SACLA 利用研究課題審査委員会を終えて
Report on the Proposal Review Committee (PRC) of SACLA
執筆者情報
所属機関 Affiliation
SACLA利用研究課題審査委員会 委員長/電気通信大学 レーザー新世代研究センター Institute for Laser Science, The University of Electro-Communications
本文
SACLA 利用研究課題審査委員会 委員長 電気通信大学 レーザー新世代研究センター 米 田 仁 紀 SACLA 利用研究課題審査委員会を終えて 1.はじめに X 線自由電子レーザー SACLA の利用研究は、 2011 年の発振成功以来、すでに 10 年を超え、世界でも 米国、欧州、スイス、韓国などの XFEL が順調に稼 働してきたこともあって、多くの提案募集を受け付 けることになっている。また、 SPring-8 などのシン クロトロン放射光施設と違い、 基本的には 1 ~ 3 ユー ザーが同時使用する限られたマシンタイムを、広範 囲の科学研究を行う場として提供していることにな り、ここでお話しする課題選定を決める利用研究課 題審査委員会( PRC )は、その重要性がますます増 加している状況にある。ここでは、日頃はあまり紹 介できない審査委員会の状況を紹介したい。 2.SACLA 利用研究課題審査委員会の状況 前述したように、 SACLA は直線加速器ベースの FEL がゆえに制限されたユーザー数を選考していか なければならない。また、従来から行っているよう に PRC では、すべての分野を総括しながら議論し、 実験選考を行う必要がある。 例えば、 図1 を見ていただきたい。 これは、 SACLA に提案のあった課題数の分野別数の 2018 年からの 推移を示している。これを見ただけでも分野におけ る変化が出ていることがわかる。この推移は、その 時の世界の研究動向、マシンの最新化動向、計測器 などの開発動向などが影響した結果となっているが、 その状況も選ぶ側の PRC は把握しておく必要がある。 そのため、現在の PRC 委員会では、まず全体会と して現在の SACLA の状況、計測器などの開発・準 備状況、世界の XFEL の動向の情報を共有できるよ うに、理研・ JASRI 側に協力を行いつつ、各委員の 情報の更新を行うようにしている。 図 1 SACLA における各分野の提案数の分布。マテ リアルサイエンス( MAT ) 、バイオサイエンス ( BIO ) 、高エネルギー密度科学( HEDS ) 、手法・ 装置開発分野( MI ) 、化学( CHM ) 、原子分子物 理学 ( AMO ) 、 X 線光学 ( XOP ) 、 産業利用分野 ( IND ) を表している。 図 2 SACLA の提案者の所属機関の国内、海外別など の分布。黄色が海外、赤が産業界、緑が国内国立 研究所、青が国内大学となっている。 図 2 には、提案者の所属機関別分布を示している。 利用が始まった当時、国内関係者が多かった状況か ら現在ではほぼ半数を海外からの研究提案となって いる。これに対応するように PRC では海外レビュー アーを行い、海外センスでの審査もお願いしている。 ただ、対面を基本として行っている PRC 委員会で は、国内にいる委員のみで日本語を言語に行ってい る状況にある。これは、より国内状況を把握しなが ら選考をお願いしたいという点と、より深い分野間 調整などを行うために選択した形となっている。ま た、この海外からの提案の多さは、同時に海外のマ シン状況に影響されることになり、より一層委員の 52 SPring-8/SACLA/NanoTerasu Information /Vol.1 No.1 JUNE 2025 SPring-8/SACLA/NanoTerasu COMMUNICATIONS 世界の XFEL 利用研究の動向理解が必要なことがわ かるであろう。 3.SACLA 利用研究課題審査委員会の仕組み さて、 SACLA-PRC は、研究状況の変化や委員の リクエスト、利用者からの意見、上部委員会からの 指摘などを入れ、フレキシブルに対応できるように している。そのため、今回の委員会期間であっても いくつかのシステム変更が取り入れられている状況 にしている。これらは、 私が PRC 委員長として行っ た前回の委員会 [1] からも発展してきている。 実際に現在の選定委員会のプロセスをフロー チャートにしたものを 図 3 に示している。 まず、応募された申請書は、技術審査を受けなが らレビュアーを決め、書面審査が行われる。審査 は A ~ D の 4 段階が等分布数になるように行われる。 それら書面審査結果を受け、技術などの状況を鑑み 全体 PRC 会の前に詳細議論が必要な課題があった 場合は、プレ議論会が JASRI 、 PRC 委員長、該当す る PRC 委員で会議を行い、全体会への提案を別途 用意する。次に 図 3 の中段図に示された全体会へ移 行する。ここでは、前述した現在の XFEL 施設の状 況の共有、応募状況の確認、プレ議論会の報告など を行った後に、各カテゴリでの詳細議論を行う。こ こでは、各カテゴリ内での研究動向、応募状況、点 数分布などを考慮した上での分野内の意思を反映し た課題順位を決定、その理由を後半の全体会で明ら かにする準備をしていただく。さらに、その後図 3 の下段図にあるような、 PRC 委員会からの申請者 へのコメント作成、それらをチェックし最終バー ジョンの決定、さらには、海外レビューアーへの審 査結果の報告文などの作成、報告を行っていく。 正直、これらの審査過程がスムーズに動いている のは PRC 委員の努力や理解、 JASRI 、理研のサポー トから成り立っている。逆に、これらいい PRC 委 員が抱えられるような委員へのメリットを常に考 えながら SACLA の発展を行っていくことが重要な ミッションにもなっている。 4.まとめ 現在、 PRC 委員会であるから議論できる、考え られるシステムへの提案、課題状況への不安や提案 などを抱えている状況にある。それらは、しかし、 覆面審査として行っていただいている委員ならでは の制限もあり、要に表に出せない状況にもあった りする。最近は、この状況を打開するように、 PRC 委員会として挙げられているリクエストも JASRI や 唯一表に出ている PRC 委員長が中心となって XFEL 研究会、 SACLA-USER Meeting などで議論するよ うにしている。読者の中でもリクエストがあれば、 ぜひお知らせいただけるといいと思います。 図 3 PRC での審査フロー。上図:書面審査段階のもの。 中段:その後に行われる対面 PRC 委員会のもの。 下図: PRC 委員会後のプロセスを示している。 SPring-8/SACLA/NanoTerasu 利用者情報/Vol.1 No.1 (2025 年 6月号) 53 SPring-8/SACLA/NanoTerasu 通信 参考文献 [ 1 ] 米田仁紀: SPring-8/SACLA 利用者情報 春号 (2023) 183. 米田 仁紀 YONEDA Hitoki 電気通信大学 レーザー新世代研究センター 〒 182 - 8585 東京都調布市調布ヶ丘 1 - 5 - 1 TEL : 042 - 443 - 5711 e-mail : yoneda@ils.uec.ac.jp 54 SPring-8/SACLA/NanoTerasu Information /Vol.1 No.1 JUNE 2025 SPring-8/SACLA/NanoTerasu C0..UNICATI0NS