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専用ビームラインにおける評価・審査の結果について
Review Results of Contract Beamlines

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登録施設利用促進機関(公財)高輝度光科学研究センター 利用推進部
Registered Institution for Facilities Use Promotion, User Administration Division, JASRI

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登録施設利用促進機関 公益財団法人高輝度光科学研究センター 利用推進部 専用ビームラインにおける評価・審査の結果について SPring-8 専用施設審査委員会において、以下の各専用ビームラインについて 2025 年 2 月及び 6 月に事後評価 及び延長評価を行い、それらの結果を 2025 年 8 月開催の SPring-8 選定委員会に諮り、承認されましたので報 告いたします。 記 事後評価 •兵庫県ビームライン ( BL24XU,BL08B2 ) (設置者:兵庫県) 事後評価 •フロンティアソフトマター開発産学連合ビームライン ( BL03XU ) (設置者:フロンティアソフトマター開発ビームライン産学連合体) 延長評価 • JAEA 重元素科学 I 、 II ビームライン ( BL22XU,BL23SU ) (設置者:日本原子力研究開発機構) 詳細は、以下に示す各施設の評価報告書をご覧ください。 SPring-8/SACLA/NanoTerasu 利用者情報/Vol.1 No.2 (2025 年 9月号) 197 SPring-8/SACLA/NanoTerasu 通信 兵庫県ビームライン(BL24XU, BL08B2)の 契約期間満了に伴う専用施設事後評価報告書 兵庫県は、 SPring-8 創設間もない 1998 年度より X 線マイクロビームの生成とその応用技術を核と した BL24XU 、さらに 2005 年度より汎用性の高い X 線吸収分光、粉末 X 線回折、単色 X 線トポグラ フィ、イメージングなどの機能を担う BL08B2 の運 用を開始し、企業ユーザーに専用ビームライン独自 の運用体制(フレキシブルなマシンタイム配分、迅 速かつ手厚い利用支援)でそのニーズに合わせた放 射光利用を提供し、放射光の産業利用に貢献して きた。 2015 年 4 月より BL08B2 の第 2 期計画が、ま た 2017 年 11 月より BL24XU の第 3 期計画が開始さ れ、 2021 年 2 月に両ビームライン計画に対する統合 的な中間評価結果が示された。 BL24XU の第 3 期計 画において「放射光を利用したことがない地元中 小企業などを支援」等の新たな方針も示されてお り、中間評価以降もそれに沿って運営を続けてきた が、 2025 年 4 月をもってビームラインの運営を終 了したい旨の申し出があり、 2 月に事後評価が実施 された。評価の対象は BL08B2 の第 2 期計画および BL24XU の第 3 期計画である。結果として、先進的 および汎用性も考慮した機器整備や測定手法の開発、 論文数・成果専有利用料・勉強会の開催数などの成 果指標に対しては十分な成果があったと認められる が、地元中小企業の支援等の観点からは問題の残る 結果であったと結論づけられた。 なお、今回の事後評価の対象外であるものの、評 価委員会では、ビームライン運営終了後の今後の活 動の方向性に対しても意見が出されたので、参考と して付記する。 ◎ BL 08 B 2 第2期計画および BL 24 XU 第3期計画に 対する評価 ビームラインの機器や機能には以下のようなもの が追加されている。〇分光器の液体窒素冷却化と最 適位置への移動、〇検出器 EIGER-1M の導入、〇 多波回折明視野 X 線トポグラフィ法の開発(以上 BL24XU ) 、〇試料自動交換ロボットの整備、〇検 出器 PILATUS-1M の導入、光学系機器自動アライ メント機能の追加、〇金属試料向けの加熱・引張試 験・腐食加速等の機器整備(以上 BL08B2 ) 。また 付随する実験室機器としての HAXPES-Lab の導入 の整備もある。このように、先進的な装置だけでな く、産業利用の裾野拡大を意識したものまでが幅広 く整備され、先端性と汎用性を両立させる取り組み がなされてきた。さらに、実験機器の拡充や高度化 も適切に実施されており、ビームラインと実験ス テーションの構成と性能については、当初計画を達 成できていたと評価された。 代表的な成果として、株式会社コベルコ科研との リチウム二次電池に関する応用研究、マツダ株式会 社と兵庫県立大学との自動車の各部品に関する応用 研究の他、兵庫県手延素麺協同組合に協力した素 麺の解析などが挙げられている。これらの活動の 成果の指標として、 2021 年の中間評価以降、 1 ) 毎 年度 20 報の論文、 2 ) 毎年度 12,000 千円の成果専有 料、のほかに 3 ) 毎年度 12 回以上の講演会、勉強会 開催が目標とされ、 1 ) は概ね達成、 2 ) 3 ) は目標を 大きく上回る成果があげられている。 1 ) について は目標そのものも決して多い数とは言えないが、産 業界からの利用者が多い現状を鑑みると妥当な成果 と考えられる。 2 ) については目標の 1.5 ~ 2 倍の収入、 3 ) については目標の 2 倍以上の開催数を数えている。 人材育成の観点からは、兵庫県立大学大学院生の実 習に利用して放射光人材育成に貢献しているほか、 企業の利用者に対する研修会も行われており、成果 があげられていると判断される。 一方で BL24XU 第 3 期計画における新たな基本方 針が設定されており、兵庫県ビームライン運営会議 の設置、管理運営の委託先として兵庫県立大学から 公益財団法人ひょうご科学技術協会への変更などを 通して放射光未経験ユーザーへの利用支援や新分野 のユーザー獲得などを志向することが謳われている。 とくに県内の中小企業への利用拡大が意識されたと 考えるが、素麺の解析などの事例はあるものの、報 告からは「十分な成果があげられた」とは言い難い 状況と判断された。この点は、目標未達よりもむし ろ目標設定そのもの、すなわち対象とする企業群の 選定やそれら企業からのニーズ把握そのものに問題 があったのではないかとの意見が委員会内で出され 198 SPring-8/SACLA/NanoTerasu Information /Vol.1 No.2 SEPTEMBER 2025 SPring-8/SACLA/NanoTerasu COMMUNICATIONS た。この他にも、上記のような先進的な実験環境の 整備が、中小企業も含めた幅広い潜在利用者のニー ズにマッチしていたかについて、疑問が呈された。 先端技術開発をアカデミアが主導した建設当初の運 営体制は、もう少し早い段階で見直しが必要であっ たのではないかとの意見が出された。また、今回の ビームライン運営終了の主因と考えられる、兵庫県 ビームラインの独自の産業利用に向けた運用体制を 支えてきた利用支援や技術相談を担う人員が十分に 確保できなかった点も残念である。これは、過去の 評価委員会でも指摘されていた、正規雇用研究員の 確保等による安定的な運用体制が実現できなかった ことに起因すると思われるが、できなかった理由に ついて兵庫県から「別途行われる県の本ビームライ ン運用に関わる事業計画の見直しに対応するため、 長期的な雇用の実現は難しかった」とコメントが あった。共用ビームラインとは異なる独自の運用体 制で放射光利用を提供できる点は専用ビームライン の強みであるが、その運用体制を放射光施設運用を 専門としない団体がいかに維持するかについては専 用ビームラインに共通する課題かと思われる。安全 確保の取り組みについては、これまでに重篤な事故 も無く、過去に問題が指摘された部分については改 善されており、適切であったと判定された。 今後兵庫県においては、ビームラインの運営その ものは理化学研究所にその任を移管し、利用者の立 場から産業利用を含めた放射光利用の活動を継続 されるとのことであり、本事後評価に至っている。 BL08B2 の第 2 期および BL24XU の第 3 期の活動に ついては、成果指標とされている論文数、成果専有 使用料等の面においては妥当な成果があり、また講 習会等を通じた人材育成の面でも十分な成果があっ たと評価できる。しかし一方で、新たな利用ニーズ の掘り起こし、中小企業者・地場産業への貢献等の 面では多くの課題の残る結果であったと評価される。 ◎ 活動方針に対するコメント 評価委員会では兵庫県の活動方針に対して委員か ら多くの意見が出された。中には今後の方針に関す るもので、本委員会の責務を超えるものもあったが、 参考のためそういった意見も含めて本報告書に記し ておきたい。 BL24XU は先進的なマイクロビーム利用技術を 有することで広く知られていた。今期の報告におい ても、多波回折明視野 X 線トポグラフィ法、金属材 料のその場測定技術、 X 線タイコグラフィ法などの 技術開発が報告されている。これらを産業応用に資 するためには、これらが駆使できる技術力を有する 企業の選定、それが有用に活用できる技術課題の探 索など非常な労力が必要である。一方で新たな活動 方針として未利用者からのニーズの掘り起こしや中 小企業・地場産業への貢献などが目標とされており、 これらに必要な労力は前記とずいぶん方向性が異な る。前述の通り、人員の確保の問題は、以前の評価 委員会からも指摘を受けており、この保有技術と目 標との乖離によってこの問題がますます顕著になっ たと考えられる。 今期の活動報告には、前述の人材育成や、マテリ アルインフォーマティクスに関する数多くの講習会 など、現在兵庫県が有している先進技術を多くの機 関が活用するための地固めの活動が地道に行われて いることが記されている。しかしながら上記の乖離 を埋めるための量的、質的な人材の確保は容易では なかったと想像される。今後は、どこか他の機関と 共同で役割分担のようなことを考えることも可能性 としてあるのではないかと考える。 BL24XU の活動開始以来、兵庫県は非常に高い放 射光活用技術を開発し、活用して来られた。今後も そのような技術が活かされる形での活動の継続を期 待するものである。 以 上 フロンティアソフトマター開発産学連合ビームライン (BL03XU) の運営終了に伴う事後評価報告書 フロンティアソフトマター開発産学連合ビームラ イン( BL03XU ) (以下、本ビームライン)は、学 術と企業の研究者が SPring-8 の高度な光源性能を駆 使してソフトマター(高分子材料)新素材の「もの づくり」を進めるという理念により、 2008 年に発 足したソフトマター製造企業と大学の対からなる SPring-8/SACLA/NanoTerasu 利用者情報/Vol.1 No.2 (2025 年 9月号) 199 SPring-8/SACLA/NanoTerasu 通信 研究グループで構成されるフロンティアソフトマ ター開発専用ビームライン産学連合体により建設さ れ 2010 年から本格的に運用が開始された。同産学 連合体は基本的に、先端放射光計測技術を用いたソ フトマター分野の「ものづくり」の共通課題解決に、 企業が大学と 1 対 1 のペアの研究グループ単位で活 動する産学連携体制で取り組むことを目的とした共 同体であり、企業単独で運営している専用ビームラ インと比較すると学術寄りの部分を担っている特色 がある。 19 研究グループで構成される体制でスタートし た第一期( 2009 年 9 月~ 2019 年 9 月)の後、第二期 ( 2019 年 9 月~ 2025 年 3 月)では 15 研究グループの 体制で運用された。この第二期は本来 2025 年 9 月 までであったが、期中の 2025 年 3 月までで専用施 設としてのビームラインの利用を終了する旨申し出 があった。これに基づき 2025 年 6 月 30 日に第二期 の事後評価を行った。 第一期で掲げられ、遂行された研究目標の高分子 材料の動的、極小・局所領域の構造と物性の相関解 析、変形機構・整形加工過程の解明について、第二 期ではその更なる成果拡大のためにこれら研究活動 における計測のハイスループット化、データ活用促 進が目標として掲げられた。その結果として、各種 実験の調整作業の効率化・自動化が実現され、ビー ムタイムの有効活用化、省力化が達成された。これ により、データ取得の大幅なハイスループット化は 図られたが、データ解析のハイスループット化や ビッグデータへの対応等のデータ活用促進には遅れ が見られた。そのため、データ取得のハイスルー プット化の恩恵を論文等の成果拡大に有効に活かし きれていないと思われる。しかしながら、 「学」が 牽引する先端的な計測技術開発を「産」が提示する ソフトマターの多様な「ものづくり」の課題に結び つけ、幅広い応用成果を創出したことは、特定の材 料分野に目的を特化して産学連携体制で活用すると いう世界に類を見ない形態で運用された本ビームラ インであればこそ成し得た成果であると言える。こ のような産業応用への大型研究施設の活用形態のモ デルケースを示せたことは高く評価できる。 以下、項目ごとの評価結果の詳細を記載する。 1 . 「 BL とステーションの構成と性能」に対する評価 本ビームラインは薄膜解析用の斜入射小角・広角 X 線散乱 ( GISAXS/WAXS ) 装置、 X 線反射率 ( XRR ) 測定装置を整備した第 1 実験ハッチと、幅広い q レ ンジに対応でき大型の高分子製造装置も試料部分 に設置できる WAXS 、 SAXS 装置を整備した第 2 実 験ハッチにより構成されている。第二期では第 1 実 験ハッチの GISAXS/WAXS 、 XRR の利用が減少し たことを受け、ハイスループット化の一環として、 ハッチ切り替えに要するビームライン調整時間の削 減のため、 XRR は閉鎖、 GISAXS/WAXS は第 2 ハッ チでの実施に統合し、第 1 ハッチは利用ニーズが高 まった超小角 X 線散乱( USAXS )の実験環境整備 で要求される入射側スリット系のスリット間距離を 確保するために利用された。第 2 ハッチの SAXS 装 置ではカメラ長変更の自動化、試料周りレイアウト、 マイクロビーム光学系調整の省力化が実現され、結 果として実験レイアウト変更・調整に要する時間の 約 300 時間程度削減というハイスループット化に成 功している。このような分析ニーズの変化に合わせ て最適化した効率的な実験実施環境を柔軟に構築で きたのは、測定技術ではなく分析対象とする材料分 野に特化した専用ビームラインというコンセプトが 効果的であったと評価できる。また、実験手法と しては各種散乱実験に加えて CT や XPCS 計測が整 備され、ダイナミクスを含めたソフトマターの構造、 物性研究を推進可能な実験環境が整えられた。 2 . 「施設運用及び利用体制」に対する評価 第一期終了時の利用状況評価では、安全管理や成 果管理において一体性や主体性を欠いている点が見 られるという指摘がなされていた。まず安全管理に ついては、実験における安全確認、あるいは安全教 育の一部が連合体を構成する機関ごとに行われてい るため、連合体としてこれらの安全管理が十分に行 われているかどうか把握されていない、という指摘 に対して、第一期から設置されている安全委員会に よる管理体制が見直され、定期安全点検実施等の活 動結果の情報は運営委員会での報告により連合体全 体で共有するとともに JASRI の利用推進部、安全衛 生委員会とも共有するなど改善が図られていた。ま 200 SPring-8/SACLA/NanoTerasu Information /Vol.1 No.2 SEPTEMBER 2025 SPring-8/SACLA/NanoTerasu COMMUNICATIONS た第二期に発生したコロナ禍に対しても適切な安全 対策が図られ、ハイスループット化による実験自動 化で実現可能になったメールインサービス運用の導 入によってビームライン利用を維持するなどの対策 がなされた。 次に成果管理については、各グループに任されて いる部分が多く、各実験課題における成果非専有/ 専有利用の基準が不透明であり、一体的な取り組み に欠けている、という指摘がされたが、第二期では 連合体内に設置された広報委員会により本ビームラ インの研究成果の取り扱いの管理、広報・啓蒙活動 を行う体制に改善されている。 3 . 「利用成果」に対する評価 第一期に引き続いて年間約 20 報の学術論文発表 のペースが維持できている(第二期計 116 報) 。し かし、特許に関しては第一期の 183 件に対し 29 件 と減少している。この原因として、ソフトマターへ の放射光 SAXS 応用が汎用化し、企業の事業におけ る本ビームライン利用の位置付けが特許の基本デー タ取得目的よりも製品の品質管理・改良のための分 析手法へとシフトしたことによるのではないかと報 告の中で分析している。また、論文発表のペースの 維持は評価されるべきではあるが、第二期で実現し た実験のハイスループット化によるデータ取得効率 向上を考えると、論文数の更なる拡大が期待される。 それが実現していない理由としては、第二期で掲げ ていたもう一つの目標であるデータ活用促進の遅れ によるものと考えられ、この点が惜しまれる。 しかしながら、本ビームラインの最大の特徴で ある産学連携体制により、 「学」によって牽引され た XPCS 、異常分散 X 線小角散乱、超小角 X 線散 乱、 SAXS-CT などの先端計測技術の開発を応用して、 モビリティー(タイヤゴム等) 、ライフサイエンス、 環境、エネルギーといった「ものづくり」の課題解 決に向けた多様な産業応用研究成果が創出されたこ とは評価に値する。 また、このような研究成果だけでなく、ワーク ショップや講習会など教育を目的とした活動にも連 合体として取り組まれており、参画機関の大学から 企業への学生の就職に結びつくなど、ソフトマター 分野の人材育成にも貢献している。 4 .総合評価 以上のように、産学連携体制でソフトマター分野 の材料開発研究に取り組むことに目的を特化した ビームラインとして、本分野の多様な研究成果創出 したことは評価に値する。今後はビームラインを理 化学研究所に返還し、ビームラインを持たない研究 共同体として活動を継続されるとのことであるが、 ソフトマター材料開発の共通課題に取り組む産学連 携連合体として更なる発展を期待したい。今後の連 合体の組織改変として、これまで企業・大学が 1 対 1 で研究グループを構成していたのに対し、このペ アの垣根をなくしてテーマ、解析手法でグループを 構成することが可能な体制も検討されているとのこ とであるが、これによって、より多様な研究成果が 創出されることを期待する。惜しむらくは第二期に 実現したハイスループット化をデータ活用促進の遅 れによって活かしきれなかったことであるが、デー タ活用を促進するにはその道の専門家と協力するこ とが重要であると思われるので、今後の活動におい てはデータ科学分野の研究者もメンバーに加えるこ とを検討されるのが良いかと考える。 以 上 JAEA 重元素科学 I、II ビームライン(BL22XU, BL23SU)延長評価報告書 2025 年 6 月 30 日に開催された第 43 回専用施設審 査委員会にて、日本原子力研究開発機構( JAEA ) が設置した重元素科学 I ビームライン( BL22XU ) 及び重元素科学 II ビームライン( BL23SU )の延長 計画に対する審査を行った。審査では、利用状況等 報告書、延長理由・延長計画書、及び口頭による報 告にもとづき、ビームライン( BL )とステーショ ンの構成と性能、施設運用及び利用体制、利用成果、 及び延長理由・延長計画の各項目について評価を 行った。その結果、第 2 期の施設運営が中間評価以 降に大きく改善され、延長計画も妥当であることか ら、 2025 年 10 月 1 日の設置期間満了より 5 年間の SPring-8/SACLA/NanoTerasu 利用者情報/Vol.1 No.2 (2025 年 9月号) 201 SPring-8/SACLA/NanoTerasu 通信 延長が承認された。 以下、項目毎の評価結果の詳細を記載する。 1 . BL とステーションの構成と性能 前回の中間評価での指摘に真摯に対応して実験ス テーションの構成と性能を大きく改善し、 JAEA の ミッションに直結した研究に資源を集中したことが 高く評価された。特に高評価であったのは、 RI 実 験棟での核燃料物質使用の体制を整え、福島第一原 子力発電所からの燃料デブリの分析実験を実現した 点である。既に相当なビームタイムを割当てて実験 が行われているようであり、社会的にもインパクト のある成果が期待できる。他にも JAEA のミッショ ンに合致した研究開発が重点化項目として設定さ れ、それらに合わせたステーション整備が進められ ている。また、 BL22XU に設置されていた量子科 学技術研究開発機構( QST )所有の装置の移設も進 み、 JAEA の重点化項目に集中できる環境が整いつ つある。以上のように多くの点で改善が進んだもの の、 BL23SU の上流側アンジュレーターの故障が深 刻な問題として残っており、早期の解決が望まれる。 2 .施設運用及び利用体制 この評価項目についても中間評価での指摘に適切 に対応していることが認められ、問題のない運用 及び利用体制と判定された。施設運用については、 JAEA のミッションにもとづく目標を明確に定め、 福島第一原子力発電所廃炉に貢献する研究を集中的 に実施するなど、 JAEA の特徴を活かした研究活動 を重点化していることが高く評価された。利用体制 についても評価は高く、 4 つのチームからなる 1 グ ループ体制に研究及び技術系組織が改編され、柔軟 かつ集中的に重点課題に取り組むための体制となっ ている。また、ミッションにもとづく研究活動とそ の他の研究開発の位置付けを明確化し、それぞれの 位置付けに応じて外部資金も取り入れながら運用さ れており、合理的な体制が構築されている。安全管 理についても、 RI 実験棟で核燃料物質を使用する ための体制が整えられ、問題ないと判定された。 3 .研究課題、内容、成果 JAEA 専用ビームラインでは、福島第一原子力発 電所の燃料デブリ分析、アクチノイド基礎科学、環 境・エネルギー材料に関する研究が重点化され、 RI 実験棟を活用した独自性ある成果が挙げられている。 特に、燃料デブリに対する世界初の放射光分析は、 JAEA ならではの成果として高く評価された。前回 の中間評価を受けて、組織改変とともに研究課題の 選定が進み、研究の方向性がより明確になったこと も評価でき、研究チームの役割分担と重点化された 研究体制により、成果の質と一貫性が向上した点は 注目に値する。一方で、新材料開発など一部の研究 テーマでは、 JAEA の専用施設で実施する必然性や ミッションとの関係をより明確にされることが望ま れる。また、 BL23SU の装置故障等による制約も研 究の展開に一定の影響を与えており、継続的な整備 が求められる。総じて、社会的意義と技術的先進性 を備えた研究が進展しており、今後も専用施設とし ての特色をより明確にして、戦略的に成果を発信し ていくことを期待する。 4 .今後の計画 今後の計画では、原子力と再生可能エネルギーの 融合、廃炉支援、資源循環など JAEA のミッション に即した研究課題に注力し、 RI 実験棟を中核とする 体制のもとで継続的な利用と成果創出が目指されて いる。 SPring-8-II への対応として、装置群の整備方 針や実施体制が提示されており、妥当な延長理由と 計画であると評価された。外部施設との連携活用や 柔軟な研究展開も視野に入れており、 長期的なビジョ ンを持つ計画である点も評価ポイントとなっている。 また、組織体制の整備により研究の推進体制が改善 されつつあることも確認された。一方で、継続的な 装置整備や予算確保、専用ビームラインとしての研 究課題の選別と差別化は今後も検討事項として残る。 特に、 BL23SU の光源修復計画の明確化が求められる。 前回の中間評価で指摘を受けて改善された研究計画 は、全体として独自性が認められるものであり、戦 略的な運営と明確なビジョンのもと、実験ステーショ ンの高度化と成果の継続的創出が期待される。 以 上 202 SPring-8/SACLA/NanoTerasu Information /Vol.1 No.2 SEPTEMBER 2025 SPring-8/SACLA/NanoTerasu COMMUNICATIONS