「第25回SPring-8 夏の学校」実施報告
Report on the 25th SPring-8 Summer School
執筆者情報
所属機関 Affiliation
SPring-8 夏の学校実行委員会 委員長(JASRI)
Chair of SPring-8 Summer School Executive Committee (JASRI)
本文
SPring-8 夏の学校実行委員会 委員長 木 村 滋( JASRI ) 「第 25 回 SPring-8 夏の学校」実施報告 1.SPring-8 夏の学校概要 「第 25 回 SPring-8 夏の学校」 は 2025 年 7 月 6 日 (日) ~ 7 月 9 日 (水)の 4 日間の日程で、日本国内の 25 大 学から 83 名の学生の参加を得て、放射光普及棟お よび SPring-8 蓄積リング棟を会場として開校されま した。 SPring-8 夏の学校は、次世代の放射光利用研 究者の発掘と育成を目的として、 SPring-8 を教育の 場として活用している大学と SPring-8 および関係諸 機関(理化学研究所 放射光科学研究センター、日 本原子力研究開発機構 物質科学研究センター、量 子科学技術研究開発機構 関西光量子科学研究所、 兵庫県立大学理学部・大学院理学研究科、関西学院 大学理学部・工学部・生命環境学部・大学院理工学 研究科、岡山大学、大阪大学蛋白質研究所・核物理 研究センター・理化学研究所科学技術融合研究セン ター、茨城大学大学院理工学研究科、東京大学シ ンクロトロン放射光連携研究機構、島根大学、 (公 財)高輝度光科学研究センター( JASRI ) )が主催 し、ビームラインの使用機会や講師等を供出しあっ て開催しています。校長は兵庫県立大学の田中義人 教授にお願いしました。実行委員会は主催団体のス タッフで構成され、事務局は JASRI 利用推進部普 及情報課が行いました。なお、主催大学の中には SPring-8 夏の学校への参加を講義として単位認定し ているところもあります。 2.カリキュラムについて SPring-8 夏の学校では通例として、初日に 3 講義、 2 日目に 4 講義を行い、その後の 2 日間は、各自が 希望するテーマの中から 2 テーマの実習をビームラ インで行っています。また、 SACLA と SPring-8 の 実験ホールの見学、さらには SPring-8 蓄積リングの 電磁石や挿入光源の見学を行いました。今年の実施 スケジュールを 図 1 に示します。 講義の題目および講師 (敬称略) は以下の通りです。 講義 1 . 放射光発生の基礎 - 正木 満博( JASRI ) 講義 2 . ビームライン~光源と実験ステーションを 繋ぐもの~ - 湯本 博勝( JASRI ) 講義 3 . X 線検出器の基礎 - 今井 康彦( JASRI / 理化学研究所) 講義 4 . X 線自由電子レーザー入門 - 井上 伊知郎 (東京大学 / 理化学研究所) 講義 5 . X 線イ メージング - 篭島 靖 (兵庫県立大学) 講義 6 . X 線回折入門 - 高橋 功(関西学院大学) 講義 7 . XAFS の基礎 - 田渕 雅夫(名古屋大学) 図 1 第 25 回 SPring- 8 夏の学校日程表 152 SPring-8/SACLA/NanoTerasu Information /Vol.1 No.2 SEPTEMBER 2025 WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT 図 2 に講義の様子を示します。講義後には質疑応 答も活発に行われました。なお、今回の講義 4 を担 当された井上先生は、第 11 回の SPring-8 夏の学校 を修了されています。 ビームライン実習は 26 ビームラインで行われま した。実習のテーマと使用したビームラインおよび 担当者(敬称略)は以下の通りです。 BL01B1 : " その場 " XAFS 計測 - 加藤 和男・片山 真祥( JASRI ) BL02B1 : 単結晶構造解析の入門 - 野上 由夫 (岡山 大学) ・中村 唯我・一栁 光平( JASRI ) BL02B2 : 粉末 X 線構造解析の基礎 - 河口 彰吾・ 小林 慎太郎・森 祐紀( JASRI ) BL04B1 : 大容量高圧プレスによる高圧誘起相転移 その場観察実験 - 肥後 祐司( JASRI / 茨城大学) ・柿澤 翔・辻野 典秀( JASRI ) BL04B2 : 高エネルギー X 線を用いたガラス・ 液体の 構造解析 - 尾原 幸治・廣井 慧(島根大 学 /JASRI ) ・ 山田 大貴 ・ 下野 聖矢 ( JASRI ) BL07LSU : タイコグラフィによる軟 X 線顕微イメー ジング - 木村 隆志(東京大学) BL08W : コンプトン散乱イメージング - 辻 成希、 水野 勇希( JASRI ) BL10XU :ダイヤモンドアンビルセルを用いた高圧 X 線回折実験 - 門林 宏和・平尾 直久 ( JASRI ) BL11XU : 共鳴非弾性 X 線散乱・ X 線発光分光に よる白金微粒子酸化還元のその場計測 - 石井 賢司(量子科学技術研究開発機構 / 岡山大学) ・松村 大樹(日本原子力研究 開発機構 / 関西学院大学) BL13XU : サブミクロン集光放射光ビームによる局所 領域回折実験 - 隅谷 和嗣( JASRI ) BL14B2 : XAFS 分析の基礎 - 大渕 博宣・渡辺 剛 ( JASRI ) BL17SU : 光電子顕微鏡 ~ナノ分解能で見る元素 分布と磁気構造~ - 濵本 諭(理化学研 究所) ・大河内 拓雄(兵庫県立大学) BL19B2 : 粉末 X 線回折 - 大坂 恵一、仲谷 友孝 ( JASRI ) BL20B2 : 放射光 X 線マイクロ CT を用いた 3 次元 画像計測の基礎 - 星野 真人、安東 航太、 竹田 裕介( JASRI ) BL22XU : X 線回折法を利用した金属材料応力・ひ ずみ評価 - 菖蒲 敬久・冨永 亜希(日本 原子力研究開発機構) BL25SU : 軟 X 線光電子分光を用いた電子状態解析 - 大槻 太毅 (岡山大学) 、 山神 光平 ( JASRI ) BL26B1 : 単結晶回折(タンパク質) - 上野 剛(理 化学研究所) ・河村 高志( JASRI ) BL31LEP : GeV 光ビームの生成と物質との相互作用 - 石川 貴嗣・水谷 圭吾・小早川 亮・桂川 仁志・田中 慎太郎・橋本 敏和 (大阪大学) BL35XU : 核共鳴散乱前方散乱を利用した電子状態 解析 - 永澤 延元・依田 芳卓( JASRI ) BL37XU : 走査型顕微分光法の基礎 - 新田 清文・ 関澤 央輝( JASRI ) BL38B1 : BioSAXS によるタンパク質分子の溶液 構造解析 - 関口 博史・長尾 聡( JASRI ) BL39XU : 高エネルギー分解能蛍光 X 線検出 X 線吸 収分光法による電子状態解析の基礎 - 東 晃太朗・河村 直己( JASRI ) BL41XU : 単結晶回折 (タンパク質) - 長谷川 和也 ・ 坂井 直樹・水野 伸宏( JASRI ) BL43LXU : X 線非弾性散乱による原子振動測定 - 石川 大介 ・ 福井 宏之 ・ 萬條 太駿( JASRI ) BL44XU : 単結晶回折(タンパク質) - 中川 敦史 ( JASRI/ 大阪大学) ・山下 栄樹(大阪大 学) ・山口 峻英(茨城大学) BL46XU : 硬 X 線光電子分光 - 安野 聡 ・ Seo Okkyun ・ 髙木 康多 ( JASRI ) 図 2 講義の様子 SPring-8/SACLA/NanoTerasu 利用者情報/Vol.1 No.2 (2025 年 9月号) 153 研究会等報告 参加者は上記テーマの中から希望を考慮して決定 された 2 テーマの実習を 1 日 1 テーマずつ実施しま した( 図 3 ) 。 前述の講義、実習の他、 2 日目に SACLA の見学 と SPring-8 実験ホールの見学、 3 日目に SPring-8 蓄 積リングの見学があります。普段あまり見ることの できない装置の見学ができることも SPring-8 夏の学 校の魅力になっています( 図 4 ) 。 その他、 1 日目の夕方にはスライド 1 枚を使って 1 人 1 分で行う自己紹介の時間を設けています。ま た、 1 日目と 3 日目の夜には、懇親会(参加希望者 のみ)も実施しています。これらは、 SPring-8 夏の 学校に早くなじんでもらうためだけでなく、他大学 の多くの学生との交流を通じて、将来的にも何らか のネットワークが形成されることも期待しています。 懇親会は実費を徴収していますが、多くの学生が参 加し、学生同士や講師の先生、実習担当者らと交流 を深めていました。 3.おわりに SPring-8 夏の学校は 2001 年度から始まり、今回 で 25 回目を迎えました。コロナ禍も規模は縮小し ましたが、開校してきました。毎回ほとんどの参加 者から、 「参加して良かった」との声を聞かせても らっています。最近では毎回 80 名を超える参加希 望者があり、これまでにのべ 1,502 名が参加してい ます。初期の参加者の中には大学で教授になってい る方々もいます。また、多くの参加者が大学卒業 後や大学院修了後も、大学や企業の研究者として SPring-8 を利用されています。この記事を読んで興 味を持った大学院生の皆様、来年以降の参加をお待 ちしています。 最後に集合写真を 図 5 に示します。 図 3 実習の様子 図 5 集合写真 図 4 SPring- 8 蓄積リング見学の様子 154 SPring-8/SACLA/NanoTerasu Information /Vol.1 No.2 SEPTEMBER 2025 WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT 謝辞 丁寧でわかりやすい講義をしていただいた講師の 先生方、 2 日間熱心に指導していただいた実習担当 の皆様、わかりやすい説明で参加者の興味を引きつ けてくださった見学引率者の皆様、 SPring 8 蓄積リ ングの見学を実施していただいた JASRI 加速器部 門の方々、 SACLA の見学にご尽力いただいた理化 学研究所および JASRI 関係者の方々に感謝します。 また、事務局として開催にご尽力いただいた JASRI 事務局担当者の方々にも感謝します。 木村 滋 KIMURA Shigeru (公財)高輝度光科学研究センター 産学総合支援室 シニアコーディネーター 〒 679 - 5198 兵庫県佐用郡佐用町光都 1 - 1 - 1 TEL : 050 - 3496 - 8997 e-mail : kimuras@jasri.jp この夏、第 25 回 SPring-8 夏の学校に参加し、 私は放射光科学の奥深さと、研究者という仕 事の魅力を再認識することができました。私 は、これまでは主に大学が所有する実験装置を 用いた研究を行っており、放射光という世界最 先端の光源を使った実験は未経験でした。しか し、将来的に自分の研究を深めていくためには、 放射光という強力なツールが不可欠であると考 えており、この夏の学校は、その第一歩として、 放射光の基礎から応用、そして実際の利用方法 までを体系的に学ぶ絶好の機会だと考え、参加 を決意しました。 夏の学校における全 4 日間の充実したカリ キュラムは、私の事前の予想を遥かに超えるも のでした。前半 2 日間の講義では、放射光がい かにして生み出されるかという根源的な仕組み から、電子を周回させる蓄積リングの精巧な構 造、多岐にわたるビームラインの機能、そして 様々な種類の検出器の動作原理に至るまで、各 分野の専門家から直接、体系的な説明を受ける ことができました。特に、これまでの研究で ほとんど触れる機会のなかった X 線光電子分 光( XPS )や、その名前だけを知っていた X 線 自由電子レーザー( SACLA )といった測定法 の原理についても、その本質から理解を深めら れたのは、極めて大きな収穫でした。講義で得 た知識は、 2 日目と 3 日目に実施された施設見 学を通じてさらに深まりました。とりわけ、放 射光の発生原理に関する講義を受けた直後に、 SPring-8 蓄積リングを自身の目で確かめられた ことは、非常に感動的な体験でした。講義で紹 介された最先端技術の理論が、まさにその場で 実現されている様子を、知識が新鮮なうちに実 物で確認できたのです。見学を通して巨大な加 速器が作り出す放射光が、いかに緻密な技術と 人々の管理によって成り立っているかを直接自 分の目で見て感じることができ、制御室でモニ ターを管理する方々の姿は、世界最高峰の装置 を動かすプロフェッショナルとしての姿を物 語っており、これからの自身の研究生活におけ る大きな刺激となりました。 後半 2 日間の主要プログラムである実習では、 私は BL43LXU にて X 線非弾性散乱を用いた原 子振動測定を、そして BL10XU にてダイヤモ ンドアンビルセルを用いた高圧 X 線回折実験を しました。これらの実習では、測定原理から具 体的な操作方法、そして得られたデータの解析 に至るまで、担当の方々から手厚い指導を受け 東京大学大学院 理学系研究科 太 田 和 可 乃 第 25 回 SPring-8 夏の学校に参加して SPring-8/SACLA/NanoTerasu 利用者情報/Vol.1 No.2 (2025 年 9月号) 155 研究会等報告 ながら実践的に学びました。他の参加者との協 力体制で測定や課題に取り組めた点は、非常に 記憶に残る経験でした。普段放射光施設を利用 する機会がない私にとって、測定の合間などに、 他の参加者が日常的にどのように放射光施設を 使いこなしているのかを直接耳にすることもで き、貴重な情報収集の場となりました( 図6 ) 。 さらに、懇親会などの交流の場では、様々な 大学や研究分野に所属する同世代の研究者たち と、研究の話からプライベートなことまで、多 くのことを語り合うことができました。自分と 同じように研究に情熱を傾ける同世代が全国に いることを知り、心強く感じるとともに大きな 刺激をもらいました。この夏の学校で出会った 人々とは、今後も連絡を取り合い、学会などで 再会できることを願っています。 今回の夏の学校は、放射光科学の原理から応 用までを網羅的に学ぶだけでなく、全国の若手 研究者と深く交流できる、他にはない貴重な機 会でした。第 25 回 SPring-8 夏の学校を企画・ 運営してくださった実行委員会の皆様、わかり やすい講義をしてくださった講師の皆様、そし て丁寧な実習指導をしてくださったビームライ ン担当者の皆様、 SACLA 実験ホール・蓄積リ ング内部の見学を引率してくださった皆様に、 心から感謝申し上げます。今回の経験を糧に、 より一層研究に邁進して参ります。本当にあり がとうございました。 図 6 BL 実習の様子 156 SPring-8/SACLA/NanoTerasu Information /Vol.1 No.2 SEPTEMBER 2025 WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT