利用系グループ活動報告
JASRI 分光・イメージング推進室 光電子分光計測チーム
– Activity Reports –
Photoelectron Spectroscopy Team, Spectroscopy and Imaging Division, JASRI
執筆者情報
所属機関 Affiliation
(公財)高輝度光科学研究センター 分光・イメージング推進室
本文
公益財団法人高輝度光科学研究センター 分光・イメージング推進室 光電子分光計測チーム 安 野 聡、 保 井 晃、 高 木 康 多、 Seo Okkyun 、唐 佳 藝 JASRI 分光・イメージング推進室 光電子分光計測チーム 1.はじめに 分光・イメージング推進室 光電子分光計測チー ムでは、 BL09XU ( HAXPES I ) と BL46XU ( HAXPES II ) の 2 本のビームラインにおいて、計 4 つの硬 X 線 光電子分光( Hard X-ray Photoelectron Spectroscopy, HAXPES )装置を運用している。近年のビームライ ン再編およびアップグレードに伴い、これまで各々 異なるビームラインで独自に開発・運用されてきた HAXPES のアクティビティをこれら 2 本のビームラ インに集約し、 HAXPES 専用ビームラインとして 再整備を行ってきた [1,2] 。当チームでは、 SPring-8 の HAXPES 利 用 課 題 に お け る 多 種 多 様 な 分 析 目 的・測定対象に対応可能な体制を構築するとともに、 ユーザーニーズに即した技術開発と装置の高度化を 進めている。 本稿では、 HAXPES 装置及びビームラインの光 学系の詳細や実際の応用事例等については既報 [3,4] に譲り、ユーザーが HAXPES の実験計画を立てる 際に参考となる各ビームライン及び各装置のスペッ クと試料測定環境(温度・電圧印加・雰囲気など) の対応状況について概説する。併せて、チーム活動 として進めているハードウェアおよびソフトウェア の共通化活動と共有の付帯設備についても紹介し、 ユーザーが最適な実験装置や手法等を選定する際の 手引きとなる情報を提供する。 2.ビームラインスペックと各 HAXPES 装置の基本 性能と試料測定環境 BL09XU と BL46XU では、高分解能、共鳴計測、 偏光利用、微小領域計測、高エネルギー、自動計測、 雰囲気環境制御などのそれぞれ異なる特徴を持つ HAXPES 装置を有し、これらを分析目的に応じて 使い分けることで多様なニーズに対応している。ま た各装置の特徴を最大限に活かすための光学機器を 備えている。以下に、各ビームラインの光学系およ び HAXPES 装置の基本性能のスペックと利用可能 な試料測定環境について概説する。 2 . 1 ビームラインスペック BL09XU および BL46XU のビームラインでは、二 表 1 ビームラインスペック SPring-8/SACLA/NanoTerasu 利用者情報/Vol.2 No.1 (2026 年 3月号) 11 ビームライン・加速器 利用系グループ活動報告 結晶分光器( Double Crystal Monochromator, DCM ) に 加 え、 ダ ブ ル チ ャ ン ネ ル カ ッ ト モ ノ ク ロ メ ー タ ー( Double Channel-Cut Crystal Monochromator, DCCM )を導入しており、バンド幅を狭めた X 線の 定位置出射とエネルギー掃引が可能である。 DCCM は Si ( 220 ) と Si ( 311 ) の 2 種類の結晶を備えており、 分析目的に応じ所望のバンド幅とフラックスに調整 した X 線の利用が可能である。また、各実験ハッチ には各装置に最適な集光ミラーを備え、高フラック スなマイクロ集光ビームが利用できる。両ビームラ インにおける光学スペックをまとめたものを 表 1 に 示す。 BL 09 XU DCCM に加え、高分解能測定に特化した背面反 射型の Si ( 333/444/555 )反射を用いるチャンネル カット結晶分光器( CCM )も備わっており、より 精密な電子状態解析を行う事が可能である。他、 2 連 の ダ イ ヤ モ ン ド 移 相 子( Double X-ray Phase Retarder, DXPR )を用いた 0.9 以上の高い偏光度を 有する縦横・円偏光ビームを利用した偏光依存共鳴 HAXPES 計測が可能である。 また、下流側の実験ハッチ 2 ( EH2 )では、放射 光を使用している間でも上流の EH1 内に立ち入っ ての作業が可能なアクセスモードを導入している。 これにより、 EH2 実験中に、 EH1 装置の保守やユー ザー実験の事前準備を行うことが可能である。 BL 46 XU 光 学 系 は BL09XU と ほ ぼ 同 様 の 設 計 思 想 に 基 づいた各種光学機器を備えている。高エネルギー HAXPES を実現するための最大 21.8 keV までの高 エネルギーに対応できる Si ( 311 ) DCCM を備えて いる。 2 . 2 試料測定環境(温度・電圧印加・雰囲気など) 各 HAXPES 装置は、 in situ 測定をはじめとする 多様なユーザーニーズに応えるため、加熱・冷却や 電圧印加などが可能な試料測定環境を制御するため のコンポーネント(試料ステージ等)を備えている。 表 2 に、各装置の特徴や基本性能(分解能など)と 併せて対応可能な測定環境の整備状況を示す。 BL 09 XU EH 1 (共鳴・高分解能 HAXPES ) 光電子アナライザーは 12 keV までの運動エネル ギーの光電子取得が可能であり、より表面から深い 領域の電子状態観測が可能である。集光ミラーに Wolter ミラーを利用することで、高フラックスのマ イクロビームを安定的に利用できるだけでなく、タ ンデム配置された EH2 装置での実験後の再集光に おいても、非常に高い再現性を持つ。試料位置での ビームサイズは 1.5 μm ( V ) × 22 μm ( H ) である。 本装置のメインターゲットは、超伝導材料やスピ ントロニクス材料などの強相関電子系物質である。 それらの多くの物質は、わずかな酸素でも劣化が 表 2 HAXPES 装置の特徴と試料測定環境 12 SPring-8/SACLA/NanoTerasu Information /Vol.2 No.1 MARCH 2026 BEAMLINES・ACCELERATORS 激しいため、測定層の真空度は P < 3 × 10 -7 Pa の超 高真空条件での測定環境を提供している。また、低 温における温度誘起相転移などの興味深い現象にお ける電子構造変化を追跡するために、ヘリウム循環 フローによる試料冷却が可能である。また、蛍光X 線検出用のシリコンドリフト検出器を常設しており、 光電子と蛍光 X 線の同時計測が可能である。 本装置では特に、吸収端近傍でエネルギー掃引を 実施することで、元素・価数選択性を強化した電子 状態解析が可能となる共鳴 HAXPES 計測を実施し ている [5] 。軟 X 線領域では従来から実施されてきた 共鳴光電子分光計測であるが、それを硬X線領域に 拡張することで、よりバルク敏感であるだけでな く、励起に用いる電子遷移の特徴を活かした、新た な解析が可能である。さらに、 BL09XU の特徴で ある DXPR と組み合わせることで、高い縦横円偏 光度の偏光ビームを用いた軌道状態・磁気状態を選 別した電子状態解析を実現した。これまでに、共 鳴 HAXPES 計測により、希土類化合物の量子臨界 現象の解明に重要な役割を果たす、 4f ‒ 5d 電子間の クーロン斥力の高精度解析が初めて可能になった [6] だけでなく、鉄鋼材料では、酸化膜・母材金属界面 の電子状態抽出に成功している [7] 。このように本装 置は幅広い分野・現象の研究に利用されている。 BL 09 XU EH 2 ( 3 次元空間分解 HAXPES ) 本装置は、長尺の Kirkpatrick-Baez ( KB )ミラー を利用することで、フロントエンドスリットが全開 の状態 ( 0.65 mm ( V ) × 1.2 mm ( H ) ) でも、ほぼビー ムの取りこぼし無く、 6.3 × 10 12 photon/s 以上の極め て明るいマイクロ集光ビーム( 1.5 μm ( V ) × 11 μm ( H ) )の利用が可能である。さらに、フロントエ ンドスリット幅を 0.03 mm まで狭めることで、集 光ビームの横幅を 1 μm に縮小できる。その場合で も 1.3 × 10 11 photon/s 程度のフラックスが得られ、 1 μm ( V ) × 1 μm ( H )のマイクロ集光ビームを利用し た局所 HAXPES 計測が可能である。また、アナラ イザーは前段に± 32 ° の広い光電子取込みを可能に する広角対物レンズを有しており [8] 、角度分解測定 を行うことで、表面から深さ数十 nm までの化学結 合状態の深さ方向分布を得ることができる特徴を持 つ。この深さ分解測定とマイクロ集光ビームとを組 み合わせることで三次元空間分解した解析が可能で ある。さらに、四端子電圧印加などの in situ 測定も 可能であり、 3.3.3 項 で述べる可搬式試料準備チェ ンバーを利用することで、 in situ での試料処理にも 対応できる。本装置では、次世代半導体デバイス内 の埋もれた電極・半導体界面の化学結合状態分布の 可視化 [9] など幅広い材料の解析に利用が進んでいる。 BL 46 XU EH 1 (自動計測・高エネルギー HAXPES ) 本装置はハイスループット計測に特化した自動 試料搬送機構を備えており、 3.1 節 で後述するチー ム共通の制御ソフトウェアと組み合わせること 表 3 BL 46 XU EH 1 HAXPES 装置用サンプルストッカー一覧 SPring-8/SACLA/NanoTerasu 利用者情報/Vol.2 No.1 (2026 年 3月号) 13 ビームライン・加速器 で、多数の試料の自動交換と連続自動測定が可能 である [2,4] 。試料交換には専用のストッカーを使用 している。ストッカーの一覧を 表 3 に示す。標準タ イプのストッカーは、 3.2 節 で説明する BL09XU と BL46XU の HAXPES 装置間で共通のサンプルホル ダーを最大 4 つ格納できる構造を有している。ロー ドロックチェンバーは最大で 4 つのストッカーを一 度に真空排気可能な設計となっており、効率的な試 料導入と交換を実現している。また、標準タイプ以 外にも、ストッカー自体を大型のサンプルホルダー として機能させるタイプも整備している。これによ り、大型あるいは厚みのある試料への対応が可能と なる。加えて、多面体形状により試料搭載数を格段 に向上させたタイプも用意しており、用途に応じた 表 4 BL 46 XU EH 1 HAXPES 装置 Side load 用サンプル ホルダー及びサンプルステージ 使い分けが可能である。 なお、この自動搬送機構( Top load 型)で使用す るマニピュレーターは自動測定によるハイスルー プットに特化しているため、温度制御や電圧印加 機構は有していない。これに対し、本 HAXPES 装 置では水平方向にマニピュレーターを設置させる Side load 型のマニピュレーター機構も併設してい る。 表 4 に Side load 用サンプルホルダー及びサンプ ルステージの一覧を示す。 Side load 型では、 X 線入 射角を固定したまま光電子脱出角度を調整できるほ か、マニピュレーター自体を交換することで、高温 加熱、電圧印加、および高エネルギー計測(~ 30 keV )への対応が可能である [10] 。 BL 46 XU EH 2 (大気圧・実環境 HAXPES ) 本装置は差動排気系と小径のアパーチャーを備え たアナライザーを有し、ガス雰囲気下の試料に対す る HAXPES 測定が可能である。従来の XPS 装置は 真空下の試料に限定されてきたが、本装置はアナラ イザー先端の小径アパーチャーとアナライザー前段 の差動排気部により、試料の周囲のガス圧を上げて もアナライザー内の真空度が維持され、アナライ ザーを動作させることが可能となっている。 アナライザーには Scienta Omicron 社の差動排気 型アナライザー R4000 Hipp2 を用いている。標準の アパーチャーの開口径はφ 300 μm であり、カタロ グスペックとして 5000 Pa までのガス圧の測定に対 応している。一方で、独自開発した小径のアパー チャーに交換することで測定圧力を大気圧まで引き 上げることが可能である [4] 。現在は開口径 70 μm の アパーチャーを用いることが多い。ビームの集光サ イズは装置上流に設置される Wolter ミラーにより 測定位置において約 1 μm ( V ) × 10 μm ( H )である。 本装置を用いた水素ガス雰囲気下の還元反応や真 空槽内に電極と電解質を導入した dip & pull 法によ る電気化学反応などのオペランド HAXPES 測定が 実施されている [11-13] 。 3.利便性向上に向けた共通化の取り組み 当チームでは、ビームラインおよび、装置間の差 異によるユーザーの負担を軽減して利便性を高め、 14 SPring-8/SACLA/NanoTerasu Information /Vol.2 No.1 MARCH 2026 BEAMLINES・ACCELERATORS 図 1 BL 09 XU 及び BL 46 XU で使用される Web アプリケーション( Sequence Measurement Control と Stage Scan ) の画面 SPring-8/SACLA/NanoTerasu 利用者情報/Vol.2 No.1 (2026 年 3月号) 15 ビームライン・加器 双方の横断利用を促進すべく、ハードウェアとソフ トウェアの両面での共通化を進めている。以下に、 両ビームラインで利用可能な Web-API ベースのビー ムライン制御ソフトウェアの開発状況とサンプルホ ルダーの共通化、共有の付帯設備(試料準備・周辺 環境)の整備状況について概説する。 3 . 1 制御ソフ トウェアの共通化 BL09XU お よ び BL46XU の 両 ビ ー ム ラ イ ン は アップグレードにより、多くの光学系機器、および 表 5 BL 09 XU 及び BL 46 XU HAXPES 装置の共通サンプルホルダー一覧 16 SPring-8/SACLA/NanoTerasu Information /Vol.2 No.1 MARCH 2026 BEAMLINES・ACCELERATORS HAXPES 装置の位置調整機構が python ベースで作 られた BL-774 [14] による制御に切り替わった。さら に、 HAXPES アナライザーの制御には外部制御が 可能な Scienta Omicron 製のソフトウェア PEAK を 導入した。そこで、これらを統合的に制御して BL- 774 の機能をフルに活かすことのできるビームライ ン共通の制御ソフトウェアを新たに開発した。開 発したソフトウェアは全て BL-774 と同様に python ベースで作られている。複数機器間の連携操作な どの主要な機能は BL-774 の枠組みの中で構築する ことで、その優れたタスク管理機能を利用してい る。この機能を python の Web フレームワークであ る FastAPI を用いた Web アプリケーションから呼び 出す構成としている。複数の Web アプリを統合制 御することで、 BL-774 による機器制御と PEAK に よる測定制御を連動させる事ができ、光学素子の 調整やアッテネーター設定から、試料の搬送・交 換、自動位置調整、そして HAXPES 測定に至るま での一連の操作を、統一されたインターフェース上 でシームレスに実行できるようになった。また、通 常の Web ページと同様に Web ブラウザのタブ機能 を用いることで、複数の Web アプリを 1 つのブラウ ザ上で切り替えて使用することができる。これは SPring-8 外からのリモート実験時など、多数の Web アプリを用いる場合でも画面表示領域をコンパクト にできる等の利点を有する。 図 1 に BL09XU および BL46XU で使用される光学系機器制御と HAXPES 測定用の Web アプリ画面の一例を示す。 ソフトウェアの詳細は過去の SPring-8/SACLA 年 報をご参照いただきたい [15] 。 開発したソフトウェアは、他のビームラインでも 容易に移植できるように、現在も改良を続けている。 本ソフトウェアは、 2025 年 3 月から共用利用が開始 された NanoTerasu の軟 X 線角度分解光電子分光ビー ムラインである BL06U でも利用されている [16] 。今 後は、開発したソフトウェアが光電子分光だけでな く、他の分光測定にも展開することを期待している。 3 . 2 サンプルホルダーの共通化 従来、装置ごとに異なっていたサンプルホルダー の規格を統一し、 BL09XU と BL46XU における 4 つ の HAXPES 装置間で互換性を持たせている。また、 この共通の規格(標準タイプ)に基づいた、多数の 試料を一度にマウント可能なワイドタイプや、試料 をマスクで固定するマスクタイプなどの応用的な治 具も整備した。また個々の装置で実施されている in situ 測定を装置間で横断的に利用できれば、より 多角的な化学結合状態、電子状態解析が可能になる。 そのため、加熱、電圧印加、試料劈開といった特殊 な測定環境制御用のホルダーについても順次共通化 を進めており、装置間のスムーズな移行と効率的な 運用の実現を目指している。 表 5 に、整備されている共通のサンプルホルダー の一覧を示す。 3 . 3 試料準備・周辺環境の整備 3 . 3 . 1 劈開装置 強相関電子系物質など大気中で劣化しやすい試料 では、試料表面の電子状態は物質内部の本来のもの と異なることが多い。検出深度の大きい HAXPES であっても表面電子状態の影響を無視することが できない場合には、真空装置内で試料を劈開して 清浄な表面を露出させ、そのまま測定が行われる。 BL09XU や BL46XU の HAXPES 装置には 図 2 に示 す破断器を有しており、真空中で破断して大気に曝 さずに HAXPES 測定することが可能である。 図 2 BL 09 XU 及び BL 46 XU の HAXPES 装置に設置可 能な破断器(但し、 BL 46 XU EH 1 の HAXPES 装 置は設置不可) SPring-8/SACLA/NanoTerasu 利用者情報/Vol.2 No.1 (2026 年 3月号) 17 ビームライン・加速器 表 6 BL 09 XU 及び BL 46 XU グローブボックスおよびトランスファーベッセル 破 断 器 は、 BL09XU EH1 の 高 分 解 能 HAXPES 装 置にはプリパレーションチェンバーに、 BL09XU EH2 の三次元空間分解 HAXPES 装置にはロードッ クチェンバーに常設されている。また、 BL46XU EH2 の大気圧 HAXPES 装置ではロードロックチェ ンバーに取り付けることが可能である。その他、劈 開性を有する単結晶試料については、本破断器を用 いた劈開も可能である。これらの作業が必要な試料 は接着材で固定することがほとんどであり、その固 定用に 表 5 に示した劈開用サンプルホルダーを用意 している。 3 . 3 . 2 グローブボックス 大気非曝露での HAXPES を行う場合、 3.3.1 項 の 様に真空槽内での劈開・破断を行うほかに、グロー ブボックスを経由して HAXPES 装置内に試料を導 入する方法をとることができる。例えば各大学の実 験室で作成した試料を実験室のグローブボックス内 で Ar 封入し、その状態で SPring-8 に輸送して、ビー ムラインに設置されたグローブボックス内の Ar 雰 囲気環境下で開封してサンプルホルダーに固定し、 それを密閉されたトランスファーベッセルを用いて 各 HAXPES 装置に導入する。各ビームラインで利 用可能なグローブボックスとトランスファーベッセ ルを 表 6 にまとめた。 3 . 3 . 3 可搬式試料準備チェンバー 実験室で試料を準備し SPring-8 に持ち込むだけで なく、真空中で試料を作成できるよう、試料準備用 の装置を用意している( 図 3 ) 。本装置はターボ分 子ポンプとイオンポンプを備え、真空度は超高真空 ( 1 × 10 -7 Pa 以下) を維持している。イオン銃を備え、 Ar スパッタ等の酸化膜の除去や表面の清浄化処理 が可能で、またセラミックヒーターによる試料の加 熱処理( 600 ℃)も可能である。この他、 RF スパッ タによる蒸着装置や電子衝撃加熱による真空蒸着設 備もあり、真空内での薄膜作製が可能である。この 他、作製した薄膜を in situ で評価するための LEED/ AES 装置を備えている。 図 3 ( a )可搬式試料準備チェンバーの概略図 ( b ) BL 09 XU EH 2 3 次元空間分解 HAXPES 装置 への接続時の写真 18 SPring-8/SACLA/NanoTerasu Information /Vol.2 No.1 MARCH 2026 #&AMLIN&SŋACC&L&RAT0RS こ の 装 置 は 移 動 可 能 で 各 ビ ー ム ラ イ ン の 各 HAXPES 装 置 に 接 続 可 能 な 設 計 に な っ て い る。 ICF70 のゲートバルブを介して各装置に接続し、連 結部をポンプで真空排気することで真空接続がで きる( 図 3 ) 。これにより、本試料準備チェンバー で 作 成 し た 試 料 を 各 HAXPES 装 置 に 導 入 し、 in situ での HAXPES 測定が可能である。 3 . 3 . 4 各種光源 近年、光触媒や人工光合成などを対象として、光 反応過程をその場観察するオペランド HAXPES 測 定の需要が高まっている。これらに応えるため、当 チームではキセノン光源、水銀光源を整備してい る。試料への光照射については、ビューポートを経 由した装置内への照射に加え、真空用のライトガイ ドや測定チェンバーに設置された専用の集光レン ズを通した試料への直接照射も可能である。さら に、 BL46XU EH2 の大気圧 HAXPES 装置では導光 プローブロッドを用いることで、ガス雰囲気などの 表 8 利用可能な導光装置 表 7 利用可能な光源 実環境下にある試料に対しても効率的な光照射を実 現している( 表 7, 8 ) 。 4.まとめ 当チームでは、 BL09XU と BL46XU において計 4 つの HAXPES 装置を運用し、最先端の共鳴、偏 光、微小領域、高エネルギー測定から、実環境雰囲 気下でのオペランド測定、自動化によるハイスルー プット測定に至るまで、多様化するユーザーの研究 ニーズに幅広く対応可能な体制を整えている。本稿 では、各ビームラインと各 HAXPES の基本性能に 加えて、特にチーム全体で取り組んでいる制御ソフ トウェアやサンプルホルダーなどの共通化活動、共 有の付帯設備の整備状況について概説した。本取り 組みによって、ユーザーが装置ごとの仕様の違いに 煩わされることなく、最適な測定手法を選定して効 率的な実験が行える環境の構築を目指している。今 後は、装置間でのラウンドロビン活動などを通じて、 エネルギー軸や分解能、強度といったデータの信頼 SPring-8/SACLA/NanoTerasu 利用者情報/Vol.2 No.1 (2026 年 3月号) 19 ビームライン・加速器 性に関わる情報を蓄積・共有し、当チーム内におけ る HAXPES データの質的な向上にも取り組んでい きたいと考えている。 謝辞 Web アプリケーション開発について、 JASRI 分光 ・ イメージング推進室 テクニカルスタッフの藤保様 に多大な御協力をいただきました。ここに深く御礼 申し上げます。 参考文献 [ 1 ] 保井 晃、髙木 康多 : SPring-8/SACLA 利用者 情報 26 (2021) 445-447. [ 2 ] 安野 聡、 Seo Okkyun 、髙木 康多、保井 晃 : SPring-8/SACLA 利用者情報 28 (2023) 434-438. [ 3 ] A. Yasui et al. : J. Synchrotron Rad. 30 (2023) 1013-1022. [ 4 ] S. Yauno et al. : J. Synchrotron Rad. 32 (2025) 1578-1585. [ 5 ] 三村 功次郎 他 : SPring-8/SACLA 利用者情報 28 (1) (2023) 12-18. [ 6 ] K. Maeda et al. : JPS Conf. Proc. 30 (2020) 011137. [ 7 ] 西原 克浩 他 : SPring-8/SACLA 利用研究成果 集 11 (2023) 259-267. [ 8 ] E. Ikenaga et al. : J. Electron Spectrosc. and Relat. Phenom. 190 (2013) 180-187. [ 9 ] Y. Shi et al. : ACS Nano 18 (2024) 9736-9745. [10] S, Yasuno et al. : Rev. Sci. Instrum , 94 , (2023) 115113 [11] Oh, S et al. : Chemical Engineering Journal 500 (2024) 157106. [12] H. Shin et al. : A CS Appl. Mater. Interfaces 17 (2025) 1499–1508 [13] N. Ochi et al. : J. Phys. Chem. C 129 (2025) 20583-20592. [14] K. Nakajima et al. : J. Phys. Conf. Ser. 2380 (2022) 012101. [15] A. Yasui et al. : SPring-8/SACLA Annual Report FY 2023 (2024) 33-35. [16] 保井 晃 他 : SPring-8/SACLA/NanoTerasu 利者 情 1 (2) (2025) 126-131 安野 聡 YASUNO Satoshi (公財)高輝度光科学研究センター 分光・イメージング推進室 〒 679 - 5198 兵庫県佐用郡佐用町光都 1 - 1 - 1 TEL : 0791 - 58 - 0833 e-mail : yasuno@spring 8 .or.jp 保井 晃 YASUI Akira (公財)高輝度光科学研究センター 分光・イメージング推進室 〒 679 - 5198 兵庫県佐用郡佐用町光都 1 - 1 - 1 TEL : 0791 - 58 - 0833 e-mail : a-yasui@spring 8 .or.jp 高木 康多 TAKAGI Yasumasa (公財)高輝度光科学研究センター 分光・イメージング推進室 〒 679 - 5198 兵庫県佐用郡佐用町光都 1 - 1 - 1 TEL : 0791 - 58 - 0833 e-mail : ytakagi@spring 8 .or.jp ソ オッキュン SEO Okkyun (公財)高輝度光科学研究センター 分光・イメージング推進室 〒 679 - 5198 兵庫県佐用郡佐用町光都 1 - 1 - 1 TEL : 0791 - 58 - 0833 e-mail : seo.okkyun@spring 8 .or.jp 唐 佳藝 TANG Jiayi (公財)高輝度光科学研究センター 分光・イメージング推進室 〒 679 - 5198 兵庫県佐用郡佐用町光都 1 - 1 - 1 TEL : 0791 - 58 - 0833 e-mail : jiayi.tang@spring 8 .or.jp 20 SPring-8/SACLA/NanoTerasu Information /Vol.2 No.1 MARCH 2026 BEAMLINES・ACCELERATORS