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NanoTerasu共用ビームラインBL06Uの紹介
Introduction of public beamline at NanoTerasu : BL06U

執筆者情報

執筆者 Author

保井 晃 YASUI Akira、神田 龍彦 KANDA Tatsuhiko

所属機関 Affiliation

(公財)高輝度光科学研究センター ナノテラス事業推進室 利用研究推進グループ
NanoTerasu Promotion Division, Japan Synchrotron Radiation Research Institute

抄録/Abstract

 NanoTerasu の共用ビームラインBL06Uは50~1000 eVの真空紫外から軟Ⅹ線領域の幅広いエネルギー領域で高フラックス、高エネルギー分解能、高空間分解能を有するビームを利用した角度分解光電子分光(ARPES)計測が利用可能なビームラインである。Bブランチの最下流にはマイクロ集光ビームが利用でき、かつ、四端子電圧印加機構によるオペランド計測が可能なARPES装置が配置されており、共用に供されている。本稿では、BL06Uの概要や整備状況のほか、我々JASRIが進めている、ユーザー実験の利便性向上や測定可能試料の広範化を目的とした高性能化研究について紹介する。

本文

公益財団法人高輝度光科学研究センター ナノテラス事業推進室 利用研究推進グループ 保 井 晃、 神 田 龍 彦 NanoTerasu 共用ビームライン BL06U の紹介 Abstract NanoTerasu の共用ビームライン BL06U は 50 ~ 1000 eV の真空紫外から軟Ⅹ線領域の幅広いエネルギー領域 で高フラックス、高エネルギー分解能、高空間分解能を有するビームを利用した角度分解光電子分光 ( ARPES ) 計測が利用可能なビームラインである。 B ブランチの最下流にはマイクロ集光ビームが利用でき、かつ、四端 子電圧印加機構によるオペランド計測が可能な ARPES 装置が配置されており、共用に供されている。本稿で は、 BL06U の概要や整備状況のほか、我々 JASRI が進めている、ユーザー実験の利便性向上や測定可能試料 の広範化を目的とした高性能化研究について紹介する。 1.光電子分光・ARPES について 放射光施設には多くの装置があり、様々な測定手 法により物質の性質が調べられている。ほとんどの 手法が X 線を試料に照射したときに試料から発せら れる X 線を検出する中で、光電子分光は試料から 発せられる電子(光電子)を検出する数少ない手法 の一つである。放射光を用いずとも実験室 X 線源に よる Al K α線などの固定エネルギーの X 線を利用す ることで、物質の性質を知ることができるため、メ ジャーな実験手法でもある。 光電子分光の概要を説明する。本手法は、あるエ ネルギー hv の X 線を物質に照射したときに、光電 効果により物質から放出される光電子のエネルギー を観測することで、物質内の電子のエネルギーを調 べるものである [1,2] 。その原理は、次のエネルギー 保存則で表される。 hv = E B + φ Ana + E K 、つまり、 E B = hv - φ Ana - E K ここで、 E B は電子が物質内で有していた束縛エ ネルギー、 φ Ana は光電子アナライザーの仕事関数、 E K は光電子アナライザーで観測した光電子の運動 エネルギーである。 E B は物質中の元素、化学結合 状態などによって値が異なるため、これを調べるこ とで物質の性質を知ることができる。光電子分光は、 物質の中の電子を直接取り出し観測するため、物質 の電子状態を詳細に評価することが可能である。一 方で、 X 線を検出する手法と比べると、表面敏感で あり、また、電場、磁場、圧力といった外場を印加 した状態での測定が難しいという弱点もある。 ここまでが通常の光電子測定の概要であるが、角 度分解光電子分光( ARPES )測定の場合、さらに 光電子の放出角度を分解して検出する。 ARPES 測 定の模式図を 図 1 に示す。この時、光電子の放出角 度、エネルギーと物質内で有していた電子の運動量 の間に次の関係式が成り立つ。 図 1 : ARPES 測定の模式図。 || || 2 ℏ cos 2 sin ℏ 126 SPring-8/SACLA/NanoTerasu Information /Vol.1 No.2 SEPTEMBER 2025 BEAMLINES・ACCELERATORS ここで、 K || (⊥) は光電子の試料表面平行(垂直) 方向の運動量、θは試料表面と光電子放出方向のな す角、 k || (⊥) は物質内の電子の試料表面平行(垂直) 方向の運動量、 m は物質内の電子の質量、ℏはプラ ンク定数、 V 0 は内部ポテンシャルである。この関 係式から、物質中の電子がどのように運動している かがわかる。この情報は、超伝導体の形成機構やト ポロジカル絶縁体の表面伝導機構など、様々な魅力 的な物性起源の解明に必要なものである。 ARPES 測定を高効率かつ高精度に測定するには、光電子を 高スループットで高エネルギー分解能かつ高角度分 解能で検出可能な光電子アナライザーだけでなく、 ビーム性能としても、高フラックス、高エネルギー 分解能、高空間分解能が必要である。 2.BL06U の概要 NanoTerasu 共用ビームラインは量子科学技術研 究開発機構( QST )と高輝度光科学研究センター ( JASRI )が共同で運営を行っており、 2025 年 3 月 3 日より共用利用が開始された [3] 。そのうちの 1 つ である、軟X線ナノ角度分解光電子分光ビームライ ン BL06U は 50 ~ 1000 eV の真空紫外から軟Ⅹ線領 域の幅広いエネルギー領域で ARPES 計測が可能な ビームラインである [4] 。光源として、 Apple-II 型ア ンジュレータが用いられており、水平・垂直直線偏 光、および左右円偏光を利用可能である。 図 2 に BL06U のビームラインレイアウトを示す。 本ビームラインには、共用実験に供されている B ブ ランチと 2026 年度の共用開始が計画されている 100 nm 程度の集光ビームの利用を目指したナノ ARPES 装置を有する A ブランチがある。本稿では、ビーム ライン光学系、および B ブランチ最下流に配置され ているマイクロ ARPES 装置に焦点を絞って紹介する。 BL06U では、分光器として等刻線間隔平面回折 格子を用いた可変偏角平行化分光器が採用されてお り、ビームの縦方向の角度発散を自由自在に制御可 能である。これにより、エネルギー分解能を優先さ せるモード (高発散角モード) と試料位置でのフラッ クスを優先させるモード(低発散角モード)といっ た異なる性格のモードを全エネルギー領域で使い分 けることが可能である。回折格子としては 1200 本 /mm と 600 本 /mm の刻線本数のものを備えている。 回折格子で分散されたビームは M3 ミラーで A また は B ブランチに振り分けられ、各々の出射スリット ( S2 )位置に集光される。ビームのエネルギー分解 能は、 S2 の縦スリット開口幅に依存する。例えば、 ビームエネルギー E = 65 eV で 1200 本 /mm の回折格 子のときに、 S2 縦開口幅を 30 μ m に設定することで、 ビームのエネルギー分解能 Δ E ~ 1.1 meV (つまり、 E / Δ E ~ 60000 )と非常に高分解能なビーム性能が達 成されている。 S2 で分光されたビームは ARPES 装 置の直前に設置された Monolithic Wolter 型ミラー ( M4 )で集光され、試料に照射される。 M4 ミラー によるビームサイズの縮小比は約 1/10 である。す なわち、 S2 開口が 100 μ m (縦)× 100 μ m (横)の とき、試料位置では 10 μ m 角程度の集光ビームが得 られる。一方、薄膜試料など、ビームサイズに拘り が無い場合は、 S2 横開口を広げることで、ビーム エネルギー分解能は維持した状態で高強度のビーム を利用した効率良い測定も可能である。 図 2 : BL 06 U のビームラインレイアウト [ 4 ] 。 図 3 :マイクロ ARPES 装置の写真と試料周りの座標系。 本装置には R 4000 光電子アナライザーと 6 軸試料 マニピュレータを搭載している。 SPring-8/SACLA/NanoTerasu 利用者情報/Vol.1 No.2 (2025 年 9月号) 127 ビームライン・加速器 図 3 にマイクロ ARPES 装置の写真、および試料 周りの配置構成を示す。本装置には X 、 Y 、 Z 、 Polar (θ) 、 Tilt 、 Azimuth の 6 軸電動マニピュレータ(た だし、 Azimuth は手動)とシエンタオミクロン社製 の R4000 光電子アナライザーが備わっている。本 装置は、 元々は広島大学 HiSOR で低エネルギーレー ザーを用いた ARPES 研究に利用されていた装置で あり、本アナライザーの高エネルギー分解能、高角 度分解能を活かして、数々の先端研究がなされてい た [5] 。さらに、 NanoTerasu に移設後、試料マニピュ レータには、世界的に見ても数少ない電流電圧印加 によるオペランド測定が可能な四端子電圧印加機構 が搭載された。試料は液体ヘリウムフローにより冷 却可能であり、試料最低温度は約 15 K である。試 料の表面処理として測定槽での劈開のほか、試料 準備槽で、アニール処理が可能である。アニール 処理にはセラミックヒーターによる背面輻射加熱 ( ≤ 600 ℃)と試料通電加熱( ≤ 10 A )の 2 種類がある。 なお、光電子アナライザーは、 2026A 期にシエ ンタオミクロン社の DA30 アナライザーにアップグ レードされる予定である。この DA30 アナライザー は、 R4000 アナライザーには無い、ディフレクター 機能を有することが特徴である。広い波数空間の電 子状態を調べるためには、広い角度範囲の光電子を 検出する必要がある。 R4000 アナライザーでは、ア ナライザースリットと平行方向の約 ± 15 ° の電子を 取り込むことが可能であるが、アナライザースリッ トと垂直方向は取り込み角度が小さいため、広い角 度範囲の光電子を検出するには、その方向に試料を 回転させる必要がある( BL06U では Tilt 方向) 。一 方で、 DA30 アナライザーの場合はディフレクター 機構により、試料を回転せずとも、アナライザース リットと垂直方向に関しても約 ± 15 ° の広い角度範 囲の光電子を取得可能である。この機能はマイクロ 集光ビームを用いた局所測定を行っているときに非 常に効果的である。特に、試料に不均一なドメイン 構造がある場合、試料を回転させることでX線照射 位置がずれ、ドメイン間にまたがった測定となって しまう恐れがあるが、 DA30 であれば、試料位置は 固定のため、単一ドメインでの測定を容易に実施可 能である。なお、 DA30 アップグレード後には、さ 図 4 : 2025 A 期のユーザー層割合。 らに光電子の持つスピン自由度を分解可能なスピン 検出器が導入される予定である。 2025A 期におけるユーザー実験の研究分野の割合 を 図 4 に示す。トポロジカル絶縁体、スピントロニ クス材料、ワイドギャップ半導体、強相関電子系が 大部分を占めている。ただし、それらの境界線は曖 昧であり、あくまでも参考程度としていただきたい。 3.ユーザビリティ向上・試料環境整備のための高 性能化 我々 JASRI スタッフは主にユーザー成果の最大化 を目的とし、ユーザー実験の利便性向上や測定可能 試料の広範化などに主眼を置いて、 ARPES 装置の 高性能化を行っている。これまでに我々は、 1 . 光 学系制御・ ARPES 測定連動ソフトウェア、 2 . ビー ム同軸観察ミラー機構、 3 . 四端子電圧印加ホルダー の開発を行った。 3 . 1 光学系制御・ ARPES 測定連動ソフトウェア これまで述べたとおり、幅広い 3 次元波数空間の 電子状態を調べるためには、試料を Tilt 回転させて ARPES 測定を行う k x ‒ k y 面内スキャン、および入射 光ビームエネルギーを変えて測定を行う k z スキャン を行う必要がある。これには、それぞれ、試料マニ ピュレータ駆動機構の制御、ビームライン光学系機 器の制御と光電子アナライザーの制御を連動させる 必要がある。 NanoTerasu BL06U と SPring-8 BL09XU ( HAXPES I ビームライン)では、ビームのエネルギー領域が 大きく異なるものの、光電子測定手法には多くの 128 SPring-8/SACLA/NanoTerasu Information /Vol.1 No.2 SEPTEMBER 2025 BEAMLINES・ACCELERATORS 共 通 点 が あ る。 例 え ば、 SPring-8 BL09XU で は、 SPring-8 パートナーユーザー課題の下で、軟 X 線領 域では盛んにおこなわれている共鳴光電子分光計測 を硬 X 線領域に拡張した共鳴 HAXPES 計測手法の 開発が行われた [6 ‒ 8] 。その手法は、元素吸収端付近 のエネルギー領域でビームエネルギーを掃引しなが ら、光電子測定を行うというものであり、 k z スキャ ンと必要な技術要素は同じである。また、 SPring-8 BL09XU では 1 μ m 角のマイクロ集光ビームを利用 した 3 次元空間分解電子状態解析も行われており、 試料位置を走査しながら光電子強度を取得するソフ トウェアの整備を行っている。また、どちらのビー ムラインでも、光学系制御に BL ‒ 774 、光電子アナ ライザー制御にシエンタオミクロン社のアナライ ザーが利用されているという共通点がある。そこで、 SPring-8 BL09XU および BL46XU ( HAXPES II )で 利用しているビームライン制御用 Web アプリケー ションソフトウェア [9] (以降、単にビームライン制 御ソフトウェアと呼ぶ)を NanoTerasu BL06U 用に 改造し導入した。 SPring-8 BL09XU のユーザー層と NanoTerasu BL06U のそれは大きく重なるため、ソ フトウェアの共通化は、ビームライン・施設間の横 断利用の促進に繋がると考える。 導入したビームライン制御ソフトウェアは以下の ものである。 ⅰ. Sequence Measurement Control ( 図 5 ) 光電子測定と各種光学系機器および試料マニ ピュレータの制御を連動したシーケンシャルな 自動測定を行う。 3 次元波数空間のバンドマッ ピング測定などに利用される。 ⅱ. 2D Mapping 試料表面方向に 2 次元的に走査しながら光電子 強度を取得する。試料中の測定位置決めに利用 する。 ⅲ. Control optics 測定に利用するビームエネルギーに応じて、ア ンジュレータギャップ幅、 M2 ・回折格子の角 度などの光学系機器を制御する。 ⅳ. Stage scan 光電子強度やビーム強度を利用して、光学系機 器、試料位置を調整するために使用する。 ⅴ. Energy scan 全電子収量法による吸収測定を行うために使用 する。 さらに、ソフトウェア導入に先だってアナライ ザー制御ソフトウェアを SPring-8 BL09XU で利用 されているシエンタオミクロン社製の PEAK ソフト ウェアに更新した。これは従来使用されていたシエ ンタオミクロン社の SES ソフトウェアには無い光 電子測定と外部機器との連携機能を持つものである。 移植・導入されたビームライン制御ソフトウェ アは、これまでに SPring-8 でユーザー利用されて きたもので、主要なトラブルは修正してきたため、 NanoTerasu BL06U への導入において、大きな障害 は無いであろうと甘く考えていたが、光学系制御機 器が異なることや、ネットワーク・ PC 環境の違い により、大きな修正が必要であることが判明した。 そのため、様々な最新技術を導入することで、ソフ トウェアの安定化を図った。その結果、ソフトウェ アのインターフェイスはほぼ同じであるが、中身は より進化したものになっている。進化した技術は BL09XU のソフトウェアにも相互にフィードバック される予定である。さらに、試料マニピュレータ制 御ソフトウェアや、各種光学系機器の状態監視ソフ トウェアなども独自開発している。 3 . 2 ビーム同軸観察ミラー機構 試料内の元素や組成に不均一がある試料や、単 結晶試料であっても劈開や破断により得られた表 面、デバイス構造を有する薄膜試料などでは、電子 状態に空間的なドメイン構造ができる。測定したい 図 5 :光学系制御と APRES 測定の連動 Web アプリケー ション ” Sequence Measurement Control ” の画面。 SPring-8/SACLA/NanoTerasu 利用者情報/Vol.1 No.2 (2025 年 9月号) 129 ビームライン・加速器 ドメインが非常に小さい場合、測定希望箇所にピ ンポイントにビームを照射する必要がある。マイ クロ ARPES 装置における試料位置出しの際に、試 料観察のためのカメラが光電子アナライザー側に設 置されたものしか無く、アナライザースリット越し に観察するため、不鮮明な像しか得られないことか ら、試料位置出しに多くの時間を要していた。いく ら高フラックスビームを利用でき短時間に測定を完 了できるとしても、試料の位置出しに多くの時間を 割いてしまうようであれば、効率の良い実験はでき ない。そこで試料位置出しの高速化に繋がる高性能 化を行った。 SPring-8 BL09XU (および統合前の BL47XU )に おいて、同じ困難を克服するために、ビーム同軸か ら試料表面を観察する機構を開発した [10] 。この機 構は、ビーム軸に 45 ° 傾けた穴あきミラーを配置し、 ビーム軸と垂直方向から穴あきミラーを通して試料 表面を長作動距離顕微鏡により観察するものである。 ビームはミラーの穴の中を通って試料に照射される。 ユーザー試料の位置出しの前に、 X 線照射により発 光する Ce:YAG などの物質を使ってビーム位置を記 録しておけば、ユーザー試料の測定希望箇所をその 位置に配置することで、ビームを照射することが可 能である。その後、ビーム光軸方向に走査し、アナ ライザーレンズ軸に試料を位置させれば試料の位置 出しが完了する。長作動距離顕微鏡の分解能は数十 μ m のため、より詳細な位置出しには、 3.1 章の 2D Mapping ソフトウェアが必要であるが、位置出しに 要する時間は大幅に短縮される( BL09XU では約 4 時間要していたものが 30 分に短縮された例がある) とともに、その信頼性は大きく向上する。本機構は 2025B 期からの利用開始予定である。 3 . 3 四端子電圧印加ホルダー 上述のとおり、 BL06U の試料マニピュレータに は四端子電流電圧印加機構が搭載されている。これ により、デバイス動作下のバンド分散解析が可能で ある。例えば、グラフェン試料に電圧を印加するこ とで、電子を注入しディラックコーンの位置を変化 させ、表面電気伝導を変化させることができるが、 その時のバンド構造変化を直接観測した先行研究が ある [11] 。これまで、共用ユーザー向けの四端子試 料ホルダーが無かったため、その開発を行った。そ のプロトタイプの模型図、および写真を 図 6 に示す。 ホルダー下部の電極がホルダー内の端子台と繋がっ ており、そこから試料に配線することで、試料に電 流 / 電圧を印加可能である。このホルダーを用いた 予備測定を実施しており、四端子法を用いた電流電 圧測定を行いながら、 ARPES 測定を行うことに成 功している。さらに、本試料ホルダーを用いれば、 全電子収量法による X 線吸収分光測定も可能である。 今後も予備測定を通して試料ホルダーの改良を続け ていき、ユーザー共用に繋げる。 4.今後の展望 NanoTerasu 共用ビームライン BL06U の現状につ いて紹介した。本年 2025 年 3 月に共用を開始して、 本稿執筆時点で 4 か月ほど経過しており、いくつか の成果について論文投稿されている。新しいビーム ラインが稼働し始めて初期ということもあり、多く のトラブルが起こり、ユーザーの皆様にはご迷惑 をおかけしているが、徐々にトラブルの頻度も収 まってきている。今後も、 QST スタッフの皆様と 情報共有をより密にし、連携して、不具合事象の修 正や高性能化を進めていきたい。 BL06U では、今 後も大きな改造・高度化が実施される予定である。 2026 年度からは、 A ブランチで 100 nm 程度のナノ 集光ビームの利用を目指したナノ ARPES 装置が共 用開始される予定である。ビームの集光にゾーンプ レートではなくミラーを用いる予定であり、非常に 明るいナノ集光ビームを利用した局所 ARPES 解析 が可能となる。また、試料の搬送の自動化やスピン 検出器の導入も予定されている。一方、 B ブランチ 図 6 :四端子電圧印加ホルダーの模型図と写真。 130 SPring-8/SACLA/NanoTerasu Information /Vol.1 No.2 SEPTEMBER 2025 BEAMLINES・ACCELERATORS のマイクロ ARPES 装置は上述の通り、 DA30 アナ ライザーへの更新やスピン検出器の導入が予定され ている。また、試料準備槽の機能充実も予定されて いる。今後も多くの皆様のご利用を期待している。 謝辞 本稿の執筆にあたり、 QST NanoTerasu センター の 北 村 未 歩 博 士、 岩 澤 英 明 博 士、 西 野 史 博 士、 堀場弘司 グループリーダーから専門的・技術的コ メントをいただきました。原稿の全体構成について は JASRI ナノテラス事業推進室の本間徹生 グルー プリーダーと大石泰生 室長から多くのアドバイス をいただきました。ビームライン制御ソフトウェア の改造・導入につきましては JASRI 分光・イメー ジング推進室の藤保友希 様のご尽力をいただきま した。ここに深く御礼申し上げます。また、マイク ロ ARPES 装置の開発にご尽力いただいた広島大学 HiSOR の方々に感謝いたします。 参考文献 [ 1 ] S. Huefner: “ Photoelectron Spectroscopy, Principles and Applications, 3rd ed. ” (Springer Verlag, Berlin, 2003). [ 2 ] 髙桑雄二 編著 : X 線光電子分光法(講談社サイ エンティフィック , 2018 ) . [ 3 ] 宮脇淳 他、放射光、 37(2) (2024) 95. [ 4 ] K. Horiba et al .: J. Phys.: Conf. Ser. 2380 (2022) 012034. [ 5 ] H. Iwasawa et al .: Ultramicroscopy , 182 (2017) 85-91. [ 6 ] A. Yasui et al .: J. Synchrotron Rad ., 30 (2023) 1013. [ 7 ] 三村功次郎 他、 SPring-8/SACLA 利用者情報、 28(1) (2023) 12. [ 8 ] E. Ikenaga et al .: Sync. Rad. News , 31 (2018) 10. [ 9 ] A. Yasui et al .: SPring-8/SACLA Annual Report FY 2023 (2024) 33. [10] A. Yasui and Y. Takagi, SPring-8/SACLA Annual Report FY 2017 (2018) 90. [11] 例えば、 F. Joucken et al .: Nano Lett . 19 (2019) 2682. 保井 晃 YASUI Akira (公財)高輝度光科学研究センター ナノテラス事業推進室 利用研究推進グループ 〒 980 - 8579 宮城県仙台市青葉区荒巻字青葉 468 - 1 [兼]分光・イメージング推進室 光電子分光計測チーム 〒 679 - 5198 兵庫県佐用郡佐用町光都 1 - 1 - 1 TEL : 050 - 3496 - 8842 e-mail : a-yasui@jasri.jp 神田 龍彦 KANDA Tatsuhiko (公財)高輝度光科学研究センター ナノテラス事業推進室 利用研究推進グループ 〒 980 - 8579 宮城県仙台市青葉区荒巻字青葉 468 - 1 TEL : 050 - 3502 - 6481 e-mail : tatsuhiko.kanda@jasri.jp SPring-8/SACLA/NanoTerasu 利用者情報/Vol.1 No.2 (2025 年 9月号) 131 ビームライン・加速器