NanoTerasu共用ビームラインBL13Uについて
Introduction of public beamline at NanoTerasu : BL13U
執筆者情報
所属機関 Affiliation
(公財)高輝度光科学研究センター ナノテラス事業推進室 利用研究推進グループ
NanoTerasu Promotion Division, Japan Synchrotron Radiation Research Institute
抄録/Abstract
NanoTerasu では、3 本の軟X線ビームライン(BL02U、BL06U、BL13U)が共用ビームラインとして建設され、 本年3月から共用利用が開始された。軟X線吸収分光のビームラインであるBL13Uは、世界的にみても屈指の特色を有する。本稿では、利用者がそのようなビームラインの特色を十分に活かして、共用課題申請や共同課題実験を実施していただけるよう、BL13Uが持っているその特筆すべき特徴と、現状および将来計画について紹介させていただく。
本文
公益財団法人高輝度光科学研究センター ナノテラス事業推進室 脇 田 高 徳 NanoTerasu 共用ビームライン BL13U について Abstract NanoTerasu では、 3 本の軟 X 線ビームライン( BL02U 、 BL06U 、 BL13U )が共用ビームラインとして建設 され、 本年 3 月から共用利用が開始された。軟 X 線吸収分光のビームラインである BL13U は、世界的にみても 屈指の特色を有する。本稿では、利用者がそのようなビームラインの特色を十分に活かして、共用課題申請や 共同課題実験を実施していただけるよう、 BL13U が持っているその特筆すべき特徴と、現状および将来計画 について紹介させていただく。 1.はじめに X 線吸収分光( XAS )は、前世紀半ばに放射光に よる分光測定の試みが始まった当初から、放射光を 利用した測定技法の主要な柱の一つで有り続けてい る。使用されるエネルギーは軟 X 線から硬 X 線ま でに及ぶ。この手法では元素選択的に部分状態密度 や局所構造について情報を抽出できる。さらに、外 部磁場を印可して吸収強度の磁気円二色性( MCD ) を測定することで、強磁性体の軌道およびスピン磁 気モーメントを定量解析することも可能である。ま た、強磁性体の MCD や反強磁性体の磁気線二色性 ( MLD )の顕微分光測定から強磁性磁区構造や反強 磁性磁区構造を可視化することもできる。 このような X 線吸収分光を主要な測定手法とする 軟 X 線ビームラインである BL13U は、後述するよ うに、世界的にみても屈指の特色を有しており [1-3] 、 その特徴と現状および将来計画について以下に紹介 させていただく。 2.BL13U の特徴 BL13U は、令和 2 年 3 月の次世代放射光施設利用 研究検討委員会の報告書においてビームラインの 概形がその形を現し、量子科学技術研究開発機構 ( QST )においてさらに検討が進められて令和 4 年 度から現地建設作業が開始された。加速器や ID の 設置が進み、令和 5 年初めからビームライン光学系 装置の設置作業が開始され、令和 5 年の 12 月に 1st ビームを観測、令和 5 年度末に完成し、令和 6 年度 の試験的共用を経て、本年 3 月から共用利用が開始 された。 BL13U の特徴を端的に表す点として、二つだけ を特に挙げるとすれば、それは、 1 . 軟 X 線領域における偏光の高速スイッチングが 可能な光源を有すること 2 . 180 eV から 3000 eV までにおよぶ広いエネル ギー範囲での高強度の X 線が利用できること の二点である。この節では、この二点について少々 詳しく紹介する。なお、この第 2 節で紹介させてい ただく BL13U の設計および建設・整備は、 QST に より実施されたものである。高輝度光科学研究セン ター( JASRI )は、昨年 4 月より登録施設利用推進 機関として共用利用に関わる業務を担当しており、 JASRI の関わった整備については第 3 節以降に適宜 紹介させていただく。 2 . 1 高速偏光スイッチングの実現 スピントロニクス材料開発の最前線では、 MCD や MLD の微小なシグナルを顕微分光測定する必要 がしばしば生じる。そのような測定を高精度かつハ イスループットで実現するには、高速での偏光ス イッチングが必須となる。 高速偏光スイッチングは、可視光領域や硬 X 線 領域では適切な偏光子の利用により容易に実現され ている。一方で、軟 X 線領域では、 X 線と電子との 132 SPring-8/SACLA/NanoTerasu Information /Vol.1 No.2 SEPTEMBER 2025 BEAMLINES・ACCELERATORS 相互作用が強く、 X 線が簡単に吸収されてしまうた め、透過型の素子の開発は困難である。一方、反射 型の素子としては特殊な多層膜が開発されている が、現在のところ特定のエネルギーでの利用に限ら れている。そうした軟 X 線領域において、任意のエ ネルギーにおける任意の偏光を利用する手段として は、現状では放射光の利用が唯一の解となっている。 とりわけ、アンジュレーターは、磁石列を適切に選 ぶことで各種の偏光を自在に生み出すことができる。 中でも、 APPLE II 型アンジュレーターは、上下二 組ずつの計 4 つの磁石列から構成され、その相対位 置を変えることで、任意の角度の直線偏光や左右円 偏光、楕円偏光を一台のアンジュレーターにて生成 できる。当然、スイッチングへの利用も試みられて お り、 SPring-8 の BL23SU に お い て、 APPLE II 型 アンジュレーターの磁石列の機械駆動による偏光ス イッチング(~ 0.1 Hz )が実現された [4] 。しかしな がら、このような機械駆動では、偏光スイッチング のスピードを上げることが難しい。 放射光の偏光を高速でスイッチングする方式の 一つとして、これまでに「直列 2 台」のアンジュ レーター(蓄積リングの直線部を 2 台のアンジュ レーターで分割している、という意味で「分割アン ジュレーター( Segmented Undulator ) 」とよばれる ことがある)とキッカーマグネットを利用する方法 がいくつか考え出されている [5] 。例えば、 SPring-8 の BL25SU では、直列 2 台のヘリカルアンジュレー ターをそれぞれ右円偏光と左円偏光に設定し、 2 台 のアンジュレーターの前後及び中間に設置された 計 5 つのキッカーマグネットにより、アンジュレー ター内の軌道を交互に変調させることで、どちらか 一方の放射光のみを交互に取り出すことを可能にし、 それによって高速スイッチングが実現されている [6] 。 上述の SPring-8 の BL23SU においても現在はこの方 式が採用されている。しかしながら、第 4 世代の蓄 積リングでは、低エミッタンスの実現とキッカーマ グネットによる電子軌道の大きな変調とを両立させ ることができない。 2 台の分割アンジュレーターを使って偏光スイッ チングを実現する、まったく別の方式としては、分 割 ク ロ ス・ ア ン ジ ュ レ ー タ ー( Segmented Cross Undulator )の提案がある [7] 。分割クロス・アンジュ レーターとは、直列 2 台のアンジュレーターを、水 平偏光と垂直偏光にそれぞれ設定し、各アンジュ レーターから生成される直交する二つの直線偏光を、 例えば 90 ° (π /2 ) あるいは ‒ 90 ° (‒π /2 ) の位相差で 図 1 分割クロス・アンジュレーターの ( a ) 直線偏光の重ね合わせ、及び ( b ) 円偏光の重ね合わせ。 SPring-8/SACLA/NanoTerasu 利用者情報/Vol.1 No.2 (2025 年 9月号) 133 ビームライン・加速器 重ね合わせることにより右あるいは左円偏光を生成 する、というシンプルなアイデアに基礎をおく方式 である( 図 1 (a) ) 。任意の偏光の生成およびそのス イッチングを実現するには位相差をどのように制御 するのかがポイントとなる。二つのアンジュレー ターで生成される放射光の偏光の位相差は、アン ジュレーター内の電子のアンジュレーション軌道の 位相差に対応する。そこで、アンジュレーター間に 短い蛇行軌道をつくる移相器(電磁石)を挿入する と、電流値を適切に設定することで任意の位相差を 設定することが可能となる。あとは、移相器の電流 値の高速制御を実装することで、高速スイッチング が実現することになる。加えて、もしも直列 2 台の アンジュレーターを直線偏光ではなく、左右円偏光 に設定するならば、左右円偏光を任意の位相差で重 ね合わせることにより、任意の方向の直線偏光を生 成することも可能となる ( 図 1 (b) ) 。このような移 相器を用いるスイッチングは、キッカーマグネット を使用する場合と比較して、蓄積リングの電子軌道 への擾乱が大きく改善される。 ただし、 2 台の分割クロス・アンジュレーターの 放射光の重ね合わせで作られる円偏光(および直線 偏光)の偏光度は残念ながら高くない [7] 。しかしな 表 1 4 台の分割アンジュレーターの設定とその特徴のまとめ がら、分割クロス・アンジュレーターの数を直列に 増やしていくと、偏光度が大きく改善されることが 報告されており [8] 、しかも、 分割クロス ・ アンジュレー ターを 2 セット、すなわち 4 台のアンジュレーター を使用するだけでも十分な改善が見出されている [9] 。 そこで、 BL13U ではナノテラスの蓄積リングの 直線部の長さを考慮し、 4 台の APPLE II 型アンジュ レーターが導入されている [1-3] 。分割クロス・ア ンジュレーターの先行事例としては、 SPring-8 の BL07LSU において熱負荷低減のため採用された 8 の字アンジュレーター(水平・垂直直線偏光を生成 できる) を 8 台用いた分割クロス ・ アンジュレーター が既に実現されており、スイッチングのスピードは 13 Hz ( 77 ms 周期)が達成されている [10] 。この様な 移相器によるスイッチング方式は、 30 Hz 以上 ( 33 ms 周期)でも機能可能であるとの報告もあり [11] 、よ り高速でのスイッチングの実現性も高い。 なお、分割クロス・アンジュレーターから生成さ れる円偏光や直線偏光では、強度分布の中心付近の 偏光度が高く、そこから外れると偏光度が低下する。 4 台の分割アンジュレーターの場合、このような偏 光度についてのシミュレーションから、最上流の フロントエンド( FE )スリットの幅をある程度狭 134 SPring-8/SACLA/NanoTerasu Information /Vol.1 No.2 SEPTEMBER 2025 BEAMLINES・ACCELERATORS く(ビームプロファイルの 4 σの 75 %)設定するこ とにより、強度はやや犠牲になるものの、 1 次光の 偏光度を 90 % 以上 ( 3 次光 (円偏光) では 85 % 以上) に保てることが示されている [9] 。 2 . 2 広エネルギー範囲・高強度の実現 軟 X 線吸収分光では、偏光の利用とともに、ど のようなエネルギー範囲の X 線が利用できるのか が重要である。例えば、岩石中の生体細胞の分布を 調べたいとき、生体以外の化合物としても自然界に 豊富に存在している炭素( C K 端~ 280 eV )や窒素 ( N K 端~ 400 eV )の分布に加え、リン( P K 端~ 2150 eV )や硫黄( S K 端~ 2470 eV )の分布を同時 に測定できれば、分布の重なり合ったところに生体 が存在している可能性が高いと判断できる。従って、 このような場合には、これらの広いエネルギー範囲 に存在する吸収端を同時に測定できることが、極め て大きなメリットとなる。 BL13U の APPLE II 型 ア ン ジ ュ レ ー タ ー は、 56 mm × 10 周期の磁石列を有し、水平(垂直)直線 偏光の設定では 1 次光および 3 次光を利用すること で 180 ‒ 3000 eV ( 260 ‒ 3000 eV )の非常に広いエネ ルギー範囲の光源として利用可能である。一方、左 右円偏光の設定では高次光が中心軸から外れて放射 されるため 3 次光が利用出来ず、 185 ‒ 1450 eV の光 源として利用可能である。しかしながら、分割クロ ス・アンジュレーターにて直線偏光の重ね合わせで 円偏光を生成すれば、 260 ‒ 3000 eV のエネルギー範 囲が利用可能となる。 BL13U における各種偏光を 利用する際の分割アンジュレーターのそれぞれの設 定およびそのエネルギー範囲等の特徴を、 表 1 にま とめた(現状で使用可能な設定および今後の整備予 定については 3.1 節 および 4.1 節 を参照されたい) 。 このように、 BL13U の分割アンジュレーターか らは、 180 ‒ 3000 eV の広いエネルギー範囲の X 線が 生成される。しかしながら、実際にエンドステー ションにおいて、それらの X 線を高強度で利用可能 とするためには、それ相応の工夫が必要となる。鍵 となるのは、ビームラインを構成する各光学素子 ( 図 2 )の反射率を当該エネルギー範囲において高 く保つことである。その目的を達成するため、前 置集光鏡( M0 、 M1 ) 、ブランチ切り替え用平面鏡 ( M3 ) 、後置集光鏡( M4 )は、すべて入射角(反射 角)が 89 ° に設定されている。また、分光器を構成 する平面鏡 ( M2 ) および回折格子 ( G ) は、偏角 (入 射角 α と反射角 β の和)が可変であり、 cos α /cos β の 比( c ff )を一定とすることでエネルギー収差を低減 するとともに、高エネルギー側で偏角がより大きな 値をとるため、反射率の低下防止に役立っている。 加えて、 M1 および M2 の表面は、 ( 1 )素地の Si が露出しているところ、 ( 2 ) Au コーティングされ ているところ、 ( 3 ) Pd コーティングされていると ころの 3 つに分かれており、ミラーの位置を光軸に 垂直な方向に沿って変位させることで、反射面の元 素が選べるようになっている。 M3 では、 Si 面と Pd 面の二つから選択可能である。 Si 面は低エネルギー 領域、 Pd 面は高エネルギー領域、 Au 面はその中間 のエネルギー領域でそれぞれ相対的に高い反射率を 有するため、使用するエネルギー領域に応じて反射 面を選択することで、全エネルギー範囲で十分な反 射率を設定することができる(なお、光軸と垂直な 方向に曲率をもつ M0 および二つの M4 (ウォルター ミラーとトロイダルミラー)については、それぞ れ Au 、 Pd 、 Au の単一のコート面が採用されており、 選択性は付与されていない) 。 さらに、回折格子の表面においても回折効率の低 下を避けるための二つの工夫が施されている。一つ は、広いエネルギー範囲で高い回折効率を示すラ 図 2 BL 13 U を構成する光学素子の配置の模式図。 SPring-8/SACLA/NanoTerasu 利用者情報/Vol.1 No.2 (2025 年 9月号) 135 ビームライン・加速器 ミナー型の刻線形状が選択されている。二つ目に は、刻線深さ 10 nm の Au コート面、刻線深さ 10 nm の Pd コート面、刻線深さ 20 nm の Pd コート面の 3 種類が、一つの回折格子上に平行に加工されており、 光軸に対して垂直な方向の変位によって、そのうち の一つを選択できるようになっている。これらの工 夫、および前述の偏角が可変であるという特徴、さ らには小さな光源点であることにより光学素子上で 放射光が有効領域をはみ出さないような入射角の範 囲を広く設定できることによって、 BL13U では 180 ‒ 3000 eV の広いエネルギー領域を、一つの回折格 子(中心刻線密度 600 本 /mm )によってカバーする ことが可能となっている。既存の多くの軟 X 線の ビームラインでは、使用するエネルギー領域に応じ て複数の回折格子を使い分けたり、高エネルギー側 では結晶分光器を併用したりする方式が採用され てきた。そうした中にあって、 BL13U においては、 180 ‒ 3000 eV の広いエネルギー範囲を一つの回折格 子により利用可能とする特徴は、特筆すべき点であ る。この特徴により、光軸調整が極めて簡便になる とともに、本年 3 月から開始された共用実験におい ても、ユーザーに対して非常に高い利便性を提供し ている。 180 ‒ 3000 eV の放射光が利用可能であることによ り、 図 3 に示したような広範な各種吸収端について 測定を実施することが可能である。各吸収端のエネ ルギー値は文献 [12] の値を記載している。なお、放 射性同位体のみ存在する元素は測定することができ ないため、除外している。また、実際に試料を持ち 込んで実験を行うことが可能か否かについては、当 該試料の状態、毒性、放射性等の諸要素を考慮す る必要がある。そのため、 図 3 に記載された元素が、 必ずしも実験対象として受け入れ可能であるとは限 らない点に留意されたい。 図 4 は、実際に放射光の強度の X 線エネルギー依 存性を水平直線偏光の場合について測定した結果で 図 3 180 eV ~ 3000 eV の範囲にて ( a ) 測定可能な吸収 端を有する元素、 ( b ) 吸収端のエネルギー値の一 覧、および ( c ) そのプロット。 図 4 X 線強度のX線エネルギー依存性。偏光は水平直 線偏光。 図 5 BN 粉末の B K 端近傍のX線吸収スペクトルおよ び RuO 2 粉末の Ru L 3 端近傍のX線吸収スペクトル。 それぞれ TEY および PFY にて測定。ピーク強度 にて規格化して示している。 136 SPring-8/SACLA/NanoTerasu Information /Vol.1 No.2 SEPTEMBER 2025 BEAMLINES・ACCELERATORS ある。主として Pd 面と若干の Au 面を用いた設定 (高 エネルギー側で強い強度が得られる)と、主として Si 面と若干の Au 面を混ぜた設定(低エネルギー側 で強い強度が得られる)における測定結果を比較し ている。コート面選択の参考にご利用いただきたい。 なお、主として Si 面を用いる設定は、 2000 eV 以上 の高次光の除去にも活用できる。 図 5 は、後述の汎用 XAS 装置にて試験測定した 際の BN 粉末の B K 端スペクトルと、 RuO 2 粉末の Ru L 3 端スペクトルである。 BL13U で使用可能なエ ネルギー範囲の両端付近で、全電子収量( TEY )お よび部分蛍光収量( PFY )が、ともに十分な強度で の測定ができていることが見て取れる( BN 粉末は 導電性が低いため B K 端の TEY は S/N 比が不十分 であるが、繰り返し測定により高 S/N 比での測定が 可能である) 。 TEY と PFY の各スペクトル構造に見 られる差異は、後述の表面成分とバルク成分の違い を反映していると考えられる。 エネルギー分解能の設計値は、全エネルギー領 域で E/ Δ E = 10000 と計算されており、実際、窒素 ガスのイオン収量測定から、 400 eV 前後において E/ Δ E ~ 11000 であることが確認されている [3] 。また、 分光後のフラックスについては、 500 ‒ 1000 eV の範 囲で 10 12 photons/s 以上と計算されており、それ以 外のほとんどのエネルギー領域では 10 11 photons/s 以 上 と 計 算 さ れ て い る( 3000 eV 近 傍 で は 10 11 photons/s をわずかに下回る) [2] 。 次節では、分割アンジュレーターおよびエンドス テーションの現在の状況について述べる。 3.BL13U の現在 3 . 1 分割アンジュレーター 分割クロス・アンジュレーターと移相器を用いた 偏光スイッチングは、蓄積リングの電子軌道へ与え る影響が小さいとはいえ、第四世代の蓄積リングの 一部として調和させるには、やはり様々な要素技術 の開発が必要となる。すなわち、 •電磁石移相器高速制御システムの開発 •スイッチング時の電子ビーム軌道への影響の低減 •アンジュレーターのギャップ値と移相器の電流値 を適切に同期させる方法の確立 がそれぞれ完遂されねばならない。現在、 BL13U では~ 10 Hz の高速スイッチングの早期実現を目指 して QST による開発が進められている。現状では 4 台のアンジュレーターをクロス・アンジュレーター の配置に設定して(高速スイッチングはせずに)任 意のギャップ値で使用できるところまで整備が進ん でいる。 一方で、ギャップ値と移相器の電流値を適切に同 期させるプログラムは現在も開発中である。そのた め、現在の運用では 4 台あるアンジュレーターの内、 1 台のアンジュレーターのみを使用する形態にて共 用実験を実施している。これは、アンジュレーター 1 台でも十分に強い放射光強度が得られていること 図 6 ( a ) 顕微 XMCD ( μ XMCD )装置全体を上から見たときの模式図、 ( b ) 測定槽、 ( c ) 磁場印可時の永久磁石の配置 の模式図 SPring-8/SACLA/NanoTerasu 利用者情報/Vol.1 No.2 (2025 年 9月号) 137 ビームライン・加速器 に加え、 1 台で使用することで偏光度が最も高い条 件で放射光を利用できることによる。偏光としては 左右円偏光および水平・垂直直線偏光が利用でき る。円偏光(直線偏光)を用いる際は、 2 番目のア ンジュレーターにより右円偏光(水平直線偏光)を 使用し、 3 番目のアンジュレーターにより左円偏光 (垂直直線偏光)を使用する。使用しないアンジュ レーターは、ギャップを最大値( Full open )に設定 する。これにより、他のアンジュレーターからの X 線が混ざることによる偏光度の低下を防止している。 2番目と3番目のアンジュレーターを使用する理由 は、ビームライン設計上の光源点が2番目と3番目 のアンジュレーターの中間点に設定されており、実 際の光源点とのズレによる設計値からのズレが相対 的に小さいと期待されることによる。なお、この運 用は暫定的なものであり、いずれは 4 台すべてを活 用して実験が実施できるよう整備される予定である ( 表 1 および 4.1 節 参照) 。 3 . 2 顕微 XMCD ( μ XMCD )装置 A ブ ラ ン チ に は、 常 設 の 測 定 装 置 と し て 顕 微 XMCD ( μ XMCD ) 装置が QST により整備されている。 この装置はロードロック槽と超高真空環境( 10 -7 ~ 10 -8 Pa )の測定槽、試料バンク槽および成膜槽から 構成され、試料は各真空槽間を真空環境下にて移送 可能である。 ( 図 6 (a) ) 。測定槽( 図 6 (b) )は、 2 つある後置集光鏡( M4 )の内、ウォルターミラー の集光点に設置されている。このウォルターミラー は幾何光学の範囲にて、集光点において X 線のサ イズを分光器の出射スリットのサイズの 1/20 に縮 小できる設計となっている。実際に観測される最小 サイズは、集光点において 3 μm × 3 μm 程度である。 また、測定槽内では永久磁石により 160 mT の磁場 を試料に印可できる( 図 6 (c) ) 。磁場の印可方向は 水平面内で自由に設定可能である。 試料はいわゆるオミクロンプレートと呼ばれる試 料キャリアー( 図 8 (a) )上に設置・固定した状態 でロードロック槽に封入する(この試料キャリアー の規格は BL02U 、 BL06U と共通となっている。後 述の通電加熱用試料キャリアーは BL06U と共通で ある) 。ロードロック槽( 図 7 (b) )には、 4 つまで 試料を封入することができる。また、ロードロック 槽直下の試料バンク槽( 図 7 (b) )には、 10 個まで 試料キャリアーを保持できる。試料バンク槽には成 膜槽( 図 7 (a) )が併設されており、この成膜槽を 図 7 ( a ) 成膜槽、 ( b ) ロードロック槽及び試料バンク槽 図 8 ( a ) オミクロンプレート型試料キャリアー。 ( b ) 通電加熱用の試料キャリアー(中央に XEOL 測定用の穴が開いている) 。 138 SPring-8/SACLA/NanoTerasu Information /Vol.1 No.2 SEPTEMBER 2025 BEAMLINES・ACCELERATORS 用いると金属膜の作製や通電加熱による試料加熱が できる。なお、通電加熱には専用の試料キャリアー を使用する( 図 8 (b) ) 。通電加熱は、測定槽でも実 施可能であり、加えて電流を流しながら、あるいは 電圧を印可しながらの測定も実施可能である。試料 は液体窒素による冷やし切りにより、 160 K まで冷 却することができる。 ロードロック槽への試料封入後は、試料からのガ ス放出の程度に応じて、 1 ~ 2 時間程度の真空引き後、 10 -5 Pa 台の前半に到達したところで、測定槽への試 料の移送を開始している。 測定手法としては、 TEY 、 PFY 、 X 線励起可視 発光( XEOL )収量による XAS 測定が可能である。 TEY では試料電流計測器を用いて計測し、 PFY で はシリコンドリフト検出器( SDD ) 、 XEOL 収量で はフォトダイオードを用いて、それぞれ計測する。 SDD による PFY 測定では、専用ソフトウェアを 用いて、まず蛍光スペクトルを測定し、そのスペク トルの中から特定の元素に対応する注目エネルギー 領域( ROI )を最大4つまで設定する。設定した ROI の範囲で積分した信号強度( PFY )を特定の吸 収端近傍で X 線のエネルギーを変化させながら計測 することで、 X 線吸収スペクトルが得られる。同時 に、各測定点のエネルギーと、その測定点での蛍光 スペクトルとのマトリクスのファイルも保存される (このマトリクスを使用することで、蛍光スペクト ルの確認や、改めて ROI を設定して対応する X 線 吸収スペクトルを得ることもできる) 。この PFY の 信号は TEY の信号と同時に計測することができる。 加えて、特定のエネルギーの X 線照射下で計測され る各 ROI の積分信号強度を、試料位置について二 次元走査することで、各 ROI に対応する元素の二 次元分布のマッピングデータも取得できる。 と こ ろ で、 TEY と PFY で は 検 出 深 さ が 異 な っ ており、 TEY では測定する吸収端以降の X 線エネ ルギーで励起されるオージェ電子の脱出深さ(~ 数 nm )に主として依存する。一方、 PFY では、蛍 光 X 線の脱出深さ(~ μm )に依存する。したがっ て、 TEY スペクトルの方が表面の情報(表面成分) をより多く有し、 PFY スペクトルの方が試料内部 (バルク)の情報(バルク成分)をより多く有する。 TEY と PFY が同時計測できることにより、エネル ギー的に分離している表面成分とバルク成分につい ては、両者の相対強度の変化からそれぞれを区別す ることが可能となる。 ただし、 PFY では、測定したい元素の試料中の 濃度が高い場合や、試料の厚さが厚い場合には、い わゆる自己吸収効果によるスペクトルの歪みが生じ る [13] 。もしも、そのような試料を、元素や濃度に 依存して決まる粒径(数十 nm ~数百 nm )以下の サイズの粒子に粉末化することができれば、例えば、 そのような粉末をカーボンテープ上にうっすらと塗 布することで、実質的な濃度を下げ、スペクトルの 歪みを避けることが可能である。あるいは、やはり 元素や濃度に依存して決まる膜厚(数十 nm ~数百 nm )以下の厚さでの薄膜化が可能である場合には、 同様にスペクトルの歪みを避けることができる。 また、酸素よりも原子番号の大きい元素の酸化物 では、高濃度の場合や厚さが厚い場合においても、 歪みのない X 線吸収スペクトルを得る方法が知ら れている [14] 。酸素の結合相手の元素の吸収端にお いて酸素の PFY を計測すると、結合相手の吸収が 強くなる吸収端以上のエネルギー領域において、酸 素の PFY の減少が観測される。このとき、酸素の PFY を入射光の強度で規格化した後に逆数をとると、 酸素の結合相手の元素の歪みのない X 線吸収スペク トルが得られることが見出され、逆 PFY ( Inverse partial fluorescence yield, IPFY )法と呼ばれている。 IPFY 測定も、同時計測が可能である。 XEOL 収量による XAS 測定とは、 X 線励起によ り可視発光する基板上に作成された薄膜試料系に おいて、薄膜試料を透過した X 線により基板内で XEOL が生じることを利用する手法であり、その収 量から透過型の X 線吸収スペクトルが得られる。顕 微 XMCD 装置の測定槽では、 XEOL 収量を測定す るため、マニピュレーター先端に設置した試料の裏 面側にフォトダイオードが装着できるようになって いる。また、あらかじめ中央に穴の開いた試料キャ リアー上に試料を設置することで、基板で生じた XEOL のシグナルが裏面のフォトダイオードにより 検出できる仕組みとなっている。 XEOL 収量のシグ ナルも、 TEY および PFY のシグナルと同時計測す SPring-8/SACLA/NanoTerasu 利用者情報/Vol.1 No.2 (2025 年 9月号) 139 ビームライン・加速器 ることができる。十分な XEOL 収量が得られる基 板の選定( MgO や Gd 3 Ga 5 O 12 ( GGG ) など)と、透 過型測定に最適な膜厚についての制限はあるものの、 条件を満たす試料については、バルクの情報を得る 手法として活用が期待される。 これらの XAS 測定および二次元マッピング測定 では、試料位置をいくつか変えながら一連の XAS 測定を実施したり、あるいは X 線のエネルギーを吸 収端の前後でいくつか変えながら一連の二次元マッ ピング測定を実施したりする場合がある。 BL13U ではそのような一連の測定を自動化するシーケンス プログラムを JASRI が開発し、ユーザー利用課題 に提供している。このプログラムを活用してもらう ことで、昼間に実験条件を確定し、夜間に長時間の 自動測定を実施するような実験の遂行が可能となっ ている。 3 . 3 汎用 XAS 装置(トロイダルミラーの集光光軸 上のフリーポート) A ブランチの顕微 XMCD 装置の下流側は、フリー ポートが二つ準備されている。一つは、後置鏡のト ロイダルミラーにより集光した X 線が利用可能な ポートであり、もう一つは、 S2 スリット後の非集 光の状態の X 線がそのまま利用可能なポートである。 トロイダルミラーは、幾何光学の範囲において、 X 線のサイズを集光点で分光器の出射スリットの サイズの 1/4 に縮小できる設計となっている。実際 に観測される最小サイズは、集光点において 17 μm ( H ) × 10 μm ( V ) 程度である。前節で紹介した顕微 XMCD 装置は超高真空装置であるが、天然鉱物や 生体試料など、超高真空環境下での測定にはなじ まない試料についての研究需要も少なくない。そ のような需要に対応するため、より圧力の高い環 境下においても測定できる装置(汎用 XAS 装置) を、トロイダルミラーの集光光軸上のフリーポー トに JASRI が製作・設置し、本年 3 月~ 4 月にかけ て立ち上げを行った( 図 9 ) 。 5 月からは共同利用 での運用も始まっている。この装置は、上流側に Φ 5 mm のオリフィスが 2 か所に直列に設置された差 動排気システムを装備し、 10 -4 Pa 台の圧力でも上流 側に影響を与えることなく実験を実施できる環境と なっている。同装置では TEY 測定ができるととも に、 SDD も装備しており、 TEY と PFY の同時計測 が可能となっている。また、顕微 XMCD 装置同様、 試料位置をいくつか変えながらの一連の XAS 測定 の実施や、 X 線のエネルギーをいくつか変えながら の一連の二次元マッピング測定の実施を自動化する シーケンスプログラムを開発し、ユーザー利用課題 に提供している。 汎用 XAS 装置における試料の導入については、 現在のところ、測定槽をベントしてマニピュレー ターの先端に多数の試料を並べた試料プレート( 図 図 9 汎用 XAS 装置 140 SPring-8/SACLA/NanoTerasu Information /Vol.1 No.2 SEPTEMBER 2025 BEAMLINES・ACCELERATORS 10 (a) )を取り付け、真空引き開始後、 10 -4 Pa 台ま で圧力が下がったところで実験を開始する形で運用 している。今後は、ロードロック槽を追加し、測定 槽をベントすることなく実験が開始できる方式も整 備していく予定である ( 図 10 (b) および 4.3 節 参照) 。 3 . 4 事前試料導入準備槽 (オフライン) 及びグロー ブボックス 測定する試料によっては、ガス放出が多く、超高 真空環境を保持できない場合もある。そのような場 合には、事前に試料を真空引きして、ある程度の低 圧にまでガス放出を抑えられる状態になってから 超高真空槽への移送を行うことが考えられる。そ のような目的で使用する真空槽装置(事前試料導 入準備槽)を JASRI が整備した( 図 11 (a) ) 。また、 BL02U の紹介記事にも記載されていたように、グ ローブボックス ( 図 11 (b) ) も JASRI で整備しており、 嫌気性の試料の準備を実施することが可能となった。 グローブボックスから大気にさらさずに測定槽に移 送するためのスーツケースの利用は今後整備される 予定である。 3 . 5 データ解析 BL13U では、測定した複数のデータをその場で すぐに比較したり、二次元マッピングのデータから 測定したい試料位置を読み取ったりするため、市販 の解析用のソフトウェアにおいてデータを迅速にそ の場で解析するためのマクロを JASRI で準備し、利 用者に提供している。利用者はこのマクロのファイ ルをデータとともにコピーして持ち帰ることができ る。また解析結果をテキストファイルに変換して保 存し、持ち帰ることも可能となっている。 次節では、分割アンジュレーターおよびエンドス テーションの今後の整備予定について述べる。 4.BL13U での今後の整備予定 4 . 1 分割アンジュレーターの整備 現在、偏光スイッチングの実現を最優先とする整 備が QST により進められており、今年度から来年 図 10 ( a ) 汎用 XAS 用の試料プレート。一度に 10 個程 度の試料を載せることが可能。 ( b ) オミクロンプ レートとそのレセプター。ロードロックが整備さ れた際に使用予定。顕微 XMCD で測定した試料 をそのまま測定する用途にも使用できる。 図 11 ( a ) 事前試料導入準備槽、 ( b ) グローブボックス SPring-8/SACLA/NanoTerasu 利用者情報/Vol.1 No.2 (2025 年 9月号) 141 ビームライン・加速器 度にかけての期間内で、偏光スイッチングの利用開 始を目指している。計画では、まずは 4 台の分割ク ロス・アンジュレーターを同時使用した数 Hz での スイッチングにて運用し、近い将来 10 Hz の実現を 目指すことが予定されている。偏光スイッチングで は、直線偏光の重ねあわせにより円偏光を生成する ため、直線偏光の 3 次光を利用して 3000 eV までの 円偏光が利用できるようになる。一方、円偏光の 重ね合わせにより生成する直線偏光(スイッチン グが可能)では、利用可能なエネルギーの上限が 1450 eV までとなる( 表 1 参照) 。 4 . 2 顕微 XMCD 装置の整備 今年度あるいは来年度に予定されている整備とし ては、全蛍光収量測定( TFY )の整備が QST によ り予定されている。これは、 SDD による PFY では ロックインアンプ測定に対応できないことから、蛍 光収量法におけるロックインアンプ測定の需要に対 応するためである。また、 XAS 測定の On the fly 測 定や 4 台の分割クロス・アンジュレーターにおける 任意の偏光の利用に向けて、対応する計測プログラ ムを QST と JASRI が協力して整備していく予定で ある。試料周りに関しては、温度調整(液体 He 冷 却と温調)の実装が QST により予定されている。 4 . 3 汎用 XAS 装置の整備 計測プログラムの整備は、上述の顕微 XMCD 装 置と同様である。ここでは、今年度あるいは来年度 に JASRI によって予定されているハードウェアの 整備について述べる。現状では試料の導入は測定槽 をベントしてマニピュレーター先端の試料プレート を付け替える形で実施しているが、測定槽をベント すること無く試料が導入できれば、試料導入に要す るロスタイムを短縮することができる。そこで、オ ミクロンプレート型試料キャリアーのレセプターを 装備したロードロック槽を増設する予定である。ま た、試料の鉛直軸周りの回転角度を任意に変更する ため、モーター駆動可能な差動排気付き回転導入器 ( differentially pumped rotary feedthrough, DPRF )を マニピュレーター上部に装備する予定である。 4 . 4 高磁場 XMCD 装置の整備 A ブランチの下流では、非集光フリーポートの延 伸および超伝導電磁石による高磁場 XMCD 測定用 ステーションの建設が QST により予定されている。 2026A 期から試験運用を開始し、早期のユーザー利 用開始に向けた整備が進められる予定である。 4 . 5 B ブランチの整備 B ブランチでは、 QST によるフレネルゾーンプ レートによる集光系を有する透過型の XAS 測定実 験ステーションの製作が予定されている。この装 置では 10 nm の空間分解能の実現を目標としており、 早期のユーザー利用開始に向けた整備が進められる 予定である。 4 . 6 第一原理計算に取り組む利用者への支援 測定された X 線吸収スペクトルや XMCD スペク トルを、第一原理計算を用いて解析することで、よ り詳細な電子状態や局所構造の情報を得ることがで きる。これまでに多くの計算手法や計算コードが開 発されており、理論計算を専門とする研究者ではな くても計算ソフトウェアに接することができる機会 が増えてきている。しかしながら、そのような第一 原理計算のソフトウェアを適切に使いこなすには専 門家からの助言が欠かせない。そこで、 JASRI では、 第一原理計算に取り組む非専門家の利用者に対し、 希望があれば第一原理計算の専門家からの助言が得 られる支援環境の整備を進めている。このような支 援は、測定結果の研究的価値を高め、成果創出に直 結し易くする効果を持つと共に、新規ユーザーが軟 X 線吸収分光へ参入する際の障壁を下げる効果もも たらすと期待される。 5.まとめと展望 ここまで紹介させていただいたように、 BL13U は、分割アンジュレーターによる高速偏光スイッチ ングと 180 ‒ 3000 eV の放射光を高エネルギー分解 能・高強度で利用できるという特筆すべき特徴を有 するビームラインである。そのような放射光を活用 するエンドステーションとして、現在、 A ブランチ には常設の顕微 XMCD 装置( QST )およびフリー 142 SPring-8/SACLA/NanoTerasu Information /Vol.1 No.2 SEPTEMBER 2025 BEAMLINES・ACCELERATORS ポートの汎用 XAS 装置( JASRI )が製作され、共 用実験にて運用されるとともに、それぞれの装置に ついては、高機能化の整備も進められている状況に ある。今後も、 A ブランチの下流には超伝導電磁石 による高磁場 XMCD 装置の製作( QST )が予定さ れ、 B ブランチにはフレネルゾーンプレートによる ナノ集光 X 線を用いた透過型 XAS 装置の製作 ( QST ) が予定されている。また、第一原理計算に取り組む 非専門家の利用者への支援環境の整備( JASRI )も 進めている。 これらの既定の整備・開発に加えて、大気圧環境 下での XAS 測定システムの整備、あるいは偏光ス イッチングを活用した複素誘電率測定 [15] や分割ア ンジュレーターを活用したベクトルビームの生成 [16] なども、 BL13U の可能性を最大限に引き出すとい う視点において、今後の重要な検討課題である。 なお、エンドステーションの整備状況は、課題公 募時に公開されるビームライン情報の中に反映され 更新されていく予定である。利用者の方々には注視 していただきたい。ビームラインの共同利用は今春 より始まったばかりであり、様々な追加整備が現在 進行形であるが、今後 BL13U が世界の軟 X 線ビー ムラインの中で確固とした地位を築き、放射光科学 の発展に大きく寄与していく姿を皆様に見ていただ けたらと願っている。 6.謝辞 これまで、 BL13U の設計・建設・立ち上げ・運用 に関わってこられた QST 、 JASRI の関係者の方々を はじめとする、すべての方々に深く感謝申し上げる。 と り わ け、 QST NanoTerasu セ ン タ ー の 大 坪 嘉 之 博士、稲葉健斗 博士、 JASRI ナノテラス事業推進室 の 本 間 徹 生 博 士、 小 谷 佳 範 博 士、 菅 大 暉 博 士、 河 合 敬 宏 博 士、 小 出 明 広 博 士、 高 垣 昌 史 博 士、 横町和俊 氏には本稿の作成において大変お世話 になった。改めて心より御礼申し上げる。最後に NanoTerasu の運転・維持・管理に関わられている すべての方々に感謝の意を表する。 参考文献 [ 1 ] Y. Ohtsubo et al .: J. Phys.: Conf. Series 2380 (2022) 012037. [ 2 ] 宮脇淳 , 堀場弘司 , 大坪嘉之 , 放射光 37 , (2024) 95-103. [ 3 ] Y. Ohtsubo et al .: J. Phys.: Conf. Series 3010 (2025) 012079. [ 4 ] A. Agui et al .: Rev. Sci. Instrum. 72 (2001) 3191- 3197. [ 5 ] G. Ingold et al .: Proceedings of EPAC 2000 , Vienna, Austria (2000) 222-226. [ 6 ] T. Hara et al .: J. Synchrotron Rad ., 5 (1998) 426- 427. [ 7 ] J. Bahrdt et al .: Rev. Sci. Instrum . 63 (1992) 339- 342. [ 8 ] T. Tanaka and H. Kitamura, Nucl. Instrum. Methods Phys. Res. A 490 (2002) 583-591. [ 9 ] I. Matsuda et al .: e-J. Surf. Sci. Nanotechnol . 17 (2019) 41-48. [10] S. Yamamoto et al .: J. Synchrotron Rad . 21 (2014) 352-365. [11] I. Matsuda et al .: Nucl. Instum. Methods Phys. Res. A 767 (2014) 296. [12] A. C. Thompson et al .: X-ray data booklet (Lawrence Berkeley National Laboratory, University of California, Berkeley, CA 2009) chap.1, 2-7. [13] 高橋嘉夫 , 岩石鉱物科学 45 (2016) 93-98. [14] A. J. Achkar et al .: Phys. Rev. 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