第9回SPring-8秋の学校を終えて
The 9th SPring-8 Autumn School
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所属機関 Affiliation
特定放射光施設ユーザー協同体(SpRUC)行事幹事(秋の学校担当)/国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 関西光量子科学研究所 放射光科学研究センター 水素材料科学研究グループ Specific Synchrotron Radiation Facilities Users Community (SpRUC) / Hydrogen Materials Research Group, Synchrotron Radiation Research, Kansai Institute for Photon Science, National Institutes for Quantum Science and Technology
本文
特定放射光施設ユーザー協同体 ( SpRUC ) 行事幹事 (秋の学校担当) 国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構 関西光量子科学研究所 城 鮎 美 第 9 回 SPring-8 秋の学校を終えて 1.秋の学校概要 第 9 回 SPring-8 秋の学校が、 2025 年 9 月 7 日 ( 日 ) ~ 10 日 ( 水 ) の 4 日間にわたり開催されました。今 年度は幸い天候にも恵まれ、全日程を滞りなく終え ることができました。開催にあたり多くの関係者の みなさまより多大なるご支援とご協力を賜りました こと、心より感謝申し上げます。 秋 の 学 校 は 特 定 放 射 光 施 設 ユ ー ザ ー 協 同 体 ( SpRUC ) および高輝度光科学研究センター ( JASRI ) の主催のもと、理化学研究所 放射光科学研究セン ター、兵庫県立大学 理学部/大学院理学研究科、 関西学院大学 理学部/工学部/生命環境学部/大 学院理工学研究科、岡山大学、島根大学の共催、な らびに関係諸機関の後援を受けて実施されました。 校長には SpRUC 会長である藤原明比古先生(関西 学院大学教授)をお迎えし、事務局は JASRI 利用 推進部が担当しました。グループ講習のテーマおよ び講師については、 SpRUC の研究会および評議員 のみなさまよりご推薦をいただき、放射光の幅広い 分野を網羅する構成となりました。 SPring-8 秋の学校は、これからの放射光科学を担 う人材の発掘と育成を目的としており、放射線業 務従事者登録を必要としないことが大きな特徴です。 これにより、大学院生のみならず、学部生や企業研 究者の方々にも広くご参加いただける学びの場と なっています。今年度の参加申込者は 60 名以上で したが、その後一部キャンセルが生じたために、最 終的に 15 校 15 社から 56 名の参加がありました。内 訳は以下のとおりです:学生 37 名(学部 3 年生 8 名、学部 4 年生 22 名、博士前期課程(修士) 1 年 4 名、博士後期課程 1 年 1 名、博士後期課程 2 年 2 名) 、 社会人 19 名(企業 19 名、大学 0 名、研究機関 0 名) 。 男性 39 名、女性 17 名。放射線業務従事者登録のな い方は 40 名でした。 2.カリキュラムについて SPring-8 秋の学校は基礎講義において放射光の基 礎を学び、グループ講習において疑似的な放射光利 用体験を行う構成となっています。カリキュラムの 詳細は 表 1 に示す通りであり、 1 日目には基礎講義 表 1 第 9 回 SPring- 8 秋の学校日程表 250 SPring-8/SACLA/NanoTerasu Information /Vol.1 No.3 DECEMBER 2025 WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT を 3 講義、 2 日目には 4 講義を実施しました。 3 日目 と 4 日目には 4 テーマのグループ講習を行いました。 参加者間の交流を促進するため、 1 日目の講習後 に自己紹介の時間を設けました。また、参加者と講 師の交流の場として 1 日目と 3 日目の夜には意見交 換会を開催しました。多くの方にご参加いただき、 学生、社会人、専門分野の垣根を超えた積極的な交 流が見られました。 2 日目の昼食前には SPring-8 実験ホールならびに SACLA の見学がありました。参加者のみなさまに は施設の広大さと先端技術を実際に歩いて体感して いただく貴重な機会となりました。 グループ講習では事前に提示された 17 テーマの 中から参加者の希望に応じて 3 ~ 4 テーマが割り振 られ、各自の関心に沿った実践的な知識と技術を習 得していただけました。 3.基礎講義について 基礎講義の内容と担当講師(敬称略)は以下の通 りです。いずれの講義も工夫が凝らされており、分野 の異なる参加者にも大変理解しやすい講義でした。講 義後の質疑応答も非常に活発で、休憩時間にも講師 に質問されている熱心な参加者の姿が印象的でした。 基礎講義 1 . 放射光発生の基礎 正木満博 (高輝度光科学研究センター) 基礎講義 2 . ビームライン ~光源と実験ステーションを繋ぐもの~ 山崎裕史 (高輝度光科学研究センター) 基礎講義 3 . X 線自由電子レーザー入門 久保田雄也(理化学研究所) 基礎講義 4 . X 線検出器の基礎 ~原理から最新の画像検出技術まで~ 今井康彦 (高輝度光科学研究セン ター/ 理化学研究所) 基礎講義 5 . X 線イメージング 篭島靖(兵庫県立大学) 基礎講義 6 . X 線回折入門 高橋功(関西学院大学) 基礎講義 7 . XAFS の基礎 田渕雅夫(名古屋大学) 4.グループ講習について グループ講義の内容と担当講師(敬称略)は以 下の通りです。 X 線と物質の相互作用に関するほぼ 全ての領域を網羅する 17 テーマが開講されました。 秋の学校では放射線業務従事者登録を必要としない 形式で実施されるため、放射光そのものを利用した 講習はできませんが、各講師が様々な工夫を凝らし てくださり、実際の実験装置や測定データを活用し た疑似的な測定や解析手法が学べるようになってい ます。これにより、参加者のみなさまには放射光実 験の流れや考え方などを実践的に学んでいただけた ものと思います。 写真1 講義風景 写真 2 講義後の質疑応答の様子 写真 3 見学風景 SPring-8/SACLA/NanoTerasu 利用者情報/Vol.1 No.3 (2025 年12 月号) 251 研究会等報告 1 . 単結晶構造解析 橋爪大輔(理化学研究所 CEMS ) 足立精宏(理化学研究所 CEMS ) 2 . 放射光粉末 X 線回折によるその場観測の実際 笠井秀隆(大阪公立大学) 加藤大地(京都大学) 3 . タンパク質結晶構造解析 水島恒裕(兵庫県立大学) 河村高志(高輝度光科学研究センター) 4 . 小角 X 線散乱 増永啓康(高輝度光科学研究センター) 関口博史(高輝度光科学研究センター) 5 . 放射光を利用した応力・ひずみ計測 菖蒲敬久(日本原子力研究開発機構) 冨永亜希(日本原子力研究開発機構) 6 . X 線回折・散乱を用いた薄膜構造評価 小金澤智之(高輝度光科学研究センター) 7 . X 線吸収分光法 浪花晋平(京都大学) 片山真祥(高輝度光科学研究センター) 加藤和男(高輝度光科学研究センター) 8 . 皮膚角層および毛髪の構造解析 中沢寛光(帝京科学大学) 小幡誉子(星薬科大学) 太田昇(高輝度光科学研究センター) 9A . 高圧力の発生技術と高圧地球科学・物質科学 肥後祐司(高輝度光科学研究センター) 9B . 高圧力の発生技術と高圧下の物質科学 新名良介(明治大学) 石松直樹(愛媛大学) 10 . ドーパント原子配列解析 松下智裕(奈良先端科学技術大学院大学) 11 . 放射光光電子分光法による物質の電子状態分析 藤森伸一(日本原子力研究開発機構 ) 川崎郁斗(日本原子力研究開発機構 ) 12 . 放射光 X 線イメージングの概要と基礎 上杉健太朗(高輝度光科学研究センター) 13 . X 線発光分光法 松村大樹(日本原子力研究開発機構/ 関西学院大学) 石井賢司(量子科学技術研究開発機構/ 岡山大学) 14 . 二体分布関数法( PDF) 尾原幸治(島根大学/ 高輝度光科学研究センター) 山田大貴(高輝度光科学研究センター) 下野聖矢(高輝度光科学研究センター) 15 . ブラッグコヒーレント X 線回折イメージング法 大和田謙二(量子科学技術研究開発機構) 押目典宏(量子科学技術研究開発機構) シャオミンヤン (量子科学技術研究開発機構) 16 . 放射線生物学の基礎 小西輝昭(量子科学技術研究開発機構) 城鮎美(量子科学技術研究開発機構) 17 . 放射光 X 線トポグラフィーによるパワー半導体 単結晶の欠陥観察 姚永昭(三重大学) 梶原堅太郎(高輝度光科学研究センター ) 5.まとめ 2017 年から始まった SPring-8 秋の学校も、今年 で第 9 回を迎えることができました。これまで継続 して開催できているのは、ひとえに関係各位のご支 援とご協力の賜物です。改めて、丁寧な講義をして くださった基礎講義担当の先生方、 2 日間にわたり 熱心に指導してくださったグループ講習担当の先生 方、わかりやすい説明で参加者の興味を惹きつけて くださった見学引率担当の先生方、共催・後援機関 のみなさま、そしてご参加いただいたみなさまに心 より御礼申し上げます。また、事務局として関係各 所との調整、対応を担ってくださった JASRI 利用 写真 4 グループ講習の風景( 3 日目) 252 SPring-8/SACLA/NanoTerasu Information /Vol.1 No.3 DECEMBER 2025 WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT 写真 5 集合写真 推進部のみなさま、テーマ・講師の選定にご協力い ただいた SpRUC のみなさまにも深く感謝申し上げ ます。 毎年実施しているアンケート結果からは、基礎講 義・グループ講習ともに参加者のみなさまから高い 満足度をいただいております。一方で、講師の方々 からは業務負担についてのご意見も頂戴しておりま す。実行委員会としましては、今後も参加者・講師 双方にとってより有意義な学校となるよう、実施体 制の見直しや改善に努めてまいります。つきまして は、 SpRUC のみなさまからも忌憚のないご意見・ ご提案を賜れますと幸いです。より良い秋の学校の 開催に向けて、今後ともご指導・ご協力のほど、何 卒よろしくお願い申し上げます。 城 鮎美 SHIRO Ayumi (国)量子科学技術研究開発機構 関西光量子科学研究所 放射光科学研究センター 水素材料科学研究グループ 〒 679 - 5148 兵庫県佐用郡佐用町光都 1 - 1 - 1 TEL : 0791 - 27 - 2058 e-mail : shiro.ayumi@qst.go.jp 株式会社デンソーは、環境・安心の大義を達 成し、すべての人が安心と幸せを感じられるモ ビリティ社会の実現を目指しています。私の所 属する先進プロセス研究部では、弊社の製品や 工場の変革に貢献するべく、加工・計測技術の 開発をおこなっています。モノづくりにおいて、 タイムリーに正しい可視化・計測技術を提供す ることは非常に重要であり、今夏より、放射光 イメージングの領域を担当することになった私 は、放射光施設を利用したことはあったものの、 改めて学び直す機会が欲しいと考えていました。 そういったタイミングで秋の学校の存在を知り、 放射光の原理と利用研究の基礎を体系立てて学 びたく、参加させていただくことを決めました。 株式会社デンソー 先進プロセス研究部 計測技術研究室 米 山 祐 輔 第 9 回 SPring-8 秋の学校に参加して SPring-8/SACLA/NanoTerasu 利用者情報/Vol.1 No.3 (2025 年12 月号) 253 研究ձ報ࠂ 秋の学校のスケジュールとしては、 1, 2 日 目 が 基 礎 講 義 と SPring-8/SACLA の 見 学、 3, 4 日目が実際に手を動かすグループ講習でし た。 基 礎 講 義 の 前 半 で は、 放 射 光 発 生 か ら ビームラインでの光の制御、届いた光を実験 ハッチにて検出するまでの過程を基本原理や 理論式を抑えつつも、直感的に理解できるよ う に 工 夫 し て 説 明 い た だ き、 専 門 分 野 が 異 なっていても理解しやすい内容でした。基礎 講義の後半では、 X 線と物質内の電子の相互 作用の結果として、様々な情報が得られるこ とを、 X 線イメージング、 X 線回折、 XAFS の 講義を通して説明いただきました。基本原理 や理論式を抑えつつも、直感的に理解できる よう時には実演も交えて説明いただき、放射 光科学の基礎的な力を付けることのできる場 であったと思います。また、 SPring-8/SACLA の見学においては、講義にて学んだ技術を現地 現物で体感し理解を深めることができたととも に、ビーム停止期間ということもあり普段は見 ることのできないビームラインの上流部分も一 部拝見させていただき非常に貴重な体験となり ました。 グループ講習では、 17 テーマから 4 テーマを 受講することができ、停止期間のためビームは 出ないものの、座学だけでなく、各テーマの該 当実験ハッチ内の見学、試料作製や解析等の体 験もすることができました。各テーマとも講師 1 ~ 2 名に対して、受講者 3 ~ 5 名であり、疑問 点等はすぐにその場で質問することができ、と ても贅沢な場と感じました。今後の業務を通じ て、さらに理解を深めていくとともに、今回ご 縁のあった講師の方々とも必要に応じて、連携 させていただきたく思います。 最後になりますが、こういった貴重な場を用 意して下さった秋の学校の事務局並びに講師の 方々に参加者を代表して厚く御礼申し上げま す。また、第 4 世代の放射光施設 SPring-8-II へ のアップグレードを控える中、日本の放射光科 学の益々の発展と、我々産業界との一層の連携 を祈念しております。 写真 6 グループ講習の風景( 4 日目) 254 SPring-8/SACLA/NanoTerasu Information /Vol.1 No.3 DECEMBER 2025 WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT