第11回大型実験施設とスーパーコンピュータとの連携利用シンポジウム報告
Report on the 11th Symposium for Cooperative Use of Quantum Beam Facilities and Super Computer
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所属機関 Affiliation
(公財)高輝度光科学研究センター 産学総合支援室
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公益財団法人高輝度光科学研究センター 産学総合支援室 佐 藤 眞 直 第 11 回大型実験施設とスーパーコンピュータとの 連携利用シンポジウム報告 1.はじめに 10 月 17 日に東京・秋葉原の UDX NEXT ‒ 1,2 にお ける現地開催とオンラインのハイブリッド形式にて 開催した「大型実験施設とスーパーコンピュータと の連携利用シンポジウム」について報告する。 本シンポジウムは、 SPring-8/SACLA/NanoTerasu 、 J-PARC MLF といった大型実験施設と「富岳 / 京」 をはじめとするスーパーコンピュータとの連携利用 によって新たな研究成果を生み出すことを目指し、 実験計測と計算科学の研究者が集う場として 2014 年 よ り、 放 射 光 施 設 SPring-8/SACLA/NanoTerasu の登録機関である (公財) 高輝度光科学研究センター ( JASRI ) 、中性子施設 J-PARC MLF の登録機関で ある(一財)総合科学研究機構( CROSS ) 、それか ら高速電子計算機施設 「富岳」 の登録機関である (一 財)高度情報科学技術研究機構( RIST )の 3 者の共 同主催で開催されてきた。その内容としては、これ ら先端大型研究施設の連携活用による利用成果の深 化が期待される研究分野をテーマとして掲げ、その 分野のトピックスに取り組む研究者による講演会を 行い、施設間連携活用の可能性について議論を行っ てきた。第 11 回を迎える今回は、持続可能な社会 の実現と安全・安心なインフラ構築に不可欠な「構 造材料」をテーマとし、 6 名の講師の方にご講演い ただいた。参加者総数は 150 名であり、その所属内 訳は、 企業 47 名、 大学 19 名、 国立研究開発法人 11 名、 財団法人 60 名、行政 8 名、その他 5 名であった。ま た、上記参加者のうちオンラインでの参加は 86 名 であった。 プログラムは以下の五つのセッションの構成で あった。 第 1 セッション:施設と登録機関の現状 (開会挨 拶、施設と登録機関の紹介) 第 2 セッション:構造材料研究における量子ビー ムと計算機の利活用 第 3 セッション:マルチスケールシミュレーショ ンを用いた材料設計 第 4 セッション:放射光・中性子を利用した構造 材料の評価 第 5 セッション:ポスター展示 以下に詳細を記す。 2.開会挨拶および第 1セッション:施設と登録機関 の現状 まず、主催者を代表して JASRI の中川 敦史理事 長および CROSS の横溝 英明理事長から開会の挨拶 がなされた後、文部科学省の伊藤有佳子参事官補佐 から挨拶があり、その中で本シンポジウムが取り扱 う先端大型研究施設の連携利用は、現在策定に向け た議論が進められている次期の第 7 期科学技術・イ ノベーション基本計画の「研究力の強化」 、 「人材育 成」 、 「イノベーション力の向上」 、 「経済安全保障と の連携」といった主要な柱に貢献する重要な取り組 みであることをコメントいただいた。 写真 1 講演会場の様子 (文部科学省 伊藤参事官補佐 ご挨拶) 研究会等報告 2 8 SPring-8/SACLA/NanoTerasu Information /Vol.2 No.1 MARCH 2026 続 い て、 JASRI の 久 保 田 康 成 利 用 推 進 部 長、 CROSS の 松 浦 直 人 研 究 開 発 部 長、 RIST の 齊 藤 哲 産業利用推進部長から、それぞれの機関が利用 促 進 業 務 を 担 当 す る SPring-8/SACLA/NanoTerasu 、 J-PARC 、富岳・ HPCI の施設紹介(運転状況、利用 状況、利用制度、等)が行われた。 3.第2セッション : 構造材料研究における量子ビー ムと計算機の利活用 第 2 セッションでは、金属の構造材料への量子 ビーム、計算科学の相補的活用に関する活用事例紹 介に関する講演が 2 件行われた。 1 件目は、茨城大学の友田 陽 名誉教授から、大 型の国家プロジェクトによって牽引された近年の金 属構造材料の強度・変形特性(機械特性)の制御 を目指した研究のトレンドについて講演いただい た。国家プロジェクトの例として、自動車軽量化を 目指した革新的新構造材料研究開発、航空機産業へ の貢献を目指した SIP (戦略的イノベーション創造 プログラム) 、構造材料の機械特性の基礎学理の追 究を目指した元素戦略プロジェクトの構造材料研究 拠点を取り上げられ、その中で、 「材料創製」 、 「実 験・解析」 、 「計算科学」の 3 者が緊密に協力し合う 三位一体のアプローチが、日本の金属構造材料研究 における標準的なスタイルとして確立されたことが 紹介された。このスタイルによって進められた、計 算科学による金属材料の機械特性予測の実現を目 的とする機械特性の発現メカニズムの研究におい て、そのメカニズムの主要因となる金属組織に生じ る現象(格子歪み、転位密度、結晶粒径、集合組織、 等)を評価する強力なツールとして量子ビームによ る回折測定実験が機能することを、前述の国家プロ ジェクトで取り組まれた研究事例を用いて説明され た。これにより金属構造材料研究における放射光・ 中性子の量子ビームによる実験技術と計算科学の相 補的連携の重要性を示された。さらに今後の展望と して、計算科学による機械特性予測について「ある 組織から特性を予測する」順解析は可能になりつつ あるが、 「望ましい特性を持つための組織設計を予 測する」という逆解析は解が一意に定まらないため 非常に難しく、その解の候補を効率的に探索するた めに大規模データベースの構築が重要となるであろ うことが説明された。 2 件目は、日本原子力研究開発機構の菖蒲 敬久 先生から、金属組織に生じる格子歪みの回折測定に よる評価技術の具体例として、放射光と中性子それ ぞれの特徴および両者の相補利用による利点につい て講演いただいた。まず中性子応用の特徴として、 その材料に対する高い透過能を活用して実機に近い 大型構造材料の内部応力分布の非破壊測定が可能で ある点を挙げて、その実例としてコンクリート建造 物の耐震補強などに用いられる後施工アンカーの内 部応力分布の評価事例が紹介された。次に放射光応 用の特徴として、高輝度光源による高速・高空間分 解能測定が可能である点を挙げて、その実例として レーザーピーニングによる表面改質材の表面近傍の 残留応力分布の高空間分解能測定の事例や、レー ザー溶接材の高温引張下での溶接部近傍の歪み分布 変化のその場測定の事例が紹介された。さらに中性 子の材料深部測定能と放射光の高空間分解能を組み 合わせて相補的に活用した事例として、放射光・中 性子相補活用による自動車のクランクシャフト部品 内部全体の高精細な応力分布の評価に成功した事例 が紹介された。 4.第 3セッション:マルチスケールシミュレーション を用いた材料設計 第 3 セッションでは、構造材料研究に計算科学に よるシミュレーションを主力的に活用した事例を紹 介する講演が 2 件行われた。 写真 2 講演会場の様子 (茨城大学 友田先生 ご講演) WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT SPring-8/SACLA/NanoTerasu 利用者情報/Vol.2 No.1 (2026 年 3月号) 2 9 1 件目は、慶應義塾大学の村松 眞由 先生から、 ナノ多結晶金属が示す特異な機械特性のメカニズム 解明を目的としたシミュレーション技術開発の研究 成果についてご講演いただいた。このナノ多結晶金 属は、高強度でありながら比較的高延性を示すとい う特異な機械特性を示す。このメカニズムの仮説と して、塑性変形を主として担う「転位」が微細化さ れた結晶粒内に入りにくくなって変形が阻害される 高強度化のメカニズムに対し、変形の代替メカニズ ムとして結晶構造が部分的に変化する「双晶」が機 能しているのではないかという説が提唱されてお り、この検証をシミュレーションで行うことが課題 となっている。この「転位」や「双晶」のような結 晶欠陥の発生・進展といった原子レベルの現象を再 現するシミュレーション手法としては分子動力学 ( MD )が多用されるが、構造材料が経験するマク ロな変形下の応力状態を再現することは難しい。そ のため、その問題を解決する手法として、マクロ な変形を連続体力学スケールの有限要素法( FEM ) でモデル化し、結晶欠陥を MD シミュレーションで モデル化して両者を連結するマルチスケールシミュ レーション手法を開発された。講演ではその連結に 必要な FEM-MD 間の情報伝達の工夫や想定される 大規模解析を可能にするための計算コスト削減の工 夫について説明され、この手法の意義として局所的 な単純な現象解明であればミクロ単独の MD で十分 な場合もあるが、不均一な変形状態が想定される現 実の構造物を扱う場合、有効であると示された。 2 件目は、住友ゴム工業株式会社の内藤 正登 先生 から、同社の次世代タイヤ開発研究におけるマルチ スケールシミュレーションの活用成果についてご講 演いただいた。講演では、相反関係にあるタイヤの 3 つの主要性能(グリップ性能、転がり抵抗、耐摩 耗性能)をそれらの相反関係を克服して全体的にバ ランスよく向上させうるタイヤゴム材料設計指針を 得ることを目的とした、ゴム材料の内部構造と性能 の相関解明へのコンピュータシミュレーションの応 用について紹介された。シミュレーション手法とし ては、複合材料であるゴム材料の階層的な内部構造 で起こる現象が時空間的に広いスケールにまたがる ため、そのスケールに応じて複数のシミュレーショ ン手法(量子化学計算、全原子 MD 、粗視化 MD 、 FEM 、等)を組み合わせて使い分ける「マルチス ケールシミュレーション」を活用された。その事例 として転がり抵抗の原因となるエネルギーロスが発 生するゴム内部構造の部位の予測、タイヤ摩耗の破 壊プロセスのシミュレーション、環境に応じて分子 ネットワークを変化させて機械特性(硬さ)を変化 させるタイヤゴム材料の開発への応用成果が説明さ れ、特に最後の事例は同社の次世代タイヤ技術「ア クティブトレッド」の開発に繋がったことが紹介さ れた。 5.第 4 セッション:放射光・中性子を利用した構造 材料の評価 第 4 セッションでは、放射光・中性子の量子ビー ム分析技術を用いた構造材料研究事例を紹介する講 演が 2 件行われた。 1 件目は、京都大学の今井 友也 先生から、生物 系の構造材料であるセルロース合成プロセスの検討 への放射光小角 X 線散乱( SAXS )の応用について ご講演いただいた。講演の内容は、複数の結晶多形 を示すセルロースのうち最も高い結晶弾性率を示す 生物からしか合成されないセルロース I 型(繊維状 構造)について、その人工合成プロセスにつながる 形成過程のメカニズム解明を目指した研究事例が紹 介された。このメカニズムに関する知見を得るため に、酢酸菌から抽出した酵素によって人工的に合成 できる II 型(ボール状構造)の形成過程を SPring-8 BL40B2 における放射光 SAXS のその場測定で観察 写真 3 講演会場の様子 (住友ゴム工業株式会社 内藤先生 ご講演) 研究会等報告 30 SPring-8/SACLA/NanoTerasu Information /Vol.2 No.1 MARCH 2026 した結果、小さな素構造が形成される初期段階と その素構造が急激に集合し成長し始める第 2 段階が あることがわかり、この第 2 段階の無秩序な集合を 制御する機構がセルロース I 型を合成する酵素に備 わっていることが推定される知見を得られたことが 説明された。 2 件目は、秋山精鋼株式会社の西田 智 先生から 鉄鋼丸棒の引き抜き加工における残留応力解析への 中性子線回折と FEM シミュレーションの応用につ いてご講演いただいた。講演内容は構造材料メー カーである同社の引き抜き加工等の工程で製造した 構造用鋼が顧客先での加工時に変形・反り、精度低 下、割れなどの問題を生じるケースの対策として、 その原因と考えられる鋼材中の残留応力分布の評価 とその発生メカニズムの検討を茨城大学の西野研究 室との共同研究で実施した研究事例をご紹介いただ いた。引き抜き加工、矯正加工を施された丸棒鋼中 の残留応力分布の評価を J-PARC MLF の「匠」で 実施した結果、引き抜き加工で生じた残留応力分布 が矯正加工により低減する様子が確認され、その結 果を FEM シミュレーションと比較したところほぼ 実験結果を再現していることが確認された。この結 果を元にした日常的な品質保証へのフィードバック として、上記の結果から信頼性が保証された FEM シミュレーションと実験室 X 線回折装置を併用した 簡易評価法を考案されたことが紹介された。 6.閉会挨拶および第 5 セッション:ポスター展示 第 4 セッション終了後、主催者を代表して RIST 写真 4 講演会場の様子 (京都大学 今井先生 ご講演) の田島 保英理事長から閉会の挨拶がなされた。 その後、ポスター展示および意見交換の時間が持 たれた。このポスター展示は参加者の意見交換の機 会を増やすため、昼食休憩後にも時間が設けられ た。ポスターの内容としては、主催者である JASRI 、 CROSS 、 RIST からのそれぞれが利用促進業務を実 施する施設についての紹介の他、物質・材料研究機 構、茨城大学、三菱マテリアル株式会社、日本原子 力研究開発機構、産業技術総合研究所から、構造材 料に対して放射光・中性子・大型計算機を利用した 研究に関連する報告がなされた。その他、本年度は 新しい企画として株式会社 Quemix から同社が開発 した材料開発研究用のソフトウェアのデモンスト レーション展示が行われ、内容の充実を図った。そ の結果として、従来よりも盛況となり、活発な意見 交換が行われていた。 7.まとめ 今回、 「構造材料」という機能を主眼としたテー マ設定のもとで、構造材料として長い歴史を持つ金 属からタイヤゴムの有機材料や新しい生体由来材料 まで多様な材料研究事例を紹介でき、各々に対して 放射光、中性子、計算科学の組み合わせでその課題 に合わせた多角的なアプローチができることを示す ことができた。またその成果についても、学術的な 基礎研究から企業の事業への貢献まで幅広く活用で きることを紹介することができた。これにより、本 シンポジウムの目的である放射光、中性子、計算科 学の連携活用による研究成果の深化の可能性をア ピールし、これら先端大型研究施設の連携利用の検 写真 5 ポスター会場の様子 WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT SPring-8/SACLA/NanoTerasu 利用者情報/Vol.2 No.1 (2026 年 3月号) 3 1 討へのヒントを参加者に提供することは果たせたと 考える。 本企画の 3 登録機関の連携活動は、これまで連携 利用による研究成果の情報を発信する「種まき」を 行ってきたが、今後はより積極的な活動として、例 えば各機関が運用する共用施設の利用を実際に体験 する「研修会」等の開催などの具体的な利用を獲得 する「収穫」にシフトすることを検討している。 最後に、本シンポジウムの開催に際し、講師選定 や講師の先生方との交渉にあたっていただいた 3 登 録機関で構成されるプログラム委員の方々へメン バーのお名前を記して感謝を申し上げます。 (プログラム委員) 浅見 暁( RIST ) 、漆原 良昌( JASRI ) 、瀬戸 秀紀 ( CROSS ) 、筒井 智嗣 ( JASRI ) 、舟越 賢一 ( CROSS ) 、 吉澤 香奈子( RIST ) 佐藤 眞直 SATO Masugu (公財)高輝度光科学研究センター 産学総合支援室 〒 679 - 5198 兵庫県佐用郡佐用町光都 1 - 1 - 1 TEL : 0791 - 58 - 0924 e-mail : msato@spring 8 .or.jp 研究会等報告 32 SPring-8/SACLA/NanoTerasu Information /Vol.2 No.1 MARCH 2026