産学総合支援室 総合支援チームの取り組み
執筆者情報
所属機関 Affiliation
(公財)高輝度光科学研究センター 産学総合支援室
抄録/Abstract
総合支援チームは、産業分野における応用研究・開発に取り組む研究・開発ユーザーを対象に、ものづくりにおける課題解決を目的とした放射光利用を一貫して支援する「総合支援」を実施している。この総合支援を行うための体制において、案件ごとに構成されるユーザー個別支援チームの中心となる主担当者を総合支援チームが担い、他の専門スタッフやビームラインスタッフと連携して、ユーザーの課題解決に向けた総合支援を実施している。この総合支援を円滑に進めるために、窓口の整備やオフライン解析サービスなどの支援メニューの充実を行い、これらの試行・実装を段階的に重ねながら、総合支援の実効性を高めるべく、将来的な定常運用を見据えた実践的な体制整備を進めている。
本文
公益財団法人高輝度光科学研究センター 産学総合支援室 桑 本 滋 生 産学総合支援室 総合支援チームの取り組み Abstract 総合支援チームは、産業分野における応用研究・開発に取り組む研究・開発ユーザーを対象に、ものづくり における課題解決を目的とした放射光利用を一貫して支援する「総合支援」を実施している。この総合支援を 行うための体制において、案件ごとに構成されるユーザー個別支援チームの中心となる主担当者を総合支援 チームが担い、他の専門スタッフやビームラインスタッフと連携して、ユーザーの課題解決に向けた総合支援 を実施している。この総合支援を円滑に進めるために、窓口の整備やオフライン解析サービスなどの支援メ ニューの充実を行い、これらの試行・実装を段階的に重ねながら、総合支援の実効性を高めるべく、将来的な 定常運用を見据えた実践的な体制整備を進めている。 ユーザー層にも、最適な利用を提供することにあ る。これにより、放射光産業利用の促進と裾野の拡 大、ならびに産業利用成果の最大化を図る。産学総 合支援室は 「総合支援チーム」 「利用基盤開発チーム」 「技術支援チーム」の 3 チームおよび「コーディネー タ」で構成される。本稿では、この体制の中で中心 となって総合支援運用を牽引する総合支援チームの 取り組みについて紹介する。 2.総合支援体制の構築 総合支援は、利用準備段階における「事前相談、 実験計画の策定、利用申請」から、実験段階での 「実験準備 ・ 実施」 、さらには実験後の「データ解析」 に至るまで、成果創出に向けたユーザーの SPring-8 1.はじめに 2025 年度、産業分野の応用研究・開発に取り組 む産業界および学術界のユーザー(研究・開発者) を対象に、ものづくりにおける課題解決を目指した 放射光利用を総合的に一貫して支援する「総合支 援」の運用を担う「産学総合支援室」が新設された。 この総合支援は、ユーザーが抱える課題をユーザー 目線で理解してその課題解決に最適な利用計画をス タッフからユーザーに提案し、利用実験の実施から データ解析までの全利用プロセスを一貫して総合的 にサポートする支援体制である。その目的は、潜在 的な放射光利用ニーズを持つ、分析を専門としない 材料開発研究者で、自身の研究の課題解決に必要な 情報を得るために適切な分析方法を探し求めている 図 1 総合支援によるユーザーの全利用プロセスの一貫支援 SPring-8/SACLA/NanoTerasu 利用者情報/Vol.2 No.1 (2026 年 3月号) 21 ビームライン・加速器 利用の全プロセスを一貫してサポートするものであ る( 図 1 ) 。 2024 年度に産学総合支援室の前身であ る産業利用・産学連携推進室の下で発足した総合 支援チームは、この総合支援を円滑に運用するた めのノウハウを蓄積するためにその試験運用を行 い、運用体制の構築を進めた。この知見に基づいて、 2025 年度に産学総合支援室が創設された。 本総合支援体制では、各ユーザーの支援ごとに 「主担当者」を配置し、担当ユーザーの全利用プロ セスを一貫して総合的に支援して、その課題解決に 結びつける。ユーザー支援案件ごとに主担当者を 1 名割り当て、当該主担当者を総合支援チームが担う。 主担当者 1 人当たりの対応件数は年間で 4 ~ 5 件を 想定しており、多様な材料分野や利用技術に対する 支援が求められる。そのため、主担当者はユーザー の課題の解決に最適な実験技術、解析方法を選択し て最適な実験計画の提案・支援を行うため、実験技 術・ビームライン横断的な利用支援のスキルが必要 である。 この利用技術横断的な主担当者の支援を実験技 術、解析技術の専門的な面から補佐を行う「実験技 術専門スタッフ」 、 「解析技術専門スタッフ」 、さら に支援全体を円滑に進めるためのタスク管理を行う 「タスク管理者」を配置し、チーム体制(ユーザー 個別支援チーム)による支援を行う( 図 2 ) 。実験 技術専門スタッフとしては、ユーザーが利用する各 ビームライン( BL )の担当者との連携協力を想定し、 その連携協力を技術支援チームが補佐する。解析技 術専門スタッフは利用基盤開発チームが担当し、タ スク管理者はコーディネータが担当する。これらの 体制のもと、総合支援チームを中心とした組織的な 支援を実施する。この総合支援運用により、複雑で 専門性の高い放射光実験であっても、ユーザーが安 心して研究に取り組める環境を整備し、支援の実効 性と持続性の向上を図る。 3.総合支援を担う人材の育成 前述の通り、総合支援体制において主担当者を担 う総合支援チームのスタッフは、担当ユーザーの課 題を理解し、その解決に適した放射光利用技術を選 定・提案し、放射光利用技術および BL を横断的に 活用した支援を行う。そのため、その人材として は、ユーザーの研究対象となる材料技術に深く精通 するとともに、放射光利用技術については複数の実 験技術および解析技術を横断的に理解し、実際の支 援に活用できることが求められる。総合支援チーム は、こうした能力を備えたスタッフで構成されてお り、単一分野に特化した専門家の集合ではなく、複 数の技術分野を横断的に扱うことのできる、いわゆ るマルチモーダル人材を中核として支援を行ってい る点を特徴とする。 一方で、産業利用では材料分野の対象範囲が非常 に広範であることから、現在のチームメンバーで行 う包括的な支援にも限界があり、全ての課題に十分 対応できる段階には至っておらず、引き続き計画的 かつ継続的な人材育成が不可欠な状況にある。この 人材育成においては、ユーザーの課題やニーズを起 点としたニーズドリブン型の人材育成を重視し、実 図 2 総合支援体制における産学総合支援室の役割 22 SPring-8/SACLA/NanoTerasu Information /Vol.2 No.1 MARCH 2026 BEAMLINES・ACCELERATORS 際の総合支援業務を通じた On-the-Job Training ( OJT ) により、利用技術・解析技術・材料技術を横断的に 習得する取り組みを行っている。これにより、総合 支援を担う人材基盤の着実な強化を図っている。 4.総合支援試行と総合支援受付窓口の設置 前 述 し た 通 り、 総 合 支 援 チ ー ム 発 足 初 年 度 の 2024 年度に実施した総合支援の試行運用では、支 援業務における実務的な課題の抽出に加え、運用手 法に関する知見や支援技術の蓄積を進めることがで きた。その結果、支援状況に応じて進捗や対応内容 を柔軟に管理するタスク管理の重要性が明らかに なった。 こうしたタスク管理を適切に行うためには、ユー ザーに関する情報、特にユーザーが解決したい課 題を的確に把握するための事前相談のプロセスを 体系的に精査することが重要である。そこで、ま ず事前相談の受付窓口を一本化し受付履歴を自動 的に残すための WEB 受付窓口フォームを利用推進 部の協力の下設置した( SPring-8 User Information 内: https://user.spring8.or.jp/?p=20774#4 ) 。本窓口は、 総合支援の円滑な実施と効率的なタスク管理を行う 上で重要な役割を担っている。さらに、この受付窓 口フォームのシステムをベースとして、総合支援を 受けるユーザーの利用情報を一括して管理する情報 管理システム(カルテシステム)の構築を目指して いる。本カルテシステムの構築により、過去の支 援事例を参考とした支援計画の検討が可能となり、 ユーザーに対してより適切かつ迅速な支援提案が実 現される。 5.有償支援メニューの充実 2025 年度からは、総合支援の本格運用を開始す るにあたり、運用体制の整備とともに、具体的な支 援メニューの充実に取り組んでいる。 2024 年度に実施した総合支援の試行運用におい て、総合支援プロセスの中で、特にデータ解析に関 する要望が高いことが確認された。放射光実験では、 高度なデータ解析技術・解析環境を必要とする場合 が多く、ユーザーにとって負担の大きいプロセスと なっている。この課題に対応するため、新たな支援 メニューとして、実験後に実施する有償の解析サー ビスの整備を検討している。このサービスのテス ト運用を「オフライン解析サービス」として 2025 年 10 月より共同研究または受託研究の枠組みを活 用して開始した。あわせて、同時期にサービス案内 用の Web ページを開設した( https://support.spring8. or.jp/inquiry.html ) 。本サービスでは、 XAFS および SAXS の取得済みデータを対象とした解析支援を提 供しているが、ユーザーのニーズに応じて、共同研 究の枠組みを活用し、本年度は CT および XRD に ついても柔軟に対応した( 2026 年 1 月の時点での実 績: 6 件) 。 また、データ解析以外でも、オペランド実験の総 合支援の一例として、ユーザー自身での開発が困難 な特注実験装置(試料セル、等)の開発を主担当者 とユーザーとの共同研究契約(有償)で実施する実 績( 1 件)を上げた。 このようなサービスの段階的な試行と実装を重ね ることで、総合支援の実効性をさらに高め、将来的 な定常運用を見据えた実践的な支援体制の構築を進 めていく。特にデータ解析に関する支援メニューの 充実は、放射光利用の裾野を広げ、多様な分野の研 究者にとって SPring-8 をより利用しやすい環境を提 供する上で重要な要素となる。 6.最後に 総合支援は、総合支援チーム単独で完結できるも のではなく、他推進室チームや他部門との緊密な連 携によって初めて実現できる取り組みである。産 学総合支援室内の利用基盤開発チームや技術支援 チーム、コーディネータとの連携はもちろんのこ と、ユーザー利用制度面では利用推進部との協力が 欠かせない。利用制度の整備・運用や総合支援の窓 口機能の構築など、幅広いユーザーが利用しやすい 環境づくりを進めるうえで利用推進部との連携が必 須である。また、実際のユーザー実験支援の現場で は、申請から実験準備、実験実施に至る各段階で柔 軟かつ的確な対応を行うために、他推進室チームや BL 担当スタッフとの緊密な連携が不可欠である。 このように、総合支援は他推進室チームや他部門 との連携を前提として成り立つ取り組みであり、こう SPring-8/SACLA/NanoTerasu 利用者情報/Vol.2 No.1 (2026 年 3月号) 23 ビームライン・加速器 した協力体制があってこそ実効性を持って機能する。 今後も関係各位との連携をさらに強化し、より多く のユーザーが利用しやすい SPring-8 の実現と、支援 体制の一層の充実を目指して取り組んでいきたい。 桑本 滋生 KUWAMOTO Shigeo (公財)高輝度光科学研究センター 産学総合支援室 〒 679 - 5198 兵庫県佐用郡佐用町光都 1 - 1 - 1 TEL : 050 - 3496 - 8965 e-mail : s-kuwamoto@spring 8 .or.jp 24 SPring-8/SACLA/NanoTerasu Information /Vol.2 No.1 MARCH 2026 BEAMLINES・ACCELERATORS