記事検索/Quick Search

岡山大学放射光利用連携Workshop 〜放射光を利用してみませんか〜
Okayama University Workshop on Collaborative Promotion of Synchrotron Radiation Utilization
~Why Not Try Using Synchrotron Radiation?~

執筆者情報

執筆者 Author

佐藤 眞直 SATO Masugu

所属機関 Affiliation

(公財)高輝度光科学研究センター 産学総合支援室
General Support Division, Japan Synchrotron Radiation Research Institute

本文

公益財団法人高輝度光科学研究センター 産学総合支援室 佐 藤 眞 直 岡山大学放射光利用連携 Workshop 〜放射光を利用してみませんか〜 1.はじめに JASRI と岡山大学は双方が運用する共同利用施設 ( JASRI は SPring-8 の共用 BL 、岡山大学は同大学の 自然生命科学研究支援センターが共同利用運用する 実験室系分析機器)の利活用の促進についての連携 協力に関する覚書を 2023 年に締結した。これは双 方の共同利用施設の相補的利用を活性化することで 多角的な分析環境をそれぞれのユーザーに提供し、 施設利用を課題解決に結びつけることを促進するこ とを目的としている。 JASRI としては SPring-8 ユー ザーにその利用実験のデータ解釈に必要な X 線分 析以外の補足分析を行う機会を提供し、岡山大学と しては共同利用運用している実験室系分析機器(岡 山大学共用機器)のユーザーに放射光による高度分 析を利用する機会を提供することによって、双方の 利用成果を最大化する Win-Win の関係を構築する ことを目指している。その活動の一環として昨年度、 岡山大学は JASRI 産学総合支援室 (当時は産業利用 ・ 産学連携推進室)との連携のもと「 SPring-8 利用分 析サポートサービス」を開始した。このサービスは、 岡山大学が JASRI と連携して SPring-8 利用の未経 験者、初心者の産学官の研究者を対象に放射光施設 の利用サポートを行うものである。当初はサポート 対象の放射光施設として SPring-8 のみを想定してい たが、昨年度の本サービスの実施例の中で SPring-8 、 岡山大学共用機器だけでなく九州シンクロトロン光 研究センター( SAGA-LS )での軟 X 線吸収分光測 定を紹介・実施したことをきっかけに、 SAGA-LS も岡山大学と分析装置の相互利用等に関する相互 協力覚書を本年度に締結し、本サービスの連携協 力 に 加 わ っ た。 さ ら に、 2024 年 度 よ り JASRI が NanoTerasu の登録施設利用促進機関として同施設 の共用を開始したことに伴い、冒頭に述べた岡山 大学 ‒ JASRI 間の共同利用施設運用の連携・協力に 関する覚書についても、対象として NanoTerasu も 含む形に新たに結び直した。これにより、本サービ スは対象とする放射光施設を SPring-8 、 NanoTerasu 、 SAGA-LS の 3 施設に拡大して「放射光利用分析サ ポートサービス」と名前を変えて再スタートするこ ととなった。 本記事で紹介するワークショップは、この「放射 光利用分析サポートサービス」の広報活動を目的と して岡山大学主催で 8 月 1 日に開催された。開催形 式は岡山大学津島キャンパス創立五十周年記念館の 現地開催とリモート参加のハイブリッド形式であっ た。昨年度の 「 SPring-8 利用分析サポートサービス」 の広報をテーマとした開催に引き続いて 2 回目の開 催で、 JASRI は昨年度から協賛しており、本年度か ら SAGA-LS も協賛に加わっている。参加者は現地 参加者 36 名、リモート参加者が 70 名であった。 ワークショップのプログラムは 2 部で構成され、 第 1 部ではこの「放射光利用分析サポートサービ ス」の紹介と対象施設である SPring-8 、 NanoTerasu 、 SAGA-LS の紹介が行われ、第 2 部ではサービス対 象の放射光施設及び岡山大学の施設を利用した研究 事例の紹介が行われた。以下に詳細を記す。 2.第1部概要 : 「放射光利用分析サポートサービス」 および各放射光施設の紹介 第 1 部ではまず岡山大学の副理事・副学長・総合 技術部本部長の佐藤法仁氏から開会挨拶が行われ た。続いて、 「放射光利用分析サポートサービス」 について岡山大学側の主担当者である堀金サイテッ クコーディネーターから紹介が行われた。まずサ ポートの内容として、申し込まれた大学、企業の研 究者の、実験室装置だけでは困難な分析について岡 山大学のサイテックコーディネーター及び総合技術 部と JASRI 、 SAGA-LS が連携してコンサルティン SPring-8/SACLA/NanoTerasu 利用者情報/Vol.1 No.3 (2025 年12 月号) 229 研究会等報告 グを行い、その内容に応じて適切な施設、分析装置 を紹介し、その利用申請、実験、解析に至るまでの サポートを提供することを想定していること、紹介 する 施 設 と し て SPring-8 、 NanoTerasu 、 SAGA-LS の放射光施設だけではなく岡山大学の共同利用分析 機器の利用システム「岡山大学コアファシリティ・ ポータル( CFPOU ) 」を活用した相補的な分析の提 供も想定していることが紹介された。昨年度の実施 実績としては企業 4 件、大学 2 件であった。これは 岡山大学を通じて SPring-8 利用に結びついたものだ けではなく、 SPring-8 ユーザーで岡山大学の分析機 器(クライオ電顕)の利用を希望され、本サービス を通じて利用に結びついた事例も含んでおり、本連 携活動を通じて相互利用が実現していることが示さ れた。 その後、 SPring-8 、 NanoTerasu の施設紹介を JASRI 産学総合支援室の筒井智嗣主幹研究員から、 SAGA-LS の施設紹介を同施設の廣沢一郎所長から 講演された。筒井氏の講演では、放射光利用技術の 初心者の理解を助けることを目的として、 SPring-8 、 NanoTerasu で利用可能な分析技術を中心にその基 礎的な概要が説明された。廣沢所長の講演では、産 業利用に特化した施設の運用の特徴と、先端施設で はなくても特定の分野に特化した分析技術開発・機 器整備を行うことによって特徴を出すという施設運 用の事例として、地域産業に密着した木材の回折・ 散乱による評価技術の開発・整備の成果事例が紹介 された。 3.第 2 部概要:放射光施設および岡山大学共同利 用分析機器の利用事例紹介 第 2 部では、岡山大学の「放射光利用分析サポー トサービス」が対象とする放射光施設( SPring-8 、 NanoTerasu 、 SAGA-LS )及び岡山大学の共同利用 分析機器を活用した研究事例についての講演が 4 件 行われた。 1 件目は「岡山大学クライオ電子顕微鏡設備と放 射光施設を利用した相関構造解析」というタイトル で、同設備を運用している岡山大学異分野基礎科学 研究所の沼本修孝准教授から講演が行われた。講演 の中で、近年のタンパク質構造解析における放射光 とクライオ電顕を併用した相関構造解析の実例を SPring-8 のクライオ電顕利用も含めて、ご紹介いた だいた。さらに岡山大学のクライオ TEM トモグラ フィーも紹介いただき、紹介された岡山大学のクラ イオ電顕の利用方法も具体的に説明いただいた。沼 本准教授には昨年度の「放射光利用分析サポート サービス」において、 SPring-8 ユーザーからクライ オ電顕を希望された案件( 2 件)についても、同装 置の主ターゲットであるタンパク質試料でないにも かかわらず、丁寧にご対応いただいた。本装置の利 用状況について学外のアカデミック及び企業の利用 者が増えているとのことであり、共用に対する積極 的な姿勢が感じられた。 2 件目は「中小企業が放射光施設を利用する価 値と課題~レーザークリーニングによるカーボン ニュートラルへの取り組み~」というタイトルで、 東成エレクトロビーム (株) の西原啓三氏から講演 が行われた。本件は、仙台市が NanoTerasu の産業 利用促進に向けた普及啓発を目的として実施してい る放射光施設トライアルユース事業の助成を受け て 2022 年に実施した SPring-8 利用の成果に関する 紹介である。本研究の対象は同社が事業としている レーザー加工技術を樹脂・ゴムの成型金型の洗浄 に応用したレーザー洗浄技術で、洗浄における金 型表面へのレーザー照射の影響を評価するため、 X 線回折による残留応力の深さ分布測定を SPring-8 BL13XU で行った成果を紹介された。西原氏は同社 における今回の放射光利用の意義として、自社技術 のレベルアップとその課題の整理を上げられ、中小 企業の事業規模でこのようなチャレンジを行うこと の難しさを説明されて、仙台市の助成事業がどれだ け助けになったかをアピールされた。大企業ほど余 裕のない中小企業の利用開拓における、地方行政等 の助成金事業との連携の重要性を示す好例であると 思う。 3 件目は「農産物・食品・生物試料解析における 放射光の可能性」というタイトルで東北大学農学研 究科・農学部の日高將文助教から講演が行われた。 内容としては、日高先生が所属されている東北大学 の放射光生命農学センターが取り組んでいる放射光 利用技術の農学研究への活用検討の活動について、 230 SPring-8/SACLA/NanoTerasu Information /Vol.1 No.3 DECEMBER 2025 WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT ご自身が SPring-8 、 NanoTerasu 、 SAGA-LS を利用 して創出された成果をご紹介された。評価対象は冷 凍食品、アイス、牡蠣、ニンニク、日本酒、分析技 術は X 線 CT 、 SAXS 、 XRF 、 XAS とニーズ、シー ズ共に多岐にわたる成果を示され、この分野の応用 が難しいのではと考えられた軟 X 線分光技術につい ても NanoTerasu 、 SAGA-LS において食品に含まれ る軽元素の分析で利用成果を示されている。食品分 野における放射光利用の新たな可能性を感じさせる 講演であった。 4 件目は「放射光 X 線吸収分光・散乱測定を用 いた有機薄膜デバイスの評価」というタイトルで JASRI 産学総合支援室の渡辺剛主幹研究員から講演 が行われた。本講演では、複数の放射光利用技術、 放射光施設間の相補的利用の活用事例として、有 機トランジスタ材料の紫外線照射による特性劣化 の原因解明に SPring-8 と SAGA-LS の相補利用を応 用した事例が紹介された。具体的には、紫外線照 射による材料の結晶構造の変化を SPring-8 BL19B2 の X 線回折測定で、材料中の S の化学状態の変化を SAGA-LS BL11 の軟 X 線吸収分光による SK 吸収端 測定で評価した実験結果が示された。結果として結 晶構造の顕著な変化はなく、材料中の S の化学状態 および S 原子周りの配位構造が変化しており、両施 設の結果を比較することで本材料の紫外線劣化の影 響が S 原子の局所的な状態に現れているという知見 が得られたことが紹介された。放射光利用技術間、 施設間の横断的活用によるマルチモーダルな実験の 可能性を示す好例であると考える。 最後に岡山大学総合技術部の田村義彦部長から閉 会挨拶が行われ、閉会となった。 4.まとめ 今後、放射光利用支援においては、ユーザーが抱 える課題の解決という具体的な成果の創出がより一 層求められる。ユーザーの放射光利用を課題の解決 に結びつけるには放射光利用技術だけでなく課題へ の多角的なアプローチが必要となる。そのためには、 放射光以外の分析リソースとの連携が必須と考える。 本ワークショップの岡山大学の「放射光利用分析サ ポートサービス」は、放射光ユーザーに対する放射 光利用技術と実験室系分析技術の相補的利用という 新しい分析メニューの提供の一つの形として、また、 大学 ‒ 放射光施設間の連携協力による新規利用開拓 の新たなパスとして期待しており、協力を深めてい きたいと考える。 佐藤 眞直 SATO Masugu (公財)高輝度光科学研究センター 産学総合支援室 〒 679 - 5198 兵庫県佐用郡佐用町光都 1 - 1 - 1 e-mail : msato@spring 8 .or.jp 図 1 講演の様子 SPring-8/SACLA/NanoTerasu 利用者情報/Vol.1 No.3 (2025 年12 月号) 231 研究会等報告