BL40XU改修(SAXS ID)について
BL40XU update to SAXS dedicated Beamline
執筆者情報
所属機関 Affiliation
(公財)高輝度光科学研究センター 回折・散乱推進室
Diffraction and Scattering Division, Japan Synchrotron Radiation Research Institute
抄録/Abstract
高輝度・準単色光を利用して多目的に利用されてきたBL40XUは、2024年度後半から改修を進め、2025年10月からSAXS専用のビームラインとして共用が開始された。SAXSコミュニティにとって待望されていた共用のSAXS専用アンジュレータBLである。この改修では、SPring-8-IIでの利用を見据えて光源を標準アンジュレータへ更新し、退避可能なDCCMの設置、マイクロビーム集光用のWolter ミラーの設置、10 mカメラ長への拡充を行った。これらにより、高分子材料の動的過程の追跡や、その場測定による構造形成過程の解析が可能となり、材料科学、生命科学、環境科学など幅広い分野での研究展開が期待される。
本文
公益財団法人高輝度光科学研究センター 回折・散乱推進室 関 口 博 史、 増 永 啓 康 BL40XU 改修 (SAXS ID) について Abstract 高輝度・準単色光を利用して多目的に利用されてきた BL40XU は、 2024 年度後半から改修を進め、 2025 年 10 月から SAXS 専用のビームラインとして共用が開始された。 SAXS コミュニティにとって待望されていた共 用の SAXS 専用アンジュレータ BL である。この改修では、 SPring-8-II での利用を見据えて光源を標準アンジュ レータへ更新し、退避可能な DCCM の設置、マイクロビーム集光用の Wolter ミラーの設置、 10 m カメラ長へ の拡充を行った。これらにより、高分子材料の動的過程の追跡や、その場測定による構造形成過程の解析が可 能となり、材料科学、生命科学、環境科学など幅広い分野での研究展開が期待される。 1.はじめに 2000 年 4 月の共用開始から、ヘリカルアンジュ レータからの準単色 X 線を用いて多目的に利用さ れ て き た BL40XU ( High flux ) [1] は、 2024 年 12 月 か ら 2025 年 3 月 ま で の 大 幅 な 改 修 を 経 て、 小 角 X 線散乱専用 BL40XU ( SAXS ID )としての共用 を 2025 年 10 月 に 再 始 動 さ せ た。 BL40XU 改 修 は、 SPring-8 サイト内の SAXS-BL 再編の一環で計画さ れ [2,3] 、 SAXS コミュニティや SPRUC 研究会、ユー ザーからご意見いただき、仕様を策定した。従来 の BL40XU で は、 実 験 ハ ッ チ 1 ( EH1 ) で SAXS/ WAXS 計測を、実験ハッチ 2 ( EH2 )で単結晶構造 解析を主にサポートしてきたが、 SAXS 専用 BL へ の改修にあたって、 BL40XU EH2 に設置していた 回折計は撤去された。単結晶構造解析のアクティビ ティーは BL05XU へ移設され、 2025B-III 期からの 共用開始に向けて準備が進められている( 図 1 ) 。 2.改修した点 改修後の BL40XU のレイアウトを 図 2 に示した。 主な改修内容は、 SPring-8-II での運用を想定した 標準アンジュレータ( IVU-II, 周期長 28 mm ) [4] へ の 更 新、 退 避 可 能 な DCCM ( Double Channel-Cut Monochromator )の設置、 SAXS カメラ位置へのソ フト集光可能なベンディングミラー( M1h, M3v ) の設置、サンプル位置へマイクロビーム集光可能な Wolter ミラー( M5w )の設置、 EH2 下流への検出 器用ブースの新設、カメラ距離 ( 2.2 m, 4 m, 10 m ) の切り替えが可能な常設 SAXS 測定システムの導入 などである。 図 2 改修後の BL 40 XU レイアウト 図 1 BL 40 XU 改修スケジュール 226 SPring-8/SACLA/NanoTerasu Information /Vol.1 No.3 DECEMBER 2025 BEAMLINES・ACCELERATORS サンプル位置は、 EH1 下流(光源から 52 m 位置) に固定され、 SAXS 切り替えパスが常設されたため、 切り替え時間の短さを活かした効率的な運用が見込 まれる。 改修前後の BL40XU 仕様の相違を 表 1 に示した。 SAXS ユーザーには、 DCCM による準単色ビーム・ 単色ビームの切り替え、マイクロビームの利用、ま たカメラ長 4 m, 10 m の測定が可能となった点を活 用いただきたい。 Wolter ミラーによるマイクロビーム集光について の水平ビームサイズは、光源から 33 m の距離にあ るフロントエンドスリットの開口幅を 0.05 mm にし た際のビームサイズ( 表 1 )を記載しているが、開 口幅を 0.01 mm とすることで、水平集光サイズは 2 μm程度まで絞ることが可能となる(フラックス は 1.0 × 10 11 phs 程度) 。 2025 年 10 月現在、 SAXS 検出器として PILATUS 1M (最大 25 Hz, Dectris ) と PILATUS3 X 100kA (最 大 500 Hz, Dectris ) 、 WAXS 検出器として EIGER 2S 500k (最大 40 Hz, Dectris )を利用可能である。 図 3 にカメラ長 2.1 m および 4 m に PILATUS 1M を配置 した際に、入射 X 線波長 0.1 nm 利用時のベヘン酸 銀散乱像と、各カメラ長における取得可能な q レン ジを示した。検出器は、高時間分解計測が可能な CITIUS 検出器(最大 17.4 kHz ) [5] を段階的に導入す る予定である。まずは X 線光子相関分光法( XPCS ) 用として CITIUS 840k をカメラ距離 10 m に設置し、 その後 WAXS 、 SAXS 用を順次配置する予定である。 表 1 改修前後の BL 40 XU 仕様の相違 *準単色光の利用を希望される場合は、課題申請時にビームライン担当者と打ち合わせを必要とする。 図 3 SAXS/USAXS の q レンジ BL 40 XU ( High flux )改修前 BL 40 XU ( SAXS ID )改修後 光源 ヘリカルアンジュレータ 標準アンジュレータ ( IVU-II 周期 28 mm ) X 線 8 ~ 15 keV 準単色光のみ( 1.0 × 10 15 phs ) 8 ~ 18 keV 準単色 * ( 1.0 × 10 15 phs ) ・単色光( 1.0 × 10 13 phs )切替 マイクロ ビーム 5 μ m φ (ピンホール切り出し , ~ 10 12 phs ) 5 μ m x 1.5 μ m ( Wolter mirror 集光 , 8 ~ 12.4 keV, ~ 10 12 phs ) カメラ長 最大 3.5 m 最大 10 m ( 2.2 m, 4 m, 10 m ) 特徴 多目的利用 高フラックス 高時間分解測定 SAXS/WAXS 専用 マイクロビーム利用 10 m カメラ長 XPCS 利用 SPring-8/SACLA/NanoTerasu 利用者情報/Vol.1 No.3 (2025 年12 月号) 227 ビームライン・加速器 3.実際の利用 実際の利用にあたって、持ち込み装置の利用や サンプル周辺の情報について共有したい。サンプ ル定盤は、高さ 80 cm, 光軸方向 136 cm, 直交方向 100 cm の寸法で、定盤上に、スリットやサンプル、 検出器用のキャリアがスライドレール上に配置さ せている。 X 線ビームは床面から約 1400 mm 高さ を地面と平行に通るため、定盤から 600 mm キャリ ア面上から 465 mm 上を通る。従来の BL40XU ユー ザーが持ち込んだものはすべて対応できる仕様と なっている。また、サンプル周りの機器については、 共用機器としての整備も進めており、溶液試料を瞬 時に混合可能なストップトフロー装置( SFM-4000, BioLogic ) 、粘弾性サンプルにせん断をかけること の で き る レ オ メ ー タ( MCR302e, Anton Paar ) や、 温調可能な引張延伸ステージ( 10073A, ジャパンハ イテック)が利用できる。 4.おわりに 2024 年 12 月から進めた改修を経て、 2025 年 10 月から SAXS 専用 BL として共用が始まったが、改 修の全てが終わったわけではない。今後は CITIUS 検出器による SAXS/WAXS 同時測定システムの導 入が計画されている。 CITIUS 検出器を段階的に導 入することにより、最終的には時間分解能はサブミ リ秒、空間分解能は SAXS で 1–1000 nm 、 WAXS で 0.2–1 nm を達成する。これにより、高分子材料の 動的過程の追跡や、その場測定による構造形成過程 の解析が可能となり、材料科学、生命科学、環境科 学など幅広い分野での研究展開が期待される。この リニューアルは、次世代の材料開発における重要な 研究基盤となることが見込まれる。 謝辞 本ビームライン改修にあたっては多くの方々のご 尽力をいただきました。光学系全般に関しては、 特に、 理化学研究所の大坂泰斗様、 JASRI の大橋治彦様、 仙波泰徳様、山崎裕史様、清水冴月様、坪田幸士様 のご協力をいただきました。 CITIUS 検出器導入にあ たっては、理化学研究所の初井宇記様、本城嘉章様、 JASRI の城地保昌様、西野玄記様、桑田金佳様にご 協力をいただきました。本ビームラインアップグレー ド全体につきまして、理化学研究所の矢橋牧名様、 JASRI の登野健介様のご協力をいただきました。こ の場を借りて御礼申し上げます。 参考文献 [1] SPring-8/SACLA 利用者情報 05 (2000) 189-193 [2] SPring-8/SACLA 利用者情報 25 (2020) 259-261 [3] SPring-8/SACLA 利用者情報 26 (2021) 261-264 [4] K. Imamura et al .,: J. Sync. Rad . 31 (2024) 1154- 1160. [5] T. Hatsui et al ., in preparation 関口 博史 SEKIGUCHI Hiroshi (公財)高輝度光科学研究センター 回折・散乱推進室 〒 679 - 5198 兵庫県佐用郡佐用町光都 1 - 1 - 1 TEL : 0791 - 58 - 0833 e-mail : sekiguchi@spring 8 .or.jp 増永 啓康 MASUNAGA Hiroyasu (公財)高輝度光科学研究センター 回折・散乱推進室 〒 679 - 5198 兵庫県佐用郡佐用町光都 1 - 1 - 1 TEL : 0791 - 58 - 0833 e-mail : masunaga@spring 8 .or.jp 228 SPring-8/SACLA/NanoTerasu Information /Vol.1 No.3 DECEMBER 2025 BEAMLINES・ACCELERATORS