賢治氏 写真 14 理研 石川哲也センター長 28 SPring-8/SACLA/NanoTerasu Information /Vol.1 No.1 JUNE 2025 803,S)0P AN% C0..ITTEE 3EP03T 写真 15 SpRUC 有馬孝尚副会長 (東京大学) 写真 16 QST 堀場弘司氏 写真 17 JASRI 大石泰生氏 続いて、理研・玉作賢治氏( 写真 13 )より、高 エネルギー・回折 BL 群のポートフォリオについ ての解説がなされました。現行の回折・散乱 BL 群( 02B1, 02B2, 04B1, 04B2, 13XU, 40XU, 46XU, 05XU, 15XU )の具体的な再編・高度化の状況につ いて説明がありました。また、 SPring-8-II の新光源 活用において、高エネルギーピンクビームやダンピ ングウィグラーの導入による高エネルギー領域の高 フラックス化の検討について言及がありました。 総合討論と質疑応答では、狙うべきサイエンスと 評価軸、利用開始「 Day1 」に対してさらに次を見 据えた本格運用開始「 Day2 」の見通し、長直線部 に導入予定のダンピングウィグラーの用途、共用終 了する 43IR の代替として UVSOR への機能移転や レーザー光源を利用したナノスケール赤外分光シス テムの提供、構造生物系における産業利用枠、など の検討事項が確認されました。 また、軟 X 線 BL の在り方について、テンダー 領域も含めた新たなサイエンスの開拓や、需要と 供給のバランス、 NanoTerasu との連携について議 論が交わされました。特に XAFS は先端計測も汎 用計測もどちらも現状の需要が高いだけではなく ポテンシャルユーザーも多く、 SPring-8 だけでも NanoTerasu だけでも需要には答えられないが、さ らなる利用拡大のチャンスでもあるという認識が共 有されました。 藤原明比古 SpRUC 会長より、同一施設内で同じ 試料を分析できる価値の重要性が指摘され、 JASRI 山田大貴氏から、回折・散乱 BL 群については試料 周りの共通化が進んでいるとの回答がありました。 JASRI 池本夕佳氏と量子科学技術研究開発機構 ( QST )高橋正光 NanoTerasu センター長より、 2027 年後半から 1 年間にわたる SPring-8 の完全停止期間 において、他施設エンドステーションの代替利用 希望や、そもそも代替可能な必要スペックかどう か、どのような情報提供が必要か、等の、施設サイ ドへの詳細な要望を利用者サイドでまとめてもらえ るとよい、との意見が提示されました。これに対し JASRI 雨宮慶幸理事長から、放射光学会が、そのよ うな利用者サイドや産業利用の要望を先導してまと めて欲しい、との指摘がありました。 5.初日サマリー 初 日 サ マ リ ー で は、 理 研 放 射 光 科 学 研 究 セ ン ター・石川哲也センター長 ( 写真 14 ) より、 BL アッ プグレードは順調で、ネクストステージとして、ロ ボティクスによる超効率化、データ駆動サイエン ス、エンドステーション間切り替えの簡易化、海外 に倣った課題選定の常時化を考えていく段階である とのご意見をいただきました。また、放射光の利用 者コミュニティーが一体となって議論を進めるの は望ましいが、常に新規利用者に開かれた組織で あるべき、第 3 世代から第 4 世代への変化が大きく ないように感じられるので、若い世代へ跳躍を期待 する、とのコメントもいただきました。質疑応答で は、第 4 世代の使い方が具現化されないと、第 4 世 代の新たなサイエンスも生まれてこないのではない か、という指摘があり、石川センター長からは、第 4 世代の特徴として、コヒーレンスのみならずそれ を超えるサイエンスが出てきて欲しいとのコメント SPring-8/SACLA/NanoTerasu 利用者情報/Vol.1 No.1 (2025 年 6月号) 29 研究会報ࠂ 写真 18 QST 石井賢司氏 写真 19 東京大学 小林正起氏 写真 20 広島大学 木村昭夫氏 写真 21 QST 高橋正光センター長 がありました。また、テンダー領域のサイエンスは NanoTerasu が担うべきなのか、との質問に対して、 石川センター長は、 新しい施設である NanoTerasu は、 SPring-8 の未踏領域を狙うべきであり、それがテン ダー領域である、との見方を示されました。 6.セッション 4 NanoTerasu 共用ビームラインに ついて 2 日 目 は NanoTerasu セ ッ シ ョ ン で あ り、 セ ッ ション 4 の冒頭で有馬孝尚 SpRUC 副会長( 写真 15 ) よ り、 挨 拶 お よ び 翌 日 よ り 本 格 共 用 が 開 始 す る NanoTerasu の状況説明と、本セッションの趣旨説 明がなされました。 まず、 QST 堀場弘司氏( 写真 16 )より NanoTerasu 共用ビームラインの概要について説明がなされま した。第一期共用ビームラインである BL02U (軟 X線超高分解能共鳴非弾性散乱) 、 BL06U (軟X線 ナノ光電子分光) 、および BL13U (軟X線ナノ吸収 分光)の特徴が示され、それぞれ順調に立ち上がり、 翌日からの本格共用開始に臨んでいることが報告さ れました。また、第二期として、X線回折ビームラ イン増設が決定しているとの説明がありました。 続 い て、 J A S R I 大 石 泰 生 氏( 写 真 17 ) よ り NanoTerasu の共用利用支援体制について説明がな されました。共用研究課題申請システムおよび課 題申請体制を SPring-8/SACLA と共通のプラット フォームにて整備することで高い運用性を確保した こと、ならびに、新たに仙台に事業推進室が設置さ れ、共同利用者支援および調査研究・手法開発を行 う体制が整備されたことが報告されました。 7.セッション 5 NanoTerasu 共用に向けて セッション 5 では、 NanoTerasu の共用に向けて、 他の様々な放射光施設を活用してきた NanoTerasu ポ テ ン シ ャ ル ユ ー ザ ー か ら の 研 究 事 例 紹 介 と NanoTerasu 利用研究展望の提案、施設サイドから の現状報告と整備計画の説明、本日の NanoTerasu セッションに関する総合討論が行われました。 最初に、 QST 石井賢司氏( 写真 18 )より、共鳴 非弾性散乱分光( RIXS )手法についての解説がな されました。国内設備の歴史、銅酸化物系を中心と した電子状態解析事例、海外における磁性材料での 磁気励起や電極活物質での酸化還元反応などの分析 研究事例を紹介いただきました。 SPring-8-II では硬 X 線 RIXS 、 NanoTerasu では軟 X 線 RIXS という棲 み分けがされているという利用者としての認識が示 されました。今後の NanoTerasu への具体的な要望 として、オペランド計測への対応、試料の方位角度 や温度といった調整パラメータの範囲拡大、解析補 助、 2D RIXS の豊富なデータからの情報抽出、競 争率の緩和、共用 BL での迅速汎用 RIXS 導入など を挙げられました。 次 に、 東 京 大 学・ 小 林 正 起 氏( 写 真 19 ) よ り、 角 度 分 解 光 電 子 分 光( ARPES ) 手 法 に つ い て の 解 説 が な さ れ ま し た。 軟 X 線 を プ ロ ー ブ と し た ARPES における重要キーワードとして「ナノ集光」 「高分解能」 「 2D → 3D 」 「デバイス」を挙げ、検出 深さが大きい、バルクバンドが観測できる、共鳴に より d ・ f 軌道の情報が得やすい、などの軟 X 線の 利点を活かした、スピントロニクス素子を構成する 量子マテリアル薄膜の電子状態分析事例を紹介いた 30 SPring-8/SACLA/NanoTerasu Information /Vol.1 No.1 JUNE 2025 803,S)0P AN% C0..ITTEE 3EP03T だきました。 NanoTerasu 利用への展望として、ナ ノ集光・オペランド計測・時間分解計測の重要性、 高効率検出技術による分解能改善への期待について 言及がありました。 次に、広島大学・木村昭夫氏( 写真 20 )より、 X 線吸収・磁気円二色性( XMCD )手法についての 解説がなされました。 SPring-8 における磁性トポロ ジカル絶縁体の解析事例や、 Diamond Light Source (英)など海外の放射光施設における磁性多層膜構 造や交代磁性体などの軟 X 線 XMCD を活用した最 先端研究事例を紹介いただきました。 NanoTerasu ではナノ集光による高い空間分解能を活かしたイ メージング計測が可能であるという観点から、磁気 ダイナミクスのみならずスピントロニクス材料にお けるスピン流の交流成分検出など、時間構造も意識 した研究発展に期待を寄せられました。また、テン ダー領域の強化によるカバーできる元素の範囲が拡 がることへの期待も述べられました。 最後に、 QST/NanoTerasu 高橋正光センター長 ( 写 真 21 )より、 NanoTerasu の現状と今後について説 明がありました。まず現状の加速器性能・光源特 性・第 1 期整備 BL 概要が紹介されました。共用促 進法適用施設としての役割およびユーザーニーズ を踏まえて、現行の第 1 期整備 BL に加え、高ユー ザーニーズ共用 BL 、応用拡大共用 BL 、先端利用共 用 BL 、 R&D BL (テンダー X 線の光学系・光学素 子開発を含む)にグループ分けし、それぞれの想定 BL ラインナップと中長期整備計画が提案されまし た。高ユーザーニーズ共用 BL のうち、 X 線回折 BL については 2024 年度内に予算措置が進み、ビーム ラインの増設作業が始まっているとの報告がありま した。 引き続き総合討論が行われ、各施設関係者と利用 者で活発な議論が展開されました。理研・初井宇記 氏から NanoTerasu のネットワークがクローズドで 不便であり、データを外部に高速転送できるように してほしいとの要望があり、 QST/NanoTerasu 高橋 センター長からは、セキュリティーを重要視してい るが、東北大学のスパコンとの連携や、外部からの アクセステストも慎重に実施しており、利便性を改 善する方向に技術開発を進めているとの回答があり ました。 JASRI 雨宮理事長からは、テンダー X 線領域に関 するコミュニティー内のコンセンサスが必要である との指摘がありました。これに関しては多くの意見 が挙げられ、便宜上意図的に幅広いエネルギーをテ ンダー領域と呼んでいることはあるが、軟 X 線の上 の方のエネルギーか、硬 X 線の下の方のエネルギー か、人によって認識が異なるとの声が多かったよう です。利用者としては、軟 X 線~テンダー領域~硬 X 線がシームレスに使えることが理想だが、光源性 能的に難しいので、 NanoTerasu による軟 X 線から エネルギーをあげていく技術開発と SPring-8 による 硬 X 線からエネルギーを下げていく技術開発の、両 輪によるオーバーラップが重要ではないか、との意 見が寄せられました。 熊本大学・水牧仁一朗氏から、需要が高そうな 汎用 RIXS の導入計画はないのか、との質問があり、 QST/NanoTerasu 高橋センター長からは、汎用 RIXS が設置してあるコアリションビームラインが 2 年後 から一部共用開始する予定があるとの言及がありま した。 他にも、軟 X 線の画像検出器開発、 R&D BL にお ける開発体制、 1 年にわたる試験共用の結果を公開 する研究会・報告書の公開予定、共用 BL における コヒーレンス、運動量イメージングへの需要、強磁 性共鳴の活用における時間構造の必要性、既存ユー ザーを対象にしたニーズ調査に加えてポテンシャル ユーザーを対象にした新たなニーズ発掘の重要性、 といった幅広い議題が挙がりました。 8.クロージング 最後のクロージングセッションでは、 JASRI 雨宮 理事長から、閉会の挨拶をいただきました。 SpRUC 新体制で本 WS や秋のシンポジウムの準備体制も変 化し、新しく変化していくことへの期待について述 べられました。また、放射光コミュニティー内では 世代の定義は光源性能でコンセンサスが取れている が、第 4 世代(マルチベンドアクロマットラティス 採用)の放射光施設が実現したことで、第 4 世代に よって何ができるのか社会的に問われる機会が増え ることは確実で、各人がそれを意識して明確化して SPring-8/SACLA/NanoTerasu 利用者情報/Vol.1 No.1 (2025 年 6月号) 31 研究会報ࠂ おくことが重要、とのご指摘がありました。 以上、新体制として、新たな場所で、例年より 長い丸二日にわたる WS 、と初めてづくしでしたが、 施設サイドと利用者サイドが闊達に意見を交わせる 有意義な場であったと思います。 会議のプログラムの詳細は下記 Web ページにて 公開されています。 http://www.spring8.or.jp/ja/science/meetings/2025/ 250301/ 永村 直佳 NAGAMURA Naoka (国研)物資・材料研究機構 マテリアル基盤研究センター 光電子分光グループ 〒 305 - 0003 茨城県つくば市桜 3 - 13 TEL : 0298 - 59 - 2627 e-mail : NAGAMURA.Naoka@nims.go.jp 水牧 仁一朗 MIZUMAKI Jinichiro 熊本大学 理学部理学科物理学コース 〒 860 - 8555 熊本県中央区黒髪 2 - 39 - 1 TEL : 096 - 342 - 3066 ( 709 ) e-mail : mizumaki@kumamoto-u.ac.jp 田中 義人 TANAKA Yoshihito 兵庫県立大学 理学部光物性分野 〒 678 - 1297 兵庫県赤穂郡上郡町 3 - 2 - 1 TEL : 0791 - 58 - 0139 e-mail : tanaka@sci.u-hyogo.ac.jp