12th Hard X-ray FEL Collaboration Meeting
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所属機関 Affiliation
(公財)高輝度光科学研究センター XFEL利用研究推進室 先端光源利用研究グループ
XFEL Utilization Division, JASRI
本文
公益財団法人高輝度光科学研究センター XFEL 利用研究推進室 先端光源利用研究グループ 籔 内 俊 毅 12th Hard X-ray FEL Collaboration Meeting 1.はじめに 12th Hard X-ray FEL Collaboration Meeting が 2025 年 5 月 19 日から 21 日の日程でスイスのシュトー スで開催された。この会議は、日本、アメリカ、ド イツの 3 拠点の硬 X 線自由電子レーザー( XFEL ) 関係者によって 2007 年に初めて開催されたもので ある。当時は XFEL の稼働前であり、 XFEL の加速 器技術と利用技術に関する共通課題の解決に向けた 協力や、人材の交流による XFEL 科学技術の推進を 目的として企画された。現在でも、 XFEL 施設間の 科学的または実践的な情報共有と協力関係の維持発 展が本会議の主な目的である。 近年では、 2019 年にアメリカ LCLS が主催した 第 10 回の会議の後、新型コロナウィルス感染症 の影響を受けてしばらく開催が見送られていたが、 2023 年に European XFEL の主催で再開された。第 12 回目の開催となる今回の会議には、現在稼働中 の LCLS 、 SACLA 、 PAL XFEL 、 European XFEL 、 SwissFEL の 5 つの XFEL 施設に加え、中国上海に 建 設 中 の SHINE の 関 係 者 が 参 加 し た。 主 催 機 関 である SwissFEL ( PSI )と隣国の European XFEL/ DESY 以外の機関からは各機関 10 名程度が参加し、 SwissFEL の 30 名、 European XFEL の 20 名 と あ わ せて全参加者は 90 名程度であった。 なお、対面での会議開催が見送られていた期間 においても、 European XFEL/DESY が中心となっ て、オンラインで “ Virtual Hard X-ray Collaboration Meeting ” が毎月のように開催されていた。ここでは 各回 1 時間程度の講演の他、各施設の運転・整備や 技術開発の状況が短く報告されるなど、対面での交 流が難しい状況においても情報交換や交流はある程 度維持されていた。ただ、やはりオンラインと対面 とでは得られる情報には違いがあることを今回も実 感した。 本会議は、同時並行で行われる加速器技術のセッ ションと X 線計測・利用技術のセッションの他、各 施設の最新情報の報告と、加速器及びビームライン の双方に関係する話題について議論するための全 体セッションで構成されている。また、 40 名程度 の希望者に対しては、会議後に PSI ( SwissFEL と SLS )の見学ツアーが開催された。 2.会議内容 会議の冒頭では、主催機関である SwissFEL か ら、開催にあたっての挨拶と会議の全体像の説明が 行われた。それに続く形で各機関からの施設報告が 行われた。ここでは、各施設から利用運転や最新の 高度化の状況と将来計画などが報告されたが、今回 もっともインパクトがあったのは European XFEL からの報告であったと思う。 LCLS に続いて 2 番目 に行われた彼らの施設報告では、昨年新しくディレ クターになった Thomas Feurer 氏が登壇した。ただ、 筆者が会期を通して最も聴衆の注目を集めたと感じ る彼らの XFEL-O ( XFEL Oscillator )プロジェクト の最新の進展に関する 2 ページのスライドについて は、直接実務者から報告がなされた。このプロジェ 図 1 会議場の様子(オープニングセッション) 148 SPring-8/SACLA/NanoTerasu Information /Vol.1 No.2 SEPTEMBER 2025 WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT クトはアンジュレーターを挟んでダイヤモンドの結 晶を使って共振器を組み、 X 線増幅を目指す研究開 発である。稼働中の XFEL 施設としては European XFEL でのみ実用可能な MHz の繰り返し電子バン チを活用している。今回の報告は、会議の前日の実 験において、この共振器型の XFEL におけるエネル ギー増幅が初めて確認されたというものであり、参 加者から非常に強い関心を集めた。ところで、今 回 LCLS の施設報告では LCLS-II の現在の運転状況 ( 33 kHz の繰り返し周波数で、 400-1000 eV の光子 エネルギー帯において最大 500 μJ 程度のパルスエネ ルギーを達成)や、引き続き計画されている LCLS- II-HE へのアップグレード計画について報告がなさ れていた。実は LCLS-II の最初の光が確認されたの は、前回この会議がドイツで開催されている最中で あった。当時、 LCLS の速報を聞いて参加者から拍 手が起こったと記憶している。このような、まさに 最新の情報の共有の場に立ち会えることは純粋に面 白い。 この報告に次いで目立ったトピックとしては、 ア ト 秒 XFEL の 生 成 と 評 価 が 挙 げ ら れ る。 LCLS 、 European XFEL 、 SACLA 、 SwissFEL において、軟 X 線や硬 X 線のアト秒 FEL の発生と特性の診断に関 する研究が精力的に行われている。このトピックの 注目度と目覚ましい進展具合は、最終日の全体セッ ションのタイトルが当初予定の「 Short pulses 」か ら「 Very Short pulses 」に急遽変更された様子から も見て取れる。 PAL XFEL や建設中の SHINE にお いては、まだ実験や検証には至っていないものの、 すでにシミュレーションなどの検討が開始されてい るということであり、サブフェムト秒パルスの開発 と利用に向けた取り組みが今後一層活発になること を感じさせた。 ところで、ある機関の施設報告においては、高電 圧モジュレーターの不具合とそれよって引き起こさ れたインシデントが、その後の対応とともに具体的 に紹介されていた。本稿の冒頭で紹介した Virtual Collaboration Meeting においても、いくつかの機関 から冷却水や電気関係の事故、装置の不具合などが 何度か紹介され共有されていた。このような、いわ ば「目立った成果」ではないものも含めて情報共有 されるところは、この会議が一般的な科学的な会議 と趣が異なっていることを実感させられるところで ある。 施設報告の後は、 2 日目の夕方まで加速器技術と X 線計測・利用技術の両分野に関するセッションが パラレルに開催された。今回の会議では各分野で以 下の 3 つのセッションテーマが設定された。 【加速器技術】 • Setup and quality assurance procedures • Coherence enhancement • FEL timing and synchronization 【 X 線計測・利用技術】 • X-ray optics and diagnostics • Applications of AI • Large data handling なお、この会議では、セッションごとに 1 ‒ 2 名の コンビーナー(主には主催機関に所属する研究者) が割り当てられる。各機関の参加者らは、コンビー ナーから各セッションで共有、議論するトピックを 会議開催前に案内され、セッションでの報告の依頼 を受ける。当日のセッション構成や流れはコンビー ナー次第である。各施設の参加者が順に発表して発 表毎に質疑が行われる一般的な学会に近い形式の場 合もあれば、各施設から提出された資料を取りまと めてコンビーナーが発表し、その他の時間を議論に 充てる形式が取られる場合もある。いずれにしても 情報共有や議論の満足感が、コンビーナーの事前準 備と当日の采配に大きく依存するのが実情である。 今回、筆者は X 線計測・利用技術側の 3 セッショ ンに参加した。以下ではこれらのセッションで報告、 議論されたことのうち、特に筆者の印象に残ったこ とを紹介する。 超伝導加速器を用いる LCLS-II が動き始めたこと もあって、高繰り返し X 線パルスによる光学素子 への熱負荷やパルス毎の特性評価技術に関する話題 がやや目立ってきているように感じた。また、極限 集光ビームの実現とその評価については、引き続き SACLA に優位性があり、信頼性の高い波面計測技 術とそれを活用した自動調整技術などについて共同 研究の可能性も含めて議論が行われた。反射系光学 素子ではなく、屈折レンズを用いた X 線集光に関連 SPring-8/SACLA/NanoTerasu 利用者情報/Vol.1 No.2 (2025 年 9月号) 149 研究会等報告 して、ダイヤモンドレンズの開発状況や評価結果が DESY との共同研究として European XFEL から紹 介された。ベリリウムレンズの入手が困難になって いる現状を踏まえると、今後の動向を注視したいト ピックである。一方で、 1 つのセッションでここに 記した以外のトピックについても各機関が取り上げ ていたため、個々のトピックについて深く議論され なかったことが惜しまれる。 人工知能( AI )を活用した自動調整の利活用の 事例は、 X 線計測・利用技術側の枠での開催にも関 わらず、加速器運転に関連したものが目立っていた。 機械学習( ML )を用いた加速器運転は、 SACLA では日々の調整と運転に使用されており、 X 線パ ルスの特性最適化や安定運用に大きく貢献してい る。一方、 LCLS と European XFEL よる自動調整用 ソフトウェアの共同開発の取り組みなどが紹介され たものの、実際の運転に AI/ML がどの程度うまく 活用されているかという点では施設間で大きな差が あるように感じた。 X 線特性診断に AI をどのよう に活用できるかについては、主に SwissFEL から取 り組みが紹介されたが、まだかなり初期の試験段階 であるように見受けられた。しかし、 SACLA の加 速器やビームライン調整、極限集光調整にも様々な 自動調整がうまく利用されている状況を踏まえると、 AI/ML にどのような活用法があるかは継続して検 討するべきであろう。 これらのパラレルセッションの議論のサマリーに ついては、閉会前の最後の全体セッションで、各 セッションのコンビーナーから簡単に報告され た。それによると、加速器側のセッションでも AI/ ML 技術の活用やソフトウェアの開発について議 論がなされたとのことであった。また、 Coherence enhancement の セ ッ シ ョ ン で は、 先 に 紹 介 し た European XFEL の XFEL-O について詳細が報告さ れたということであった。なお、このサマリーセッ ションの前には、全体セッションとして前述した アト秒 XFEL に関する情報共有とパネルディスカッ ションが行われた。 3.施設見学(PSI) 会議終了後には、 PSI にて SwissFEL と SLS を見 学するツアーが希望者向けに開催された。あいにく 会議 2 日目から連日天候がすぐれなかったため、時 折強く雨が降る中での見学となった。 ツアーでは、まず回折限界リングとしてアップグ レードが行われた SLS2.0 の蓄積リング収納部内と 3 つのビームラインを見学した。ビームラインの立 ち上げを行なっている最中であったにもかかわらず、 この日の午前中は見学のために運転を中断させてい たようである。見学したビームラインの 1 つである 物質科学関連の回折実験ビームライン( ADDAMS : ADvanced DiffrAction for Materials Science )は、 ちょうど見学に前後してファーストビームの導入が 計画されていたらしく、見学前日に初めて光がハッ チまで導入されたことをビームライン担当研究員が やや興奮気味に教えてくれた。 続いて訪れた SwissFEL では実験ホール側から入 室し、加速器の最下流部付近までを歩いてさかの ぼって見学することができた。時間が限られる中 ではあったが、 5 つの全エンドステーションを見学 することができた。 SLS ではタンパク質の結晶構造 解析の自動測定システムを詳細に見せてもらった が、それと同じ装置が SwissFEL にも導入されてお り、本格的に運用されればハイスループット化に大 きく貢献しそうである。 SwissFEL の実験ハッチは 比較的広く、各ハッチにポンプ・プローブ実験用の 光学レーザーが設置されている割には、スペースに 余裕があるように感じられた。そのような環境にお いて、大型の装置でも比較的簡便に置き換えられる 図 2 SwissFEL の Cristallina エンドステーションに設置 されたシリアルフェムト秒結晶構造解析のセット アップ 150 SPring-8/SACLA/NanoTerasu Information /Vol.1 No.2 SEPTEMBER 2025 WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT ように考慮して設計されている点、定型実験を効率 的に行えるようにハードとソフトの両面の工夫され ている点は大変参考になった。 4.おわりに 本会議は世界の XFEL 施設の関係者が一堂に会し て行われるものであり、各施設の最新の動向を一度 に知ることができる貴重な機会である。また、数日 間にわたって参加者らとセッション外でも交流でき る機会があることで、施設間の共同研究につながる ような議論が行えるところも有益である。 なお、次回の会議が 2026 年 9 月に韓国において PAL 主催で開催される予定であることが本会議の最 後に案内された。今後 SHINE の整備が順調に進め ば、次々回は中国での開催となる見込みである。 籔内 俊毅 YABUUCHI Toshinori (公財)高輝度光科学研究センター XFEL 利用研究推進室 先端光源利用研究グループ 〒 679 - 5198 兵庫県佐用郡佐用町光都 1 - 1 - 1 TEL : 050 - 3502 - 4815 e-mail : tyabuuchi@spring 8 .or.jp SPring-8/SACLA/NanoTerasu 利用者情報/Vol.1 No.2 (2025 年 9月号) 151 研究会等報告