The 19th Conference of Asian Crystallographic Association 2025(AsCA2025) 報告
Report on The 19th Conference of the Asian Crystallographic Association 2025 (AsCA 2025)
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所属機関 Affiliation
(公財)高輝度光科学研究センター 回折・散乱推進室
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公益財団法人高輝度光科学研究センター 回折・散乱推進室 佐 々 木 俊 之 The 19th Conference of Asian Crystallographic Association 2025(AsCA2025)報告 1.はじめに ※生物科学分野の報告は、後半(水野氏)の記事 に記載しています。 2025 年 12 月 1 日~ 6 日にかけて、台湾の台北に て The 19th Conference of the Asian Crystallographic Association ( AsCA 2025 ) が 開 催 さ れ た。 AsCA は ア ジ ア・ オ セ ア ニ ア 地 域 に お け る 結 晶 学 お よ び構造科学の研究者が集う主要な国際会議であ り、 今 回 は「 Jointly hosted by Taiwan and Japan 」 と 銘 打 た れ、 台 湾 と 日 本 の 強 力 な パ ー ト ナ ー シップのもとで開催された点が大きな特徴であ る。組織委員長は、 National Synchrotron Radiation Research Center ( NSRRC ) の Chun-Jung Chen 教 授 と、 Japan Synchrotron Radiation Research Institute ( JASRI ) / 大 阪 大 学 の 中 川 敦 史 教 授 が 共 同 で 務 め、 両 国 の 結 晶 学 コ ミ ュ ニ テ ィ が 密 接 に 連 携 し た 運 営 が 行 わ れ た。 主 催 団 体 に は、 International Union of Crystallography Committee of R.O.C. 、 Taiwan Crystallographic Group 、 NSRRC 、 Taiwan Convention & Exhibition Association に 加 え、 日 本 結晶学会が名を連ねた。また、共催として台湾の最 高学術研究機関である Academia Sinica の Institute of Chemistry および Institute of Molecular Biology 、 The NCKU Center of Crystal Research 、 National Science and Technology Council などが名を連ね、現地の主 要な研究機関・行政機関が全面的にバックアップを 行う体制で開催された。開催地となった台北市は、 12 月でも温暖で過ごしやすく、会場となった Taipei International Convention Center ( TICC ) は、台北の ランドマークである台北 101 のすぐそばに位置して いる( 図 1 ) 。周辺は近代的な商業施設が立ち並ぶ 一方で、少し足を伸ばせば夜市などの台湾らしい活 気ある風景も楽しめるロケーションであった。日本 からのアクセスも非常に良く、時差もわずか 1 時間 であるため、多くの日本人研究者が参加していたの が印象的である。 図 1 台北 101 、 TICC 、および TICC の入口前に設置さ れた AsCA 2025 の看板 2.学会の内容 AsCA 2025 の参加者は世界 28 カ国・地域から 700 名を超える規模となった。国別の内訳としては、日 本からの参加者が最も多く約 250 名、次いで開催地 の台湾が約 200 名、韓国が約 130 名と続き、これら 3 カ国で全体の大部分を占めた。日本から多くの研 究者が渡航したことは、日台共同開催という本会議 研究会等報告 3 6 SPring-8/SACLA/NanoTerasu Information /Vol.2 No.1 MARCH 2026 の性質を如実に反映しており、国際会議でありなが らも日本と台湾のコミュニティが密接に融合した活 気ある大会となった。 日程構成としては、 12 月 1 日に Rigaku 、 Bruker 、 Dectris といった主要ハードウェアメーカーによる Pre-conference workshop が行われ、翌 2 日から 5 日 にかけてメインの学術セッションおよび各種イベ ントが実施された。また、会期後の 12 月 6 日には 台北会場にて Phenix 主催の Cryo-EM による構造解 析に関する workshop が開催されたほか、沖縄にて Post-conference workshop 「 Exploring new frontiers in electron microscopy-driven structural studies 」 もサテ ライト開催された。 12 月 2 日の Opening Ceremony では、まず組織委員 長を務める Chun-Jung Chen 教授( NSRRC )と中川 敦史教授( JASRI /大阪大学蛋白質研究所)が登壇 し、開催地である台湾と共同ホストである日本を代 表して歓迎の辞を述べた。続いて、 National Science and Technology Council ( NSTC )の Cheng-Wen Wu 大 臣、 IUCr ( 国 際 結 晶 学 連 合 ) 会 長 の Santiago Garcia-Granda 教 授( Oviedo University-CINN ) 、 そして AsCA 会長である栗栖源嗣教授(大阪大学 蛋白質研究所)による挨拶が順に行われた。式の 最後には、国立台湾大学の Distinguished Research Chair Professor ( Emeritus )である Yu Wang 氏によ る「 Tracing the journey of AsCA 」と題した講演が 行われた。講演では AsCA の創設から現在に至るま での歴史と発展の軌跡について紹介され、アジアに おける結晶学コミュニティの深化を共有する貴重な 機会となった。 学術講演と並行して行われた Social program も 非常に充実していた。 2 日の Opening Ceremony と Welcome Reception に続き、 3 日には若手研究者の 交流を促す Young Scientist Mixer が開催された。 4 日 に は、 バ ン ケ ッ ト 会 場 で あ る The Grand Hotel Taipei の名所 「 East Secret Passage 」 を見学するツアー が組まれた。その後の Conference Dinner とともに、 参加者は台湾の歴史と文化を堪能しつつ交流を深め た。最終日の 5 日には Closing Ceremony に加え、新 竹市の TPS ( Taiwan Photon Source )への施設見学 ツアーも実施された。 3.主な講演内容 本会議では、基礎から応用まで多岐にわたるセッ ションが設けられた。以下に、特に印象に残った講 演について報告する。 3 . 1 基調講演:数理による対称性の記述 M. L. A. N. De Las Peñas 教授(フ ィ リ ピ ン ・ Ateneo de Manila Univ. ) による Plenary Lecture 「 Mathematical approaches to symmetry in crystallography 」は、結晶 学の根幹である「対称性」を群論と離散幾何学の視 点から再考するものであった。教授は、ナノチュー ブなどの材料設計における対称性の重要性を説くと ともに、フィリピンの伝統的なバスケットの編み目 模様を結晶学的対称群で記述するユニークな例を紹 介した。数理科学が先端材料のみならず文化遺産の 解析にも応用できることを示し、その美しい模様で 聴衆の目を引いた。 3 . 2 マテリアルサイエンスセッション セッション「 Structural-properties relationship in materials ( MS4-6 ) 」や「 Materials for the future ( MS4-3 ) 」では、新たな解析手法や材料設計に関す る興味深い報告が相次いだ。 K. D. M. Harris 教 授( 英 国・ Cardiff Univ. ) は、 有機材料における「ディスオーダー」の解明に焦点 を当てた。 X 線回折などの回折法では空間・時間平 均構造しか得られないため、その乱れが静的なもの なのか動的なものなのかを区別することは困難であ る。 Harris 教授は、固体 NMR などの分光学的手法 や計算科学を相補的に組み合わせることでこれらを 明確に判別し、分子の動的挙動や局所構造を正しく 理解するアプローチの重要性を説いた。 ま た、 河 野 正 規 教 授( 東 京 科 学 大 学 ) は、 天 然 物 の 構 造 決 定 に 向 け た 新 た な Metal-Organic Frameworks ( MOF )の開発について報告した。従 来の結晶スポンジ法で課題であった分子サイズや安 定性の制限を克服するため、柔軟かつ相互作用部位 を持つ MOF を設計し、天然物の構造可視化を実現 した成果は、構造解析の適用範囲を大きく広げるも のであると感じた。 星野学教授(帝京大学)らは、トリボルミネッ WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT SPring-8/SACLA/NanoTerasu 利用者情報/Vol.2 No.1 (2026 年 3月号) 3 7 センス(機械的刺激による発光)の機構について、 Energy framework 解析を用いた構造化学的アプロー チから解明した事例を発表した。結晶の破壊面にお ける電荷分布に着目し、分子設計によって発光を制 御・再活性化できることを実証した点は非常に鮮や かであった。 ポスター発表においても興味深い報告があった。 D. V. Z. Manansala 氏( フ ィ リ ピ ン 大 ) ら は、 ア セトアミノフェンと亜鉛の共結晶化において、互 い の 貧 溶 媒・ 良 溶 媒 を 組 み 合 わ せ る「 Modified antisolvent 」法を用いた結晶化制御について報告し ており、難溶性薬物の物性改善に向けた実践的な知 見が得られた。 また、若手研究者を対象とした Rising Star Award ( Non-biology 部門)では、高原一真助教(兵庫県立 大学)と若狭優惟氏(立教大学)が受賞し、日本勢 の活躍が目立った。高原助教は、単分子磁石の合成 に有用な三脚型配位子の簡便な合成法、およびそれ を用いたランタノイドを含む多核錯体の合成と磁気 特性評価について報告した。結晶構造解析の結果で は、三脚型配位子の 1 つの脚が配位には関与してい ないという予想外かつ興味深い知見が得られてい た。若狭氏は、高反応性分子への保護基「嵩高いト リプチシル基( Trp* ) 」の導入による速度論的安定 化と、クリスタルエンジニアリング的アプローチに よる分子の結晶性向上戦略を示した。 Trp* は分子 の速度論的安定性を向上させるものの、溶解度およ び結晶性の低さが課題となり、構造解析が困難で あった。この問題を解決するため、各種長さのアル キル鎖をもつ新しい保護基「 RTrp* 」を導入し、分 子の溶解度と結晶性を劇的に向上させることに成功 していた。その他の Rising Star Session の発表では、 Kshitij Gurung 氏( Czech Academy of Sciences ) に よる、電子線回折( 3D ED/MicroED )を用いた複 数の結晶多形の発見に関する研究が目を引いた。有 機半導体 C6-BTBT において、試料の構造・相が粉 砕などの機械的刺激によって変化してしまうため、 透過型電子顕微鏡のグリッド上で直接結晶化させる というアプローチを行っていた。これは報告者がご く最近報告した研究とも類似しており、微細な結晶 多形研究において非常に有力な手法であるといえる。 3 . 3 キラリティと物理特性 「 Chirality: meeting point of crystallography, chemistry and topology ( MS3-1 ) 」のセッションでは、 桶谷龍成助教(大阪大学)らが、アキラル結晶へ のレーザー照射によるキラル結晶への転移( Chiral symmetry breaking )について報告した。光熱効果 により局所的な相転移を誘起し、照射位置を起点と してキラリティを制御できるという現象は、結晶 成長プロセス制御やキラル材料開発における新た な可能性を示すものであった。また、 3D ED の結 果を用いたキラリティの判別に関する報告もあっ た。 Tianyu Liu 氏( 東 北 大 学 ) ら は、 Dynamical refinement (動力学的回折理論に基づく精密化)に おいて、計算コストの高いフルパラメーターの最適 化を行わずとも、結晶の厚みの最適化のみでキラリ ティの判別が可能であることを示した。標準試料を 用いた検証により、 R-factor および z-score の比較か ら正しい絶対構造を低コストで決定できることを実 証しており、 3D ED による絶対構造決定のハイス ループット化に資する成果であった。 4.報告者の発表 報 告 者 は、 「 Synchrotron X-ray Diffraction for Micro-Crystals using a Software-Controlled Pick-up System at SPring-8 BL40XU 」というタイトルで、 粉末中の 1 粒の微小結晶からの高精度データ収集に 関するポスター発表を行った。具体的には、手で は取り扱いが困難な 10 μm 以下の極微小結晶のため の、顕微鏡と電動マニピュレータを組合わせたハン ドリングシステムの導入、およびこれを用いた結晶 ピックアップと SPring-8 の BL40XU (測定当時は高 フラックスビームライン、現: SAXS ID )での単 結晶 X 線構造解析の成果について報告した。質疑応 答では、実践的な質問が寄せられた。例えば、 「結 晶ハンドリングの際には上方からのカメラだけでな く、横方向からの視点( Side view )もあった方が 操作しやすいのではないか」という指摘や、 「わざ わざ結晶 1 粒を拾わずに、 Small-wedge synchrotron crystallography (多数の結晶から部分データを収集 し統合する手法)のように多数の結晶をマージする 手法を用いればよいのではないのか」といった本質 研究会等報告 3 8 SPring-8/SACLA/NanoTerasu Information /Vol.2 No.1 MARCH 2026 的な議論が交わされた。 5.おわりに 本稿では、 AsCA 2025 の概要と主な講演内容に ついて報告した。今回の学会を通じて、アジア地域 の結晶学コミュニティが着実に拡大し、基礎理論か ら最先端の応用、そして装置開発、 X 線だけでなく 電子線を用いた結晶構造解析、さらには AI の活用 に至るまで多岐にわたる研究が精力的に進められて いることを実感した。特に、日本と台湾の共同開催 という枠組みの中で、両国の研究者が親密に交流し、 次世代の研究・開発へ向けた議論を交わす姿は非常 に頼もしく感じられた。今後の AsCA も非常に楽し みである。 佐々木 俊之 SASAKI Toshiyuki (公財)高輝度光科学研究センター 図 2 微小結晶ハンドリングシステムの外観 (上) 、ピッ クアップした結晶の写真 (左) 、および擬プリセッ ションイメージ(右) 回折・散乱推進室 〒 679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都 1-1-1 TEL : 050-3502-3649 e-mail : toshiyuki.sasaki@spring8.or.jp WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT SPring-8/SACLA/NanoTerasu 利用者情報/Vol.2 No.1 (2026 年 3月号) 3 9 公益財団法人高輝度光科学研究センター 回折・散乱推進室 相関構造生物チーム 水 野 伸 宏 The 19th Conference of Asian Crystallographic Association 2025(AsCA2025)報告(生物科学分野) 1.はじめに 2025 年 12 月 1 日から 6 日にかけて、台湾・台北 にて第 19 回アジア結晶学連合会議( AsCA2025 )が 開催された。本会議は台湾結晶学会および日本結晶 学会の合同開催であり、共同議長として Chun-Jung Chen 氏( NSRRC :台湾国家放射光研究センター) と中川敦史氏( JASRI/ 大阪大学)の 2 氏が務めた。 会場となった Taipei International Convention Center ( TICC ) は、ランドマークである台北 101 にほど近く、 交通アクセスの良い立地であった。今回は日本結晶 学会年会としても開催されたことから、参加者は日 本からの約 250 名を筆頭に、開催地の台湾から約 200 名、全体では約 700 名が参加した。ポスター発表も 約 300 演題を数え、非常に活気ある会議となった。 た。本稿では主に生物科学分野において興味深かっ た発表やトピックについて報告する。 MS 1 - 2 Membrane protein structure : 膜タンパク質の構造解析に関する本セッション では、その成果のほとんどがクライオ電子顕微鏡 ( Cryo-EM )を用いたものであった。膜タンパク質 のような巨大な複合体分子は結晶化が困難である ため、今後は Cryo-EM を中心とした構造解析が主 流になると考えられる。 SPring-8 においてもすでに Cryo-EM の拠点が整備されており、今後のさらな る発展が期待される。 MS 1 - 3 Nucleic acid-protein assemblies : Haerang Hwang 氏( KAIST )からは、 Cryo-EM による時分割測定の発表があった。従来の試料作製 法では凍結に数十秒を要するため、短い時間スケー ルの構造変化を捉えることが困難であった。そこで Hwang 氏は、噴射ノズルを用いた高速混合デバイ スを新たに開発し、反応時間をミリ秒未満に短縮す ることで、より短い時間スケールでの構造可視化を 実現した。これは Cryo-EM の適用範囲を大きく広 げる成果となることが期待される。 MS 1 - 5 Integrative structural biology : 複数の分析技術を組み合わせ、機能を多角的に解 明する「統合構造生物学」のセッションである。古 川亜矢子氏(京都大学)は、核磁気共鳴( NMR ) 法、 X 線小角散乱( SAXS )法、サイズ排除クロマ トグラフィー多角度光散乱( SEC-MALS )法、粗 視化分子動力学シミュレーション( CGMD-SAXS ) 法など多彩な手法を用いた解析事例を紹介しており、 非常に興味深い内容であった。 また、山本雅貴氏 図 台北 101 の 101 階展望エリアより望む会場全景 2.講演内容 今回の会議では、物質科学分野と生物科学分野な どある程度テーマ毎に発表の部屋が分かれており、 目的となる発表を聞きにいきやすい会場構成であっ 研究会等報告 40 SPring-8/SACLA/NanoTerasu Information /Vol.2 No.1 MARCH 2026 (理化学研究所)からは、こうした異分野の手法を 有する拠点が連携し、解析支援を提供する「創薬等 先端技術支援基盤プラットフォーム( BINDS ) 」の 現状と成果について報告があった。研究者個人が単 独で扱える手法には限界があるため、本プロジェク トを通じて多角的な視点から分子を解析できること は、非常に有用な研究基盤である。私自身も本プロ ジェクトの支援の一端を担っており、今後も創薬研 究を支えるべく注力したいと考えている。 MS 1 - 6 AI-driven protein science : 近年急速に発展する AI 分野については、生物領 域でも 5 題の発表が行われた。特に Yong Ho Kim 氏 ( Sungkyunkwan University )は、蓄積された膨大な タンパク質の配列・構造データベースを学習した AI モデルを用い、特定の標的受容体に最適化した タンパク質設計が可能になりつつあることを報告し た。タンパク質デザインは創薬や化合物の大量生成 における大きな目標の一つであり、 AI 活用による 可能性の拡大を予感させるものであった。 MS 1 - 8 Time-resolved structural analysis of biomacromolecules : X 線自由電子レーザー( XFEL ) 、放射光、 Cryo- EM など様々な手法を用いた時分割構造解析に関 するセッションである。 Manuel Maestre-Reynal 氏 ( National Taiwan University )は、フェムト秒から ミリ秒に至る幅広い時間スケールでの構造変化を 追跡する手法を紹介した。 XFEL と放射光を融合し、 それぞれの時間分解能に適した現象を観察すること で構造変化の過程を追う試みは、タンパク質動態研 究の大きな進展に寄与すると思われる。 また、時 分割測定においては目的とする活性状態の構造を捉 えることが重要課題となるが、熊坂崇氏( JASRI ) からは、湿度制御により結晶内の構造状態を固定す る「 Humid-Air and Glue-coating Method ( HAG 法) 」 が紹介された他、海野昌喜氏(茨城大学)は、結晶 試料を異なる pH 溶液に浸透させ、異なる時間で急 速凍結することで、構造変化を追跡するなど、様々 な工夫が見られる興味深い発表であった。 Rising Star Session 1 - Biology : アジア地域の若手研究者を対象としたセッショ ンで、 5 題の発表が行われた。その中から、 Rising Star Award として、 Tsan-Jan Chen 氏( National Tsing Hua University )と石本直偉士氏の 2 氏が受賞した。 Chen 氏は、多くの種類の癌において発現が亢進す る酵素である Pyruvate kinase M2 ( PKM2 )につい て治療標的となりうる重要な分子であることを化合 物複合体との結晶構造解析などから示唆できること を報告した。また、石本氏は、 Cryo-EM を用いた細 菌の接合を仲介する繊毛の高分解能構造解析を行い、 従来の接合機構モデルと異なる新たな構造的知見を 与えるという非常に重要な研究成果を報告した。 Flash Talk /ポスターセッション: 今回はポスターセッション直前に、発表者が 3 分間で内容を説明する「 Flash Talk 」が設けられた。 要点を絞ってアピールすることで、その後のポス ター会場での議論が円滑に進む仕組みとなっており、 非常に有意義な試みであった。 報告者の発表: 報告者は「 Development of a fully automated in- situ diffraction measurement system at SPring-8 」 と 題し、口頭発表を行った。 SPring-8 の構造生物ビー ムラインでは、凍結結晶の測定自動化はすでに確立 されているが、さらなる高速化とビームタイムの有 効活用を目指し、 結晶化プレートのまま行う 「 in-situ 測定」の自動化システムを開発した。 本システム では、事前に記録したプレート内の結晶位置情報を もとにビームラインでの全自動測定を行う。その結 果、これまで 20 時間程度は必要だった 200 結晶の 測定を約 4 時間で完了するという大幅な高速化を実 現した。また、基質を含むトリプシン結晶約 20 個 のデータから、基質の電子密度取得に成功した事例 についても報告を行った。 3.おわりに 本会議は、アジア各国の研究者と対面で議論を交 わし、最新の技術動向を網羅的に把握する非常に貴 重な機会となった。特に Cryo-EM による構造解析 WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT SPring-8/SACLA/NanoTerasu 利用者情報/Vol.2 No.1 (2026 年 3月号) 4 1 が身近なものになり、 AI 技術が浸透してくるなど、 構造解析の手法が多様化する中で、異なる手法を組 み合わせる統合的なアプローチがより重要なものと なって来ており、構造解析分野の大きな変革期であ ることを強く実感した。最後に、本会議に参加する 機会を頂いた関係者の皆様に感謝の意を表する。 水野 伸宏 MIZUNO Nobuhiro (公財)高輝度光科学研究センター 回折・散乱推進室 相関構造生物チーム 〒 679 - 5198 兵庫県佐用郡佐用町光都 1 - 1 - 1 TEL : 050 - 3496 - 9082 e-mail : nmizuno@spring 8 .or.jp 研究会等報告 4 2 SPring-8/SACLA/NanoTerasu Information /Vol.2 No.1 MARCH 2026